ポール・マッカートニー 2013年11月18日 東京ドーム

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それまで何十年も金科玉条の如く信奉しつづけていた対象が一夜にして覆された経験はおありでしょうか。私の個人的な音楽体験でいいますと、まさにこの日の夜、日本ではいまや誰も顧みなくなってしまった古いアメリカのバンドの音楽が、この人の一曲目、しかも何十年もの間聴いて来きたはずの一曲目「エイト・デイズ・ア・ウィーク」で雲散霧消してしまいました。1945年8月15日の日本人の衝撃に等しい。笑。勝手に魂が幽体離脱して大気圏を突き抜けていってしまった、そんな信じがたい高揚感に包まれ、「なんなんだこの人は」の連続。さんざん聴き続けてきて、今さらいちいち感動なんかできるかと思っている曲の連続に、なんの理由もなくいちいち落涙している自分に気づくわけです。右隣のお父さんなんかもう席に座り込んで泣き崩れているし。何十年、私は回り道をしてきたのだろう、ああそうか、結局、ビートルズが結論だったんだと確信しました。五万人余の人びとが、ポールを聴きに行ったんじゃない。ポールが、五万人余の人生の報告を受けに来たのだと思ったものです。ひとりひとりが、己の半生を、もちろんこの人の音楽を人生のBGMとして生きてきたその生きざまを、ポールに知らせに集まった夜でした。私はそんな風に思いました。

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