2019 ウィーン美術史美術館

初版 2022/06/20 07:45

改訂 2023/11/02 11:09

先日、フェルメールの絵が地元にやってきたので見に行きました。とても良い絵だったのですが、以前彼の絵を見に行ったことを思い出し、その時のことを書くことにしました。

2019年6月にウィーンに行きました。2000年に父親を連れて行って以来の訪問です。コロナも全くなくみんな元気に街を闊歩していて、ほんの少し前なのにずいぶん昔の様に思えます。私にはどうしてももう一度行ってみたい場所、「ウィーン美術史美術館」がありました。2000年の旅行の際にも行ったのですが、父の足の具合が今一つだったので後ろ髪を引かれる思いで早々にホテルに戻った記憶があります。

まずアルベルティ―ナへ

美術史美術館に行く前に「アルベルティ―ナ」に行きました。ここには印象派の名作もありますが、7万近い素描と100万の版画を所蔵しており、「スケッチの殿堂」と呼ぶに相応しい美術館です。父と一緒の時には行けなかったところです。

第二次世界大戦で連合国の爆撃を受け、アルベルティ―ナの建物は激しく損傷を受けましたが、現在は修復されて美しい建物になっています。所蔵作品が膨大なので、早速作品を見て回ります。

世界一美しい雑草、デューラー作「芝」です。近くで見ても驚くような正確さで描かれています。ただ、デューラーのスケッチの恐るべき実力が、油彩ではあまり発揮できていないような気がすることがあります。

アルベルティ―ナの広告に必ず出てくるデューラーの「野兎」です。こちらもおそらく世界一有名な兎です。

デューラーの「祈り手」です。ハイライトの使い方が絶妙です。

「書斎の聖ヒエロニムス」です。

ルーベンスの息子を描いたスケッチです。

こちらもルーベンス作。本人の性格まではっきり伝ってくるような絵です。

ミケランジェロのスケッチですが、やはりここでも彼の「筋肉袋」は健在です(笑)。

ウィーン美術史美術館へ

ここから歩いて数分、美術史美術館に向かいます。当日は金曜日でしたので、夜8時まで鑑賞できます。

美術史美術館の建物です。1891年と比較的新しい建築ですが、やや重く古めかしい印象があります。向かいの自然史博物館と全く同じデザインです。早速館内に入ります。

エントランスを入るとこの大階段がまず入場者を圧倒します。ただならぬ豪華さですが、このホールで観覧する人の気分が高揚することは間違いないと思います。

大階段中央の「テセウス群像」です。ナポレオンが注文した彫刻です。

テセウス像の上から美術館入り口をみるとこんな感じです。

奥の壁画の女性二人の絵は若きクリムトの手によるものです。

さてこの美術館は世界でも指折りのコレクションを持っていますが、美術史美術館が何といっても素晴らしいのは「混んでいない」ということです。これは美術鑑賞をするうえで最も大切なことだと私は思っています。ルーブルやオルセー、ウフツィ美術館では入場するだけで大変で、わりと空いていると言われるプラド美術館でも、絵を見るまでにそれなりに時間が掛かるようです。美術史美術館は年間70-80万人の入場者がありますが、これを一日に換算しますと1920~2200人前後、この広大な美術館の面積を考えるとびっくりするほどの少なさで、人が密集することが考えづらい人数です。ハイシーズンでは多少これより混み合うこともあるかもしれません。私の行ったのは6月下旬ですから、それなりにウィーンも観光客で混んでいるシーズンだったと思われます。閑散とは言いませんが、人気の絵の前でさえ多くても3-4人くらいしか人がいませんでした。

「絵画だけを見るなら1.5-2時間は必要」などと言っているガイドブックがありますが、とんでもない話です。絵をほとんど見ないでオリエンテーリングのように展示室を歩くだけでも2時間はぎりぎりでしょう。絵の質、量とも気が遠くなるほどで、絵が好きな人なら一日中居てもとても足りません。私は二日通いました。

ルカ・ジョルダーノの「大天使ミカエルと反逆天使」の前もこの状態です。そして・・・・

ラファエロの名作の前でもほとんど人がいません。

彼の代表作「草原の聖母」です。

「バベルの塔」の前も‥‥

ブリューゲルの傑作の前にも誰もいない。驚きの光景です。ちなみに三脚、フラッシュなしなら写真撮影はどの絵も自由です。

日本にもやってきたデューラーの「若いヴェネツィアの貴婦人」です。

私の大好きなフランス・ハルスの「若い男の肖像」です。

ジョルジョーネの「ラウラ」。彼の署名と製作年が書かれた唯一の作品です。

一番見たかったフェルメールの『絵画芸術の寓意』です。2000年訪問のときもこの絵だけは見に行きました。あらゆる意味で彼の最高傑作だと思います。絵の中も物音もなく静か、その絵の置かれている環境も静か。気のすむまで堪能出来ます。

しかし、今回の訪問で一番感激したのはこの彫刻でした。

アフロディーテ。2000年も前の彫刻です。ほとんど紹介されない作品ですが、自分だけのお気に入りの作品が見つけられるのも、美術館探訪の大きな魅力ですね。

途中、いつでもこのカフェ(「世界一美しいカフェ」と言われています)でお茶を飲んで休むことが出来ます。

美術館の外はいかつい姿ですが、天井からは自然光が燦々と照り付け、館内はとても気持ちがいい空間です。またいつかこの美術館に行ける日が来るといいなと思います。

#思い出

1990年3月に行ったロンドンで、初めてエドワードグリーンのドーバーを購入しました。以来、ここの靴の虜になりました。質の良いしっとりとしたカーフ、美しい木型、無い物ねだりと分かりながら、この時代のエドワードグリーンの靴を今も追い求めてしまいます。
他に古い靴も修理して履いています。特に戦前の英国靴は素晴らしいと実感しています。

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    ts-r32

    2022/06/20 - 編集済み

    ウィーン美術史美術館、いいですね~!
    確かブリューゲルの作品数は世界最大なんですよね。
    私は1984年に国立西洋美術館で「ウィーン美術史美術館展」を観ましたが、やはり現地に行って観ると、コレクションの素晴らしさとともに、ハプスブルク家の強大な勢力を直に感じられるのでしょうね!
    美術館内部の貴重な写真、ありがとうございます。

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      グリーン参る

      2022/06/20

      ts-r32さん、
      コメントありがとうございます。
      その実力の割にあまり有名でないのがこの美術館だと思います。
      おっしゃるとおりブリューゲルの名作とここで出会えます。好き嫌いはあるかもしれませんが、アーチンボルトのコレクションも充実しています。
      絵画はもちろん素晴らしいのですが、メソポタミア、エジプトの彫刻なども充実しています。コインの蒐集は世界一かもしれないので、興味のある方にはたまらないところかと思います。

      空いているということだけで、何倍も密度の濃い鑑賞が出来ました。ティントレットの絵の前にも誰もいませんでした。東博の特別展に行っても、もはや鑑賞とは言えない「イモ洗い」状態なのは、何とかならないものかと思ってしまいます(笑)。

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      グリーン参る

      2022/06/20 - 編集済み

      あまり関係ないお話ですが、NHKの『びじゅチューン』のデューラー「1500年のオーディション」は井上さんの傑作です。「私の観客は私です。」まさにナルシストの面目躍如です。

      デューラーのモノグラムの付いたノートパソコンは絶対欲しいです!

      https://www2.nhk.or.jp/learning/video/?das_id=D0024010196_00000

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      グリーン参る

      2022/06/20

      びじゅチューン、こっちの方がいいかもしれません。合間の語りが絶品です。

      https://www.nicovideo.jp/watch/sm32198761

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      ts-r32

      2022/06/20

      これは面白いですね!👍✨

      私は、1498年の『自画像』をプラド美術館で観ました。
      他に、『アダムとイヴ』と『男の肖像』があったと思います。

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      グリーン参る

      2022/06/20

      プラド美術館、素晴らしい美術館ですよね。ベラスケスだけでお腹いっぱいになれます。

      26歳の自画像をご覧になったのですね。ハブスブルグ家の関係でプラドのデューラーの作品も多いのでしょうか。
      ヒエロニムス・ボスの『快楽の園』の前は、いつもたくさんのニヤニヤしたおじさんたちで溢れ、家内が白い目をして「全く男ときたら…」と呆れていて同性として肩身の狭い思いをしました(苦笑)。

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      ts-r32

      2022/06/20

      プラド美術館は、やはり、エル・グレコ、ベラスケス、ゴヤの作品が多かったですね。トレドにも行きましたが、エル・グレコの作品がたくさん観られたのはよかったです。

      井上さんの「1500年のオーディション」は当然ながら28歳の自画像に似ていますね😊

      ヒエロニムス・ボスの『快楽の園』は、一瞬シュルレアリスムかと思うような異様で奇怪な雰囲気に圧倒された記憶が。

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      グリーン参る

      2022/06/20

      ソドムの市のような…

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      ts-r32

      2022/06/20

      ですね。
      パゾリーニの同名の映画は、とても観る気になれませんでした。

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      グリーン参る

      2022/06/20

      エル・グレコはトレド大聖堂で見ましたが、サント・トメ教会の閉館時間を間違え、『オルガス伯爵の埋葬』を見逃す大失態を演じました。かえすがえすも残念です。
      プラドのゴヤ、「マドリード、1808年5月3日」心臓が止まりそうでした。

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      ts-r32

      2022/06/20

      ピカソの『ゲルニカ』にも影響を与えたとされていますが、わかる気がしますね。

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      グリーン参る

      2022/06/20

      マネの淡白な銃殺シーンに比べて、「止めろ!」と叫ばずにいられないような圧倒的な臨場感でした。
      ピカソが影響を受けたのですか。納得します。

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    mjmat

    2022/06/20 - 編集済み

    ハルスの「若い男の肖像」,僕も本物を見てみたいです!

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      グリーン参る

      2022/06/20

      この若者、17世紀のビル・パクストンって感じですね。ハルスの作品はあまり多くありませんが、どれも素晴らしい肖像画で、私はいつも惹き付けられます。

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      グリーン参る

      2022/06/20

      二十数年前にロンドンで見たハルスのこの絵をいまだに強烈に覚えています。

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      ts-r32

      2022/06/20

      ロンドンのナショナル・ギャラリーですね。
      私も30数年前に行きました。
      デューラーの『画家の父』もありましたね。

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      mjmat

      2022/06/20

       しゃれこうべなんか持って,ちょっとこちら側(鑑賞者)をぎょっとさせたかったのでしょうか。この時代の絵描きも,我々と同じ感性をもって筆を持っていたのだと思うと,親近感を感じます。
       色数やバックの禁欲的なシンプルさにあこがれます。

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      グリーン参る

      2022/06/21 - 編集済み

      ナショナル・ギャラリーは、「少年が持っている頭蓋骨は人生のはかなさと死の確実性を意味している」と説明しています。

      写真のガイドブックはエリカ・ラングミュアの著作ですが、このハルスの絵を含め、代表作を分かりやすく見事な解説をしています。私はこの本を読んでからナショナルギャラリーに行くべきだったと思っています。
      是非お読みになって下さい。

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      ts-r32

      2022/06/21

      読むとまた行きたくなるかもですね!

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      グリーン参る

      2022/06/21

      また行きたい、ホントにそう思います。

      ナショナルギャラリーはもちろん素晴らしい美術館ですが、ふらりと寄ったコートールド・ギャラリーがとても魅力的なところでした。1992年当時、あのロンドン中どこでも知っているタクシーの運転手さんでさえ、この美術館のことを知りませんでした。上品な邸宅の中に絵が展示され、地下のカフェのケーキも抜群に美味しかったです。
      テートギャラリーがあまり印象に残っていないのと対照的です。

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    トルネコ

    2022/06/20 - 編集済み

    素晴らしい美術館ですね。国内では、レプリカの展示にはなるのですが徳島にある『大塚国際美術館』が西洋名画約1,000点、鑑賞ルート約4kmと見応えが有りました。

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      グリーン参る

      2022/06/21

      トルネコさん
      コメントありがとうございます。ウィーン美術史美術館は日本ではあまり中身を知られていないような気がします。これだけ自由自在に展示室を移動でき、その絵の前に30分立っていても誰にも邪魔されない美術館を私は知りません。このファンエイクの絵の部屋に15分以上いましたが、誰にも会いませんでした。

      大塚国際美術館、行かれたのですね。世界中の名画があるそうですね。バックヤード、先日放送していて惹き付けられました。いつか行ってみたいです。

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