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鉱物標本 パイロモルファイト(Pyromorphite)
別名:緑鉛鉱 産地:Daoping Mine, Gongcheng Co., Guilin, Guangxi, China 主に緑色から黄色がかった樽型の六角柱結晶として産出する鉛の鉱物。同じ鉛鉱物であるミメタイト(*1)、バナディナイト(*2)とは固溶体を形成し、Bakerによって完全な系列(同構造)にあることが合成により示された。 鉛鉱床中で方鉛鉱等の酸化によって二次鉱物として酸化帯に生成する。 元々は1748年にJohan GottschalkによってGrön BlyspatやMinera plumbi viridisと呼称され、1753年にMine de plumbi viridisの名が用いられた。1761年にドイツ人のChristian Friedrich Schultzeによる記述でGrünbleierzおよびBraunbleierzの名が用いられ、1791にはAbraham Gottlob Wernerもその名を用いた。 1813年に加熱溶融後に冷却すると結晶する様子からJohan Friedrich Ludwig Hausmannによってギリシャ語の火(pyr)と形成(morph)という言葉から現在主に用いられているPyromorphiteという名が命名された。ただHausmannはTraubenbleiの名称も同年に用いている。 それ以外にも1832年にAugust BreithauptがPolysphaerite、1836年にG. BarruelがNuissierite、1841年に再びAugust BreithauptがMiesite、1857年にCharles U. ShepardがCherokine、1863年に再度August BreithauptがPlumbeineとSexagulitを、1927年にRobert BrownがCollieiteの名を導入している。 本標本は2021年6月にミネラルマルシェにて購入。緑色の六角柱をベースに上に向かってラッパ状に広がっている。 *1:ミメタイト →鉱物標本 ミメタイト(Mimetite) *2:バナディナイト →鉱物標本 バナディナイト(Vanadinite)
鉱物標本 3.5~4 亜ガラス光沢、樹脂光沢、蝋光沢、脂肪光沢たじ
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鉱物標本 ラピスラズリ(Lapis Lazuli)
別名:瑠璃、群青 産地:Afghanistan ラズライト(青金石)を主成分(25~40%)としたソーダライト(方ソーダ石)・アウイン(藍方石)・ノゼアン(黝方石)などの方ソーダ石グループの青色鉱物の固溶体に、白色のカルサイト(方解石)や金色のパイライト(黄鉄鉱)が斑に散ることで、夜の星空の様な色彩を呈する半貴石である。日本では9月と12月の誕生石とされることがある。 ラピスラズリは接触変成作用にて結晶性石灰岩のスカルン中などに生成する鉱物だが、普通のスカルンと異なり硫黄、塩素などの特殊な元素を必要とする他、高温、低珪酸分といった特殊な条件が必要となるため、ラピスラズリの産地は世界的に少ない。 そも青色の由来自体がラズライトに含まれる不対電子を有するトリスルフィドアニオンラジカル(チオゾニド、[S3]・-)の電子遷移による光吸収によって生じるものだが、自然条件下ではチオゾニドは空気中の酸素と即座に反応・分解するため安定して存在できない。ラピスラズリは上記の特殊な地質条件により、このチオゾニドがケイ酸アルミの結晶格子の篭に閉じ込められていることで奇跡的に安定して存在しているのである。これがソーダライトの場合は塩素イオンが、アウインならば硫酸イオンがケイ酸アルミの篭の中に閉じ込められている。 この構造のため、ラピスラズリは耐薬性(酸)に弱く、塩酸などに浸けるとケイ酸アルミの篭が壊れて中のチオゾニドは硫化水素になってしまい、鮮やかな青色から無惨な灰色へと変わってしまう。 この青色は古くから人々を虜にし、人類に認知され利用された鉱物としては歴史上最古のものとも言われている。現在のアフガニスタンのバダフシャーン州にあるSar-i Sang鉱山で発見されたこの鉱物は世界各地に輸出され古代シュメール文明のウルのスタンダードや古代エジプトのツタンカーメンの黄金のマスクにも用いられた。 因みにラピスラズリのラピス"lapis"はラテン語の『石』を意味する言葉だが、ラズリはSar-i Sang鉱山の古名である"lazhward"が起源とされている。それがアラビア語に入って蒼穹を意味する "lazward"に転じ、最終的に『群青の空の石』ラピスラズリ (lapis lazuli) となった。 古代ギリシャにおいては青石"sappir"の語が示していたのはサファイアではなくラピスラズリの方であるという説があり、この説の通りならば旧約聖書でモーセがシナイ山にて、神より授かった契約の石版もラピスラズリではないかといわれている。 また日本では、ラピスラズリは瑠璃と呼ばれ、仏教の七宝の一つとしてシルクロードを通じて日本にもたらされた。 鉱物そのものだけでなく、その粉についても6~7世紀頃から最初の鉱物顔料としてアフガニスタンで利用され始め、16世紀初頭にヨーロッパへ輸入される様になってからは『地中海を越えてきた青』という意味のウルトラマリン(azzuro ultramarino)の名前で当時最も高価な顔料として用いられた。 余談であるがアズライトの顔料は逆に『地中海のこちら側の青』を意味する"azzuro citramarino"と呼ばれた(*1)。 2010年代に科博にて購入。 *1:アズライト →鉱物標本 アズライト(Azurite)
鉱物標本 5~5.5 ガラス光沢~亜ガラス光沢、樹脂光沢、脂肪光沢、鈍光沢たじ
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鉱物標本 コバルトカルサイト(Cobalt-bearing Calcite)
別名:Aphrodite Stone 産地:Bou Azzer Mine, Ouisselsate Caïdat, Amerzgane Cercle, Ouarzazate Province, Drâa-Tafilalet Region, Morocco コバルトを含有することでビビッドピンクまたはマゼンタピンクと言われる鮮やかなピンク色を呈する様になったカルサイト(方解石、CaCO3)の変種。カルサイトとスフェロコバルタイト(コバルト方解石、CoCO3)の固溶体とも定義出来る。 元々はイタリア、トスカーナ地方にあるCape Calamita鉱山のVallone stopeという場所で発見されたものがコバルトカルサイトとして言及されていた。 宝石名としてはアフロディーテなどとも呼ばれており、産地はコンゴ、モロッコ、スペインなどが有名である。 本標本はモロッコのBou Azzer産で、この地域は石炭紀の地層に由来するモロッコのコバルト鉱山地帯であり、コバルトカルサイト以外にもコバルトドロマイトやエリスライト(コバルト華)(*1)などのコバルト鉱物が多く産出している。 2021年3月、ミネラルマルシェにて購入。色はピンクというより紫色寄り。実はケースに収まりきらなくて母岩のカルサイト部分を若干削った。 *1:エリスライト →鉱物標本 エリスライト(Erythrite)
鉱物標本 3 ガラス光沢~亜ガラス光沢、樹脂光沢、蝋光沢、真珠光沢たじ
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鉱物標本 ミメタイト(Mimetite)
別名:ミメット鉱、黄鉛鉱 産地:Mexico 黄褐色の樽状の六角柱結晶として産出する鉛の二次鉱物。 1853年にフランスの物理・鉱物・地質学者であり、アングレサイト(硫酸鉛)やセルサイト(白鉛鉱)などの鉱物の命名者でもあるFrançois Sulpice Beudantによって、パイロモルファイト(緑鉛鉱)(*1)との類似性からギリシャ語で模倣を意味する"μιμητής(mimetes)"より命名された。 実際にパイロモルファイトやバナディナイト(褐鉛鉱)(*2)とは固溶体を形成し、1966年にはBakerによる合成実験によってこれらが完全に同じ構造(系列)にあることが示されている。 パイロモルファイトとの中間組成鉱物としては赤褐色~橙褐色のカンピライト(カンピ鉱、Pb5[(AsO4)/(PO4)]3Cl)が存在する。ただし、ミメタイトとパイロモルファイトそれぞれが同じ環境で共に産出することは無いらしい。 2020年、紀伊國屋書店、新宿本店1階の化石・鉱物標本の店にて購入。本標本はミメタイトの小さな結晶の集まりがブドウ状の形を成しており、ファンタジーの菌類の森の様で気に入っている。 *1:パイロモルファイト →鉱物標本 パイロモルファイト(Pyromorphite) *2:バナディナイト →鉱物標本 バナディナイト(Vanadinite)
鉱物標本 3.5~4 亜金剛光沢、樹脂光沢たじ
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鉱物標本 カンポ・デル・シエロ隕石(Campo del Cielo Meteorite)
回収地:Gran Chaco, Chaco Province, Argentina 1576年、当時アルゼンチンを統治していたスペイン総督が現地住民の「空からたくさんの鉄が降ってきた」という伝説について調査隊を派遣し、クレーターと隕鉄を発見した。隕石の名前であるcampo del cieloはスペイン語で『空の草原』を意味する。 これまでに100t以上が発見回収されており、1969年には総重量37,000kgの破片が発見され、"el Chaco"と命名されて現地の博物館に展示されている。現在このエル・チャコはナミビアで発見されたホバ隕石に次いで世界で2番目に大きな隕石である。 また、これまでの調査からカンポ・デル・シエロの元々の直径は4m程で、約45億年前に太陽系が作られる過程で形成され、4200~4700年程前に地球に落下したとされる。 平均的な組成は大部分が鉄の他、Ni 6.67%、Co 0.43%、P 0.25%、Ga 87ppm、Ge 407ppm、Ir 3.6ppmとなっている。 現在までに最大115×91mのクレーターが約26個発見されており、破片は3×19kmに渡り飛散している他、最大約60km先でも破片が見つかっている。これらから衝突時だけでなく大気圏中でも空中分解しながら落下したとされている。 大きな破片は博物館などで展示され、小さな破片は標本やアクセサリーなどに加工されて販売されている。本標本もそのうちの一つで、2020年ミネラルマルシェにて購入。
鉱物標本 隕石 ミネラルマルシェたじ
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鉱物標本 リベセナイト(Libethenite)
別名:燐銅鉱、リベテン石 産地:Bugalho Mine, Sao Bras dos Matos, Evora, Portugal 銅のリン酸塩鉱物。ヒ酸塩鉱物であるオリーブナイト(オリーブ銅鉱、Cu2(AsO4)(OH))と固溶体を形成する。 リベセナイトは1823年にAugust Breithauptが、当時ハプスブルク帝国領ハンガリー王国の鉱山都市Libetbánya(ドイツ語ではLibethen、現スロバキア共和国Ľubietová村)の古い鉱山内で発見し、その地のドイツ語読みから命名した。この地域からはマラカイト(*1)やアズライト(*2)が採掘された他、同年にユークロアイト(Euchroite、Cu2(ASO4)(OH)・3H2O)も発見されている。 リベセナイトは上記の様な銅鉱床の酸化帯から発見され、アパタイトやモナザイト、ゼノタイムといったリン酸塩岩の風化によって生成される。 2020年、池袋ミネラルショーにて購入。 *1:マラカイト →鉱物標本 マラカイト(Malachite) *2:アズライト →鉱物標本 アズライト(Azurite)
鉱物標本 4 亜ガラス光沢、樹脂光沢、蝋光沢、脂肪光沢たじ
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鉱物標本 リナライト(Linarite)
別名:青鉛鉱 産地:Madan ore field, Oblast, Smolyan, Bulgaria 銅イオンの影響で青色を示す鉛鉱物。鉛鉱床中の硫化鉛・硫化銅が酸化することで二次鉱物として生成。緑泥化した灰緑色安山岩の表面にも繊維状に生成することがある。 1822年にスペインのLinares高原で発見されたことに因んでErnst Friedrich Glockerが命名。 青色の結晶はアズライト(藍銅鉱)(*1)に似ているが、塩基性のアズライトと異なりこちらは希塩酸に反応しない(白色の膜が生成)。 2020年、ミネラルザワールドで購入。白色の結晶はセルサイト(白鉛鉱)と思われる。 *1:アズライト(藍銅鉱) →鉱物標本 アズライト(Azurite)
鉱物標本 2.5 亜金剛光沢、ガラス光沢たじ
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鉱物標本 プセウドマラカイト(Pseudomalachite)
別名:擬孔雀石 産地:Nchanga, Chingola, Zambia 銅のリン酸塩鉱物。見た目がマラカイト(*1)に似ているため、ギリシャ語で偽や擬を意味する"ψευδής, pseudes"が名前に付けられた。同じ化学組成だが異なる結晶構造を持つ鉱物としてルジバアイトとライヘンバッカイトが存在する。 最初に発見されたのは1813年で、その後1950年までの間に発見されたdihydrite, lunnite, ehlite, tagiliteやprasinといった鉱物も分析によりプセウドマラカイトであることが判明した。 同じリン酸銅鉱物であるリベセナイトと共に産出することがある。 2020年、池袋ショーで購入。 *1:マラカイト →鉱物標本 マラカイト(Malachite)
鉱物標本 4~4.5 ガラス光沢たじ
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鉱物標本 シアノトリカイト(Cyanotrichite)
別名:青針銅鉱、青毛鉱、Velvet Copper Ore 産地:中国、貴州省 青色の針状結晶が特徴の銅鉱物。その毛髪状の結晶から名前もギリシャ語の藍色の"κυανός"+毛髪"θρίξ"から付けられ、和名も同様である。ただ本標本は塊状で産出しており毛髪状結晶は見られない。 シアノトリカイトは水酸硫酸塩鉱物であるが、硫酸の一部が炭酸に変わったカーボネートシアノトリカイトが存在し、現状ではXRD(X線結晶構造解析)以外の方法で両者を判別することが出来ない。そも、標本として出回っているものの多くがカーボネートの方であるとの話もある。カーボネートについては完全に炭酸塩に置換したものが存在する可能性や固溶体を形成するかはっきりしたことが判明していない等、未だ分かっていない事が多い。 本標本は中国貴州省産と記載されていたので恐らく黔西南プイ族ミャオ族自治州、晴隆県、大廠アンチモン鉱石地帯にある晴隆鉱山(大廠鉱山)で採掘されたものではないかと個人的に思っている。同地から採掘された他の標本から本標本の白色~透明部はジプサム(石膏)であると思われる。 2020年、ミネラルマルシェで購入。
鉱物標本 1~3 絹糸光沢たじ
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鉱物標本 ウェルネライト(Wernerite)
別名:ウェルネル石、蛍光柱石 産地:Grenvill Scapolite Prospect, Grenvill-sur-la-Rouge,Argenteuil RCM, Laurentides, Quebec, Canada スキャポライト(柱石)の蛍光性変種。 1800年にブラジルの鉱物学者で政治家でもあったJosé Bonifácio de Andrada e Silvaがヨーロッパ滞在時に同じく彼が発見したスキャポライトと共に命名した。彼は他にもペタライト(葉長石)(*1)やスポジュメン(リシア輝石)、クリオライト(氷晶石)など4つの新鉱物と8の未知の鉱物種を発見した。彼は後年、ブラジル独立時に内務大臣と外務大臣を兼任するなどブラジル独立で重要な役割を果たした。ガーネットの一種であるアンドラダイト"Andradite"は彼の名前に因んでいる。 肝心のウェルネライトだが、こちらの名は当時の著名なドイツ人鉱物学者であるAbraham Gottlob Wernerに因む。彼は鉱物の化学的な分類の必要性を認めていたものの当時の分析技術が低かったため、代わりに外部特長で分類する方法を提唱して鉱物分類法の基礎を築いた。1775年、彼は26歳でドイツ、ザクセンのフライベルク鉱山学校の教授に就任し、以後彼が亡くなる1817年まで42年に渡り教鞭を取り続けた。彼はヨーロッパで初めて地球の歴史に関する講義を行った人物でもあり、また優れた教育者としてウェルナー学派と呼ばれる学派が誕生した。 Wernerについて、もう一つ有名なのが当時の当時の構造地質学の理論として彼が提唱した水成論(Neptunism)である。この説は原初の地球の海底で鉱物が結晶化し、その後堆積や隆起、風化作用を受けて現在の岩石が形作られたとする説である。一方でこれと対立したのが火成論(Plutonism)であり、火山活動によって溶岩中の鉱物が結晶化して生成したのが岩石で、その後風化や海底での堆積等の過程を経て再び地下深くに沈んで溶岩に戻るサイクルを繰り返し続けるという説である。 当時は双方の支持者間で大論争が繰り広げられたそうだが、一度のサイクルで岩石が出来たとする水成論に対して火成論の繰り返しサイクル(斉一論)は聖書の内容を否定するものであったため、万人受けはしなかった。水成論の支持者にはかのドイツの大文豪ゲーテもいたが、彼も著作『ファウスト』において火成論者を悪魔メフィストフェレスとして描写した。それでも相次いで発見された地質学的事実から水成論は否定される様になり、Wernerの死後、1830年頃には火成論が主流となった。現在では様々な造岩形態が認められており、石灰岩の様な堆積岩の生成は水成論により説明できる。 そんな鉱物学の大家であったWernerの名が付けられたウェルネライトの発見地は北欧であったが、現在の主要な産地はカナダ、ケベック州のグレンヴィルとマダガスカル島南部のアノシーである。本標本はグレンヴィル産であり、ここでは蛍光スキャポライトの他、蛍光メイオナイトも産出しているが正確な産出場所は公開されていない。 2019年、ミネラルザワールド横浜で購入。 *1:ペタライト →鉱物標本 ペタライト(Petalite)
鉱物標本 ミネラルザワールド横浜 2019年たじ
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鉱物標本 ジェダイト(Jadeite)
別名:翡翠輝石、硬玉、硬玉翡翠 産地:Myanmar 深緑の半透明な宝石の一つである翡翠は紀元前の古代中国や古代中南米で既に装飾品として用いられてきた。現在では翡翠(jade)という言葉は上記の緑色半透明の玉石全般を示しており、鉱物学的にはジェダイト(硬玉)とネフライト(軟玉)に大きく分類される。それ以外ではインド翡翠と呼ばれものはグリーンアベンチュリンであったり、アマゾナイト(*1)、蛇紋石、緑碧玉等でも~翡翠と呼称されたりする。 ジェダイトは輝石グループに属する鉱物で、他の輝石グループの鉱物と固溶体を形成する性質を有する。そのため、本来のジェダイト(NaAlSi2O6)は白色(無色透明)なのだが、Al3+がFe3+になると黒色のエジリンに、同じくAl3+がCr3+になると深緑色のコスモクロアに分類される様になる(画像7枚目)。また、ジェダイトの(NaAl)4+の組み合わせが(Ca,Mg,Fe)2 4+に置き換わると有色のその他輝石類諸々に分類される様になり、その中間状態の組成のものはオンファサイトという輝石に分類される。翡翠というと深緑色のものを想像するが、それはFe2+やCr3+に起因する発色のためジェダイトではなくオンファサイトまたはコスモクロアに分類されるのである。本標本の場合はベースが白色(無色透明)なので分類はジェダイトで問題ないと思われる。 ジェダイトは海洋プレートの沈み込み等の超高圧低圧の条件下(300℃以上、1万気圧)にて火成岩中のアルバイト(曹長石)が ・NaAlSi3O8 → NaAlSi2O6 + SiO2 の様に分化変成して生成されると考えられている。他にも熱水から直接析出する場合もあるそうであるが、いずれも条件がシビアなため産出地は世界でも限られている。 2010年代頃に科博の売店で購入。国内では糸魚川産のものが有名だが、本標本はミャンマー産の恐らくカチン高原で採れたもので、世界の翡翠シェアの9割を占めている。ここのジェダイトは白亜紀後期のオフィオライト帯(プレート沈み込みや大陸衝突などで海洋地殻の上層から深層まで丸ごと乗り上げた岩体)に由来する蛇紋岩から見つかる。 *1:アマゾナイト →鉱物標本 アマゾナイト(Amazonite)
鉱物標本 6.5~7 ガラス光沢、蝋光沢、鈍光沢たじ
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鉱物標本 パイロクスマンガイト(Pyroxmangite)
別名:パイロクスマンガン石 産地:愛知県、北設楽郡、設楽町、八橋、田口鉱山 変成マンガン鉱床の酸化鉱層、炭酸塩鉱層の下のケイ酸塩鉱層に産出するマンガンケイ酸塩鉱物。花崗岩やその他火成岩中にも見られる。 同じマンガンケイ酸塩のロードナイトと見た目で判別するのは非常に困難であるが、生成される条件が異なる。どちらもマンガン含有岩の変成とケイ酸分との接触交代作用により生成されるが、ロードナイトは高温低圧条件下で生成されるのに対して、パイロクスマンガイトは低温高圧条件で生成される。 名前はマンガン(manganese)を含有した輝石(pyroxenes)に似た鉱物という意味で1913年にWilliam E. FordとW. M. Bradleyにより命名された。 基本的にMnがFeに置換されたパイロクスフェロイトと固溶体を形成しており、Mn>Feのものはパイロクスマンガイト、Fe>Mnのものをパイロクスフェロイトに分類される。パイロクスフェロイトそのものは1970年にアポロ11号が静かの海から持ち帰った月の石から発見されている。 話は変わるが、海洋プレートが海溝にて大陸プレート側に沈み込む際に海洋プレートから剥ぎ取られて陸側に寄せられた堆積岩層を付加体と呼び、日本列島の陸地の多くはこの付加体から成立している。 本標本が採掘された田口鉱山はジュラ紀付加体(中央構造線)の北側に位置する領家変成帯という長野県南部から九州まで続く長大な変成岩帯上にある。この領家帯は白亜紀に起きたマグマの大規模上昇による「高温低圧型」の変成を受けて出来たものである。田口鉱山の層状マンガン鉱床の場合は泥質片岩の付加体が白亜紀に角閃岩相広域変成(500~800℃、0.2~1.3GPa)と花崗閃緑岩の接触変成、ペグマタイト貫入を受けて出来た。 この田口鉱山は国内でも良質なパイロクスマンガイトが産出する場所で、他にもロードクロサイト(*1)やロードナイト等のマンガン鉱物がかつては採集できたが、現在は一切の立入りおよび採集が禁止されてしまっている。 2019年、ミネラルマルシェで購入。 *1:ロードクロサイト →鉱物標本 ロードクロサイト(Rhodochrosite)
鉱物標本 5.5~6 ガラス光沢、真珠光沢たじ
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鉱物標本 ブルノナイト(Bournonite)
別名:車骨鉱 産地:Mexico 鉛に銅にアンチモン、3つの重金属を含む硫化鉱物。双晶を繰り返すことで歯車(車骨)のような形状を取る傾向があるため和名では車骨鉱と呼ばれる。その金属光沢も化学組成が示すように方鉛鉱(PbS)や輝銅鉱(Cu2S)、輝安鉱(Sb2S3)の中間を取るような鋼灰色の輝きしている。 英名は1805年にRobert Jamesonによって鉱物収集家で鉱物学者でもあったJacques-Louis, Comte de Bournon(1751–1825)に因んで名付けられた。 ブルノンはフランス、メスの貴族の家の生まれで鉱物収集家として自らの屋敷に鉱物コレクションを作る程だった。フランス革命でイギリスに亡命した後も鉱物収集家兼、鉱物学者として多くの新鉱物を発見した。1802年に英国王立協会のフェローに選出され、1807年には現在まで続く最古の地質学会でもあるロンドン地質学会の創立にも関わった。1814年、ルイ18世の王政復古によりフランスへ帰国し、王立鉱物閣の局長に任命される。彼のコレクションは現在、パリの国立自然史博物館と特別高等教育機関であるコレージュ・ド・フランスに分割されて保管されている。 本標本は2021年1月、ミネラルマルシェ(月刊)で購入。コロナで外出しづらい中、こういうのも有りだと思う。画像ではそんなに歯車(双晶)してる感じを受けなかったが、これまで見たことのある標本の中でもかなり安かったという理由で購入。安いながらも所々に歯車の片鱗や貝殻状の断口も見れて満足している。
鉱物標本 2.5~3 金属光沢たじ
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鉱物標本 オートゥナイト(Autunite)
別名:燐灰ウラン石、Calco-uranite 産出地:Streuberg Quarry, Bergen, Vogtlandkreis, Sachsen, Germany 蛍光鉱物の中でも特に強力な蛍光性を示すことから認知度は高めであろうウランの鉱物。 フランスのAutun近郊のSaint Symphorienで採掘されたことに因んで1854年にHennry J. BrookeとWilliam H. Millerによって命名された。 熱水脈や花崗岩ペグマタイト中のウラン鉱物の酸化による二次鉱物として産出し、長方形または八角形の平板状の結晶として葉片状または鱗状のクラスターを形成する。その見た目が雲母に似ていることから燐銅ウラン石を含めてウラン雲母とも呼ばれる。元々は10~12水和物の黄緑色の鉱物であるが、空気中では徐々に脱水することで6~8水和物で黄色のメタオートゥナイトへと変化していく。 ウラン鉱物として放射性を有するために体への影響が気になるが、全国宝石学協会(株)のweb情報では国の安全性基準が0.11μSv/h(1時間辺りのシーベルト)に対してオートゥナイト表面で最大3.2μSv/h、10cm離れることで0.12~0.13μSv/hとなる測定結果が示されており、宝飾品としては論外だが鉱物標本としてケースに入れて飾る分には問題ない。 話は変わり、本標本が採掘されたザクセン州フォクトランドはドイツとチェコの国境地帯またがって存在するエルツ山地(クルスナホリ)の外れに位置する。ここでは紀元前2500年頃の青銅器時代にはすでに錫が採掘され、各地に交易されていた。1168年に銀が採掘されると16世紀頃まで銀の産地として、その後も鉛、鉄、コバルト、ビスマス、ウラン、ニッケル、石灰、カオリン、石炭等が採掘されてザクセンをヨーロッパ有数の鉱業地帯へと発展させた。陶磁器で有名な同じザクセン州マイセンも一帯で採掘されたカオリンやコバルトブルーの存在が大きく影響している。これら20世紀までヨーロッパの鉱業や治金技術の発展に大きく寄与してきた歴史から『エルツ山地鉱業地域』として2019年にユネスコ世界遺産に登録された。 この鉱物資源豊富なエルツ山地の起源は今から4~2億年前の古生代石炭紀頃に存在したローレンシア大陸とゴンドワナ大陸の衝突によるパンゲア大陸の形成過程で起こったバリスカン造山運動まで遡る。後にエルツ山地と呼ばれることになる地では、当時の大陸どうしの衝突による変成作用で地下深くにスレートや千枚岩が形成され、そこに花崗岩質ペグマタイトが貫入した地層が形成された。この硬くて脆い岩塊は古生代後期には侵食作用で地表へと露出していき、新生代第三紀の終わりには断層運動および火山活動によって巨大断層岩塊としてウランを含む鉱物資源の鉱脈と共に地表に現れ、現在のエルツ山地となった。 本標本は2019年、ミネラルマルシェで購入。UVによる蛍光は肉眼で強い黄緑色だが、カメラ撮影だと輝度を下げてなお強い蛍光色のため白くなってしまった。 *ウラン元素の起源について →トーバーナイト(Torbernite)参照
鉱物標本 2.5~3 亜ガラス光沢、樹脂光沢、蝋光沢、真珠光沢たじ
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鉱物標本 サファイア(Sapphire)
別名:蒼玉、青玉 産直:Madagascar ダイヤモンドに次ぐ硬度を持つコランダムの変種。9月の誕生石でもある。語源は古代ギリシャで青色を意味する"sappheiros"であり、当時は青色の宝石類全般を示す言葉であった。現在ではサファイアの定義はルビー以外の宝石価値を有するコランダム全てを含めるため、透明でもピンクでもサファイアである。 その青い発色はルビーのドーパントがCr3+なのに対してサファイアではFe3+やV3+になることで起こっている。 インドのヒンドゥーの間では元々不幸を招く石とされていたが、仏教徒には縁起の良い石とされ、キリスト教では司教の叙任の際に指輪として与えられたり等、昔から宗教と関わりのある石であった。 2019年、東京ミネラルショーで購入。
鉱物標本 9 亜金剛光沢、ガラス光沢、真珠光沢たじ