- Mahaltaji Museum
- 5F 蛍光鉱物
- 鉱物標本 ウェルネライト(Wernerite)
鉱物標本 ウェルネライト(Wernerite)
別名:ウェルネル石、蛍光柱石
産地:Grenvill Scapolite Prospect, Grenvill-sur-la-Rouge,Argenteuil RCM, Laurentides, Quebec, Canada
スキャポライト(柱石)の蛍光性変種。
1800年にブラジルの鉱物学者で政治家でもあったJosé Bonifácio de Andrada e Silvaがヨーロッパ滞在時に同じく彼が発見したスキャポライトと共に命名した。彼は他にもペタライト(葉長石)(*1)やスポジュメン(リシア輝石)、クリオライト(氷晶石)など4つの新鉱物と8の未知の鉱物種を発見した。彼は後年、ブラジル独立時に内務大臣と外務大臣を兼任するなどブラジル独立で重要な役割を果たした。ガーネットの一種であるアンドラダイト"Andradite"は彼の名前に因んでいる。
肝心のウェルネライトだが、こちらの名は当時の著名なドイツ人鉱物学者であるAbraham Gottlob Wernerに因む。彼は鉱物の化学的な分類の必要性を認めていたものの当時の分析技術が低かったため、代わりに外部特長で分類する方法を提唱して鉱物分類法の基礎を築いた。1775年、彼は26歳でドイツ、ザクセンのフライベルク鉱山学校の教授に就任し、以後彼が亡くなる1817年まで42年に渡り教鞭を取り続けた。彼はヨーロッパで初めて地球の歴史に関する講義を行った人物でもあり、また優れた教育者としてウェルナー学派と呼ばれる学派が誕生した。
Wernerについて、もう一つ有名なのが当時の当時の構造地質学の理論として彼が提唱した水成論(Neptunism)である。この説は原初の地球の海底で鉱物が結晶化し、その後堆積や隆起、風化作用を受けて現在の岩石が形作られたとする説である。一方でこれと対立したのが火成論(Plutonism)であり、火山活動によって溶岩中の鉱物が結晶化して生成したのが岩石で、その後風化や海底での堆積等の過程を経て再び地下深くに沈んで溶岩に戻るサイクルを繰り返し続けるという説である。
当時は双方の支持者間で大論争が繰り広げられたそうだが、一度のサイクルで岩石が出来たとする水成論に対して火成論の繰り返しサイクル(斉一論)は聖書の内容を否定するものであったため、万人受けはしなかった。水成論の支持者にはかのドイツの大文豪ゲーテもいたが、彼も著作『ファウスト』において火成論者を悪魔メフィストフェレスとして描写した。それでも相次いで発見された地質学的事実から水成論は否定される様になり、Wernerの死後、1830年頃には火成論が主流となった。現在では様々な造岩形態が認められており、石灰岩の様な堆積岩の生成は水成論により説明できる。
そんな鉱物学の大家であったWernerの名が付けられたウェルネライトの発見地は北欧であったが、現在の主要な産地はカナダ、ケベック州のグレンヴィルとマダガスカル島南部のアノシーである。本標本はグレンヴィル産であり、ここでは蛍光スキャポライトの他、蛍光メイオナイトも産出しているが正確な産出場所は公開されていない。
2019年、ミネラルザワールド横浜で購入。
*1:ペタライト
→鉱物標本 ペタライト(Petalite)