1000年の宿 ~ カルドナ パラドール

初版 2022/06/25 00:21

改訂 2024/04/07 21:53

今となっては懐かしい思い出ですが、2018年にバルセロナに行きました。バルセロナももちろん回ったのですが、その際に近郊のカルドナという街に行きました。たった一日の宿泊だったのですが、宿泊したホテルが1000年以上前から建つ古城で、とても印象深い旅になりました。

カルドナはバルセロナから90キロ少々、バスで1時間半程のところにある小さな町です。この町では紀元前2500年頃から塩の採掘がおこなわれていました。ザルツブルグもそうですが、塩を持つということは町が力を持つということに繋がるようです。

高台から見たカルドナの町です。落ち着いた古い町並みが広がっています。

バス停留所は丘のずっと下にあります。これはそこから坂を上って高台のホテルに向かっている途中で撮った写真です。勾配が結構きつく、暑さのせいもあってかなり疲れました。遠くに塩田の跡が見られます。現在塩鉱山は閉鎖されています。

大地の上が塩を吹いて真っ白になっているのが見えます。

南に目を向けると手前の稜線の奥にモンセラットの山々が見えます。

この日は北の遥か遠くにはピレネー山脈を見ることができました。

パラドール

ご存知の方も多いと思いますが、スペインには歴史的建造物を再生し、観光客を宿泊させる「パラドール」という施設があります。スペイン全国には100前後のパラドールが存在します。この中でサンチャゴ・デ・コンポステーラ、トレド、レオン、コルドバ、ロンダなどが特に人気のあるパラドールですが、それらと並び人気のあるのがこのカルドナのパラドールです。

スペインはイタリアに次いで世界遺産の多い国ですから「歴史的建造物」は山ほどあり、上のようなたくさんのパラドールがあるわけです。

ただこのパラドール、建物は魅力的ですが「一流ホテル」と呼べるサービスはなく、スペイン版「かんぽの宿」あるいは「国民宿舎」といった感じだと思います。そのあたりは割り切って宿泊すべき施設のようです。

上の写真が今回泊まったパラドールです。9世紀からこの町を見つめてきた古城です。一口に「城」といってもそれぞれかなり大きさの違いがありますが、カルドナのこの城は相当大きな建物です。左上の丸い塔の高さが12mですから、おおよその大きさがお分かりになると思います。遠くから見るとここに宿泊できるようには思えません。

この城塞はかつてローマ人の砦だった跡に、9世紀アラゴンの軍司令官、カルドナ侯ドン・ラモン・ホルクによって建てられ、その後増改築を加えながら代々カルドナ侯の居城として使われてきました。時代が進むにつれ要塞としての重要性も失せ、いつしか廃墟同然となっていたのですが、リノベーションされて現在はパラドールとして再生しています。

これは私の撮った写真ではありませんが、こんな風に雲海の上にこの城が見える事があるそうです。まるで蜃気楼のようですね。

夜になると城全体がライトアップされ、町からこのような幻想的な姿が見られます。

城塞の構成は上図の様になっており、高低差のある複雑な構造です。

丸い塔の反対側、右奥がサン・ビセンス教会です。

鳥瞰図ではこうなります。

サン・ビセンス教会側を下から見るとこんな感じです。

さて、さらに石畳の急な坂道を上っていくと、城の建物が近づいてきました。

パラドールの入り口に着きました。このPマークがパラドールのロゴです。

ホテル館内に入る前にすこし周りを散策することにします。

鍵穴型の入り口を入った直後にこんな空間が広がっています。やはり1000年以上経っている建物ですから、かなり古い感じがしますね。

ファサードの古い回廊です。柱の繰り返しが美しいですね。

天井のない回廊はこの時代の特徴でしょうか。

回廊の周りの古い壁画が昔のままの状態で見られます。

11世紀前半に描かれたキリスト像です。私、思うのですが、2000年前には「サモトラケのニケ」や「ラオコーン」のような超絶リアリズムの彫刻を作れたのに、それから1000年たって、なぜこんなヘタウマな絵になるのでしょうか。ヨーロッパにはこの壁画のような雰囲気で、聖人が「笑いながら串刺しにされている」ように見える宗教画が結構あり、これはこれで相当怖いような気がします。

サン・ビセンス教会の内陣です。ロマネスク時代の傑作教会の一つです。

パラドールの周りを見渡すと周囲は断崖絶壁です。「難攻不落の城」と言われていたのが納得できます。

館内に入るとこんな感じのレセプションが。落ち着いた内装です。

夕方になって多くの宿泊客がテラスでお酒を飲みながら談笑しています。

夕食時のレストランはこんな感じのツートンカラー。メスキータのようですね。

レストラン横のレストルームです。広くはありませんが、ふんわり包まれた感じのするとても心地いい空間です。

夜には城内もライトアップされ、古い石壁が照らされます。

このテラスの横にある丸い塔は「乙女の塔」と呼ばれていますが、この塔に関しては以下のような言い伝えがあります。

昔、イスラム教徒とキリスト教徒が一時期停戦状態にあったことがあり、一部のイスラム教徒が宴会などに招かれることがあったそうです。そこでイスラム教徒の王子アブダラと、クリスチャンであるカルドナ城主の娘・アデライダが恋愛関係になり、その後二人はこの塔で密会を重ねていましたが、娘の兄弟によって発見されてしまいます。いくら停戦状態といえども、敵同士のため家族会議の結果、二人は引き裂かれることになり、娘は父親によってこの塔に幽閉されました。やがて長い年月が経ち、父親は自分の死の間際に娘を許すことにします。父の死後彼女は塔から出られましたが、彼女も間もなく死亡し父親と一緒に埋葬されました。そんな悲しい話のある塔と言われています。

乙女の塔の入口の頑丈な扉。これでは出られたものではありません。なんだか隣でお酒を飲むのも躊躇われるような切ないお話ですね。

明け方前、外に出てみると月に照らされる城塞が。中世の堅固な石垣が見えます。

月に照らされるサン・ビセンス教会です。

カルドナの町の夜明けです。

朝日が昇り始め明るくなってきましたが、スペインの6月でもさすがにちょっとひんやりします。

朝食後、乙女の塔の上に上ってパラドールを眺めます。

静かで見どころが多い1000年の宿、記憶に残る宿泊でした。

1990年3月に行ったロンドンで、初めてエドワードグリーンのドーバーを購入しました。以来、ここの靴の虜になりました。質の良いしっとりとしたカーフ、美しい木型、無い物ねだりと分かりながら、この時代のエドワードグリーンの靴を今も追い求めてしまいます。
他に古い靴も修理して履いています。特に戦前の英国靴は素晴らしいと実感しています。

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    fanta

    2022/06/28 - 編集済み

    このような建造物に泊まれるなんて・・・
    歴史好きにはたまらない魅力です😊
    なんというか、ヨーロッパの余裕というか統一感を感じてしまい。

    レストルームの空間、フラメンコを見せてくれる場を想像しちゃいます^^

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      グリーン参る

      2022/06/28

      fantaさん、
      パラドールの建物にはみなそれぞれ歴史があるようです。それを知って泊まるとより思い出深い旅になるかと思います。確かにおっしゃるとおりこのレストルーム、フラメンコにうってつけのように感じます。

      この地では夜が長いのに驚かされます。午後9時でも明るいのです。スペイン人が夜鷹になるわけですね。

      私は行ったことがありませんが、トレドのパラドールも素晴らしい夜景が見られるとのことです。

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      fanta

      2022/06/29

      うわ~~幻想世界のようですね😃美しい♪

      トレドも古い城塞都市ですもんね。
      町を囲む城壁が変わらぬまま…まさにタイムトリップです。

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