Holiday Inn
アステアは男性とのデュオで踊るナンバーが極端に少ない。
理由を想像するのは難しくない。
自分の方が劣って見える相手と、しかもその相手の土俵で勝負など誰もしたくはなかろう。
そしてもう一つの理由。
この映画の話から離れて少し長くなるが、男性同士、複数で踊ることも多かったジーン・ケリーと比べるのがわかりやすい。
名作『雨に唄えば』の中でも有名で人気のある一曲「Moses」。ドナルド・オコナーとのダイナミックなタップを繰り広げるが、あれはまさしくユニゾンで踊ることを目的とした「振り付け」がなされているナンバーである。
これは個人的な妄想だが、アステア(とハーミズ・パン)はそういった振り付けができなかったのではないかと(勿論、技術的・能力的になどという気は毛頭ない!)。
幼いころから姉・アデールと踊ってきたアステアにとって、ユニゾンで踊るにしても相手は異性。衣裳も基本的な身のこなしも違う。更にアステアの独特なニュアンスは、体の向きや腕の方向などを正確に合わせることが求められる振り付けには不向きだと思う(アステアにそれを頼むのはとても無理だし、相手役にアステアのムーブメントを真似ろというのは酷なハナシだろう)。
そんなこんなで、誰も組みたがらない孤独なフレディと見事に渡り合っているのが、この作品のもう一人の主役 ビング・クロスビーである。
「I'll Capture Your Heart」の楽しさ……そう、アステアに勝つにはこの動きしかない!(4年後の再共演作『ブルー・スカイ』では更なる進化を遂げることになる)
ダンスシーンではどの場面でもノっているアステアだが、最大の魅せ場「Say It with Firecrackers」のソロでの最後のガッツポーズは“素”であるように見える。
「Fred Astaire & Bing Crosby」という二大看板に予算を割いたためか、そもそも当時のパラマウントにはスター女優がいなかったのか知らないが、共演の女性陣がとにかく地味。華がない(失敬)。
「You're Easy to Dance With」では衣裳まで地味。その隣でカッコつけまくりのアステアさん。少しは手加減しなさいよ。
最後にもう一つ。
役柄的に、クロスビーがどこまでもお人好しで、アステアは結構な感じの嫌な奴。
クロスビーのことは知らないが、Mr.A、ぴったりだと思う。
woodstein
2020/01/30踊りの巧拙をNozomi Shirakawaさんのようなプロフェッショナルに対して語る資格はありませんが、それでもあえて触れたいのが、アステアが酔っ払ってマージョリー・レイノルズと踊るシーン。ダンサーが酔っ払うと無意識にあのような踊り方になるかどうかはわかりませんが、それでも様になっていたように見えたのは、よほど計算された動きだったのでしょうね。
Nozomi Shirakawa
2020/01/30コメントありがとうございます。
件のシーンは自伝によると・・・
「ファースト・テイクの前に強いバーボンを二杯引っかけて、それからもテイクごとに一杯ずつ飲んでいったのだ。(中略)合計七回もやったんだ。最後のテイクがベストだった。」(篠儀直子さん訳)
だそうです。
どこまで本当かはわかりませんが、作り込んで何度も繰り返しリハーサルをしたのはいつも通りだと思います。
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