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Plus Instruments “79/80”
君はPlus Instrumentsを知っているか? 蘭の前衛アーティストTruus de Groot (トゥルース・ド・グルート)が1978年に蘭の地方都市Eindhovenで活動開始したプロジェクト名のことで、+ Instrumentsとも表記されます。今回は、彼女の初期音源を纏めたアルバム”79/80”を紹介しようと思います。de Grootは、元々、1979年にNasmakと言うポストパンク・バンドのVoでした。その頃は、蘭でもパンクが勃興していましたので、Nasmakの立ち位置はニューウェーブと言ったところみたいです。それで、de Grootは、もっと実験的な音楽をソロでやっていきたいのと、蘭の小さな場でやっているよりも、もっと大きな場でやりたいと思っていました。その頃、彼女は名前をTruusからTrussに変えており、それでソロの時には、Truss + Instrumentsと言う名義を使っていました。その時には、壊れたシンセやハンドメイドの電子楽器等やkraakdoosと言う楽器などを使って、宅録でノイズ的音楽をやっています。彼女は、1979年に、BandT + Instruments名義で、Bregt Camphuijzenと共にシングル”Special Agreement”を出しており、まぁ、これが彼女のソロとしてのデビュー作品となります。彼女は、BritポップとWhite Noiseのアルバムと欧米間の感性を持ち合わせており、いわゆるガールズ・ポップと凶暴なエレクトロニクスの間の立ち位置でした。その後、1980年には、Truss + Instruments名義で、カセット作品”79/80”(同名異作)を自主制作で出しています。それで、先述の理由で、1980年11月に、米国NYCに渡り、Lee RanaldoやJames Sclavunos等のアーティストからの援助で活動しています。その中で、Lee Ranaldo (G)とRhys ChathamグループのDavid Linton (Drs)と共に、Plus Instrumentsの最初の国際的ラインナップとして、1981年に、アルバム”Februari - April '81”を出しています。このラインナップは6ヶ月弱しか続かないかったみたいで、その後、彼女は、米国のビートニックに興味を示し、Teenage JesusのJames SclavunosとGun Club/Panther BurnsのJim Duckworthと共に活動することになり、ツアーや録音等も行っていましたが、やがて、このメンツでの創造性は低下していきます。その後、リリースは暫く無くなりますが、本人は余り気にしていなかったようです。しかしながら、2011年に、de Grootのソロ名義Truus Plus Instrumentsとして新録のアルバム”Dance With Me”をリリース、その後、2013年には、Vinyl On Demandより、過去作品のセルフ・コンピ・アルバム”Exile In Paradise (1982 – 2011)”と新録のアルバム”Trancesonics”も出ています。
以上が、Plus Instrumentsのバイオグラフィーのあらましなのですが、今回、ご紹介するアルバム”79/80”は、Truus de Grootのソロ・プロジェクトPlus Instrumentsとしてのアルバムと言うことになります。彼女は、Korg MS-20 SynthとRhythm Box及びEcho Machine(これらは、彼女の友人Wally van Middendorpから借りた機材), Putney SynthとCrackle Synth (これらは彼女のメンターMichel Waisviszから借りたシンセ), G, プラスチック製のオモチャのG, Flute, TV, Organ, マイクを使っており、この頃は、The Shadow Ring, Throbbing Gristle, Wolf Eyes, Toleranceの間を埋めるのが、Plus Instrumentsと評されていました。内容ですが、両面7曲ずつですが、A1, A2, A5はワン・トラックで、A4, A6, B2-B4, B6, B7はピンポンで、A3, A7, B1, B5は4トラックでの録音となっています。また、先述の彼女の一番最初にリリースしたカセット作品”79/80”に収録されている曲(A1-A3, A6, A7, B1, B2, B7)も入っています。実は、de Grootは、1980年に、Nasmakのファンとして、わざわざ地方都市EindhovenにやってきたNigel Jacklinと知り合って、何時間も彼女のアパートで録音しており、それで制作したカセットを彼のレーベルAlien Brains Tape Catalogueから1980年に極少数リリースされていたらしいです。同時期、de Grootは、Amsterdamに上京して、メンターWaisviszにシンセを借りただけでなく、4チャンネルのオープンリールのあったSTEIMスタジオも使わせてもらう機会を得て、また、レーベルFriend and Plurexを運営していたMiddendorpにもKorgのシンセやリズムボックスやエコーも借りて、彼のアパートで録音をしていたそうです。そんな状況で録音された曲を今回、新たにセレクトし、コンパイルして、同じ”79/80”と言うアルバムとしてリリースに至ったとのことです。それでは、各曲を紹介していきましょう。
★A1 “Lucky Day” (6:40)は、ヘロヘロのテープに録音されたヘロヘロのリズムマシンとシンセ音に彼女の語り調のVoが被る曲で、時にハウリングも挿入される脱力ポップ⁈
★A2 “How?” (4:29)では、複数のシンセの音が重なり合い、そこに、女性Voやらチープなリズムマシンやらシンセ音やらが被ってきます。音質は悪いけども、懐かしき1980年代初頭の音楽ですね。
★A3 “Herhalingen” (1:53)では、単調なキックに、テープ音やエコー処理音或いはシンセ音等が被ってきて、すぐにリズムは無くなります。
★A4 “True Love Stallion” (1:59)も、ハウリング音とシンセ音それに通奏低成るノンビートな小曲ですが、後半にワルツのリズムが聴取できます。
★A5 “Ectr“ (1:58)は、不明瞭なテープ処理から始まり、これまた不明瞭なリズムマシンと語り調Voやら電子音やらが絡む小曲です。
★A6 “Improv 1” (1:26)は、グルグルなシンセの単音弾きからガチャガチャした電子音へ繋がっていく曲です。
★A7 “Dance” (3:13)も、不明瞭なリズムマシンとパルス音に、自由に歌う女性Voと(本当に)適当なGが合わせる曲で、最後にGをボロンボロン弾いて終わります。
★B1 “Music-Zak” (5:18)は、単調なリズムマシンと背景の緩やかなシンセ音から成るミニマル曲で、次第にオルガン等の音も増えていくのですが、虚無感が凄い!
★B2 “So” (2:31)は、強迫的になっていくアップテンポのリズムマシンと自在な女性Voに、電子音がバックで暴れている曲で、焦燥感を煽ります。
★B3 “Improv 2” (4:23)は、体操のような女性Voとオルガン(?)の不協和音から成るビートレスな曲で、何とも言えない不安とか不条理を感じます。
★B4 “Drama” (2:25)は、可愛らしいリズムマシンと割と明確なシンセによるメロディと時折入る男性Voから成る曲で、作品中、最も「楽曲」らしいです。
★B5 “O Ja” (1:08)は、シンセのパルス的な音によるリズムと多重録音された女性Voから成る曲です。
★B6 “Mountain” (3:07)は、背後のヤバそうな雰囲気の中、きつ目のリズムマシンが鳴り響く曲で、リズミックですが、ダンサブルではないです。
★B7 “Stratangle” (1:59)は、チョコマカしたリズムマシン及びバックの電子音と、リズムのズレた女性コーラス(多分多重録音による)が被る小曲です。
まあ、録音方法もモノラル一発録りから4チャンネルの多重録音までがあるので、仕上がりも曲毎で大きく異なっていますが、一貫して、ポップ・ミュージックの文法から外れてしまう感覚が彼女の中にあって、その逸脱振りが非常に興味深いです。シンセの音も篭り気味だし、リズムマシンもチープだし、それだとしても、余りある程の魅力的な曲が並んでいます。とにかく面白いので、一度体験してもらうのがよろしいかと!
A2 “How?”
https://youtu.be/e6BOSi0M860?si=nG39yt5tSehbAZwY
A3 “Herhalingen”
https://youtu.be/cN7oJxYD2To?si=tXP-w02qC1nL0SVn
A7 “Dance”
https://youtu.be/2vRWeZtkdT4?si=X88-2LjTy1RUZ91l
[BandcampのURLを貼っておきます]
https://plusinstruments.bandcamp.com/album/79-80
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