-
鉱物標本 アフガナイト(Afghanite)
別名:アフガン石 産地:Sar-e-Sang, Koksha Valley, Kuran wa Munjan District, Badakhshan, Afghanistan ラピスラズリで有名なアフガニスタンのSar-e-Sang(*1)にて1968年に発見された青色の鉱物。鉱物名も見た通りに国名に由来する。 一般的にソーダライトと共に炭酸性変成岩中に産する。 ラピスラズリ(ラズライト)の青色がアルミノケイ酸塩の篭(ソーダライトケージ)に閉じ込められた硫黄に由来しているのと同様、アフガナイトの青色も硫黄成分に由来している(*1)。そのため硫黄を含まないアフガナイトとして無色~白色のものも存在する。 またアフガナイトの特徴として完全な劈開を有しており、硬度が低めで脆いことから宝石としては職人泣かせの石に分類される。 もう一つの特徴として長波紫外線での蛍光性を有しており、明るいピンクからオレンジ色の蛍光を確認できる。 先日アフガニスタンがタリバンに再度支配されたことでミャンマー産のヒスイ(*2)が軍事政権の資金源になっている件同様、今後は再びアフガンで採掘されるラピスラズリやアフガナイトなどの鉱物・宝石資源がある種の紛争鉱物としてタリバンの資金源となるだろう。 本標本は2019年にミネラルマルシェで購入したもの。濃い目の青色の結晶に桃黄色の蛍光が確認できる。 *1:Sar-e-Sangとラピスラズリおよびラピスラズリの発色原理 →鉱物標本 ラピスラズリ(Lapis Lazuri) *2:ミャンマーのヒスイ →鉱物標本 ジェダイト(Jadeite)
鉱物標本 5.5~6 ガラス光沢たじ
-
鉱物標本 ロードクロサイト(Rhodochrosite)
別名:菱マンガン鉱、Inca Rose、Rosa del Inca、Rosinca、Alma Rose 産地:広西チワン族自治区, 中国 産地によって菱形や犬牙状の結晶から層状、鍾乳石状、ブドウ状まで様々な形態と、ピンクや赤色、バラ色、シナモン色、褐色など、色彩のバリエーションも豊富なマンガンの炭酸塩鉱物。同じ炭酸塩鉱物であるカルサイト(CaCO3)やシデライト(FeCO3)とは固溶体を形成する。 1813年に現在のCavnic, Maramures, RomaniaにあるCavnic銀鉱山から産出したサンプルについてJohann Friedrich Ludwig Hausmannによってそのバラ色"rhodochros"から命名された。 堆積岩や変性岩の低温~中温鉱床の亀裂に地下の熱水脈から上昇してきた熱水溶液の沈降や、含マンガン鉱床の変性接触交代などで形成され、マンガンケイ酸塩のロードナイトなどと共に産出する。特に、熱水脈から生成したものは菱形の結晶として産出しやすい。 宝石としては断面の縞模様がバラの花びらの様に見えるインカローズ(inca rose)が特に有名である。こちらは13世紀頃のインカ帝国の銀・銅鉱山で採掘がされていたが、帝国の滅亡と共にその存在も忘れ去られてしまった。その後1920~1930年代に再発見されたことで1940年代頃からアメリカを中心に収集家の間で取引されるようになった。 日本でも銀山などでよく産出し、不純物を多量に含んだ褐色のものはその色合いから鰹節鉱などと呼ばれる。青森県、白神山地の既に閉山している尾太鉱山でかつて産出していたピンク色のブドウ状(腎臓状)標本は国産品としては特に良質とそれ、今日でも当時のものが取引されている。 中国の広西省のロードクロサイトは本標本のような薄桃色の菱形結晶の標本が多く、同じ炭酸塩のカルサイトの結晶と形状が非常に近い。 見た目の似た鉱物としてロードナイトやパイロクスマンガイト(*1)があるが、両者がケイ酸塩鉱物であるのに対してロードクロサイトは炭酸塩鉱物のため、希塩酸に浸けると前者はそのまま溶解していくのに対して後者は発泡しながら溶解する違いで見分けられる。 また、ロードクロサイトの方が酸化しやすく、表面に褐色の酸化皮膜ができて黒色化してしまいやすい。 2019年、ミネラルフェスタin東京にて瓶詰めで売られていたものを購入。 *1パイロクスマンガイト →鉱物標本 パイロクスマンガイト(Pyroxmangite)
鉱物標本 3.5~4 ガラス光沢、真珠光沢たじ
-
貝殻標本 コモンダカラ(Gnawed Cowry)
和名:小紋宝貝 学名:Naria erosa(Linnaeus, 1758) 採集地:千葉県、館山市、沖ノ島 4月8日は 四+八=貝 ということで貝の日らしい。ということで漢字の「貝」の字の元になり、世界各地で古代の通貨としても用いられたタカラガイを投稿。 生前の姿はカタツムリに近く、外套膜で包まれたこの貝殻を背負って浅瀬の底を這っている。 本標本のコモンダカラは殻の背面に白色と褐色の小さい紋が多数ある。オミナエシダカラと似ているが、コモンダカラは殻の側面に褐色で四角い大きい斑点が1個ある。また、開口部左右に14~16本の歯があって、褐色斑点の無い側の歯は側面まで達する。 房総半島以南から西太平洋、インド洋の潮間帯の岩礁に生息する。 2019年夏に千葉県館山市のJR館山駅から自転車で15分程漕いだところにあるビーチコーミングで有名な沖ノ島で採集。表面が削れて紫色の地が出てしまっているものが多かった中で本標本は比較的状態がマシであったものである。
貝殻 2019年 軟体動物門 腹足綱たじ
-
鉱物標本 スギライト 繊維状(Sugilite)
別名:杉石、Lavulite、Royal Azel 産地:South Africa 紫色の本鉱物はチャロアイト、ラリマーとともに三大ヒーリングストーンの1つにされている。パワーストーンとしては浄化、癒し、守護、順応などの効果を有してるらしい。 1944年に愛媛県岩城島で九州帝国大学の岩石学者の杉健一(1901~1948)と弟子の村上允秀が新鉱物を発見。1974年に国際鉱物学連合に認定されたことで村上允秀、加藤敏夫、三浦靖典、広渡文利らによって発見者の名前から杉石と命名された。 その間1965年に広渡文利が愛媛県古宮鉱山で黒色のブラウン鉱の隙間を埋める鮮やかな"紫色鉱物"を発見。当時は成分を特定できなかったものの、1981年になってこの紫色の鉱物もスギライトであることが判明した。 南アフリカでは1978年にHotazel地帯のWessels鉱山で紫色のスギライトが発見された。当初はソグディアナイト(ソグド石、Zr2KLi3Si12O30)と誤認されたが1980年にスギライトであったことが判明した。 この紫色のスギライトは正しくは変種のマンガンスギライトであり、マンガンの含有によって発色している。 南アフリカのダイヤモンド業者I. Kurgan(1924~2016)はこの紫色の石に注目し、地獄の様に気温の高い環境(hot-as-hell)であるHotazel地帯で採掘された東アジアで皇帝の(royal)色とされた紫の石という意味から"Royal Azel"という宝石名を付け、1981年にRoyalAzel社をロサンゼルスにオープンしてハリウッドスターや上層階級に宝石として紹介、一般向けとしてパワーストーン商品を紹介したことでスギライトは世界的に有名になった。 余談ではあるがパワーストーンブームとともにスギライトの知名度は向上していったが、元々鉱物の名前では"g"の字をジと発音する習慣があったため、ス『ギ』ライトが正しい発音だと知らない海外の業者がス『ジ』ライトと間違った形で浸透させてまった。 本標本は2019年に東京ミネラルショーにて購入した南アフリカ産のマンガンスギライト。ファイバー状の変種でベルベットの用な質感がお気に入り。手持ちのコレクションの中でも珍しく万札越えした子。
鉱物標本 6~6.5 ガラス光沢たじ
-
鉱物標本 ウルフェナイト(Wulfenite)
別名:モリブデン鉛鉱、水鉛鉛鉱 産地:Arizona, U.S.A. 主に赤色~橙色、黄色を呈する鉛鉱石。その色はモリブデン酸(MoO4 2-)の一部がクロム酸(CrO4 2-)に置き変わることに起因し、過半がクロム酸に置き換わったものはクロコアイト(紅鉛鉱、PbCro4)と呼ばれる(*1)。 またストルザイト(PbWO4)と固溶体を形成し、モリブデン酸の一部がタングステン酸(WO4 2-)に置き換わっていることがある(*2)。 熱水鉛鉱床中の酸化帯で板状の二次鉱物として生成。火山性噴気ガスによって400~550℃の温度範囲で沈降して生成される場合もある。 ウルフェナイトは1772年にIgnaz von BornがオーストリアのAnnabergで発見し、その際は"plumbum spatosum flavor-rubrum"と呼称した。また、1781年にはJoseph Franz Edler von Jacquinが"kärntherischer bleispath"と命名している。 その後、1785年に植物・鉱物学者で登山家でもあったFranz Xavier von Wulfen神父がオーストリアのBleibergで発見し、鉱物画としてその他の鉛鉱物とともに様々な結晶形を描き残した。1845年になってWilhelm Karl von HaidingerがWulfen神父に敬意を表して"wulfenite"と命名した。 本標本はアリゾナ産であるが、ここのウルフェナイトは鮮やかな橙色の薄い板状~卓状結晶として産出する。 2019年、東京ミネラルショーにて購入。 *1:クロコアイト →鉱物標本 クロコアイト(Crocoite) *2:ストルザイト →鉱物標本 ストルザイト(Stolzite)
鉱物標本 2.5~3 金剛光沢、亜金剛光沢、樹脂光沢たじ
-
人工結晶 アルムK(Alum-(K))
別名:明礬、カリ明礬、白礬、Potassium Alum 産地:日本(自作) 小学校の夏休みの自由研究の定番?のミョウバンの結晶。鉱物名はアルム。硫酸カリウムと硫酸アルミニウムの複塩で、カリウムがナトリウムに置換したものはアルムNa(*1)、アンモニウムならばチェルミガイト、タリウムならばランムチャンガイトという鉱物になる。また、アルムは12水和物であるが、11水和物の希少鉱物としてカリナイト(Kalinite)が存在する。 古代から媒染剤や防水・消火剤、皮なめし剤、水質浄化のための沈殿剤、食品添加物、止血剤、殺菌等々多くの用途で重宝されてきた。 日本では1664年に渡辺五郎右衛門が豊後国鶴見村(現在の大分県別府市鶴見)の温泉を利用して鉄分を含んだ青粘土(スメクタイト)上に湯の花(ハロトリカイト、Fe2+Al2(SO4)4・22H2Oやアルノーゲン、Al2(SO4)3・17H2O)を成長させて採集し、これに灰汁(カリウム)を加える方法でミョウバンの製造に成功させた。しかし製造には広い土地を要した上、設備の維持管理が大変なため採算が取れずに廃業してしまう。後に脇屋儀助が幕府との協議で輸入品の明礬を駆逐して専売状態にすることで国産品が国内に流通するようになった。ただこれも明治になり、海外から安価な代替品が輸入されるようになったことで温泉を利用した国内生産は終わってしまった。 本結晶は薬局で市販されているミョウバンを再結晶して作成。 *1:アルムNa →人工結晶 アルムNa(Alum-(Na))
人工結晶 2 ガラス光沢たじ
-
鉱物標本 バナディナイト(Vanadinite)
別名:バナジン鉛鉱、褐鉛鉱 産地:Mibladen mining district, Midelt Province, Drâa-Tafilalet Region, Morocco 赤い六角形の板状結晶が特徴の含バナジウム鉱石。カルノー石やバナジン雲母と共に産業用バナジウムの主要な鉱石鉱物となっている。 乾燥気候帯の鉛鉱床の酸化帯にて母岩のケイ酸塩鉱物から侵出した硫化バナジウムが変質して生成されたと考えられている。ミメタイト(ミメット鉱)(*1)およびパイロモルファイト(緑鉛鉱)(*2)と固溶体を形成し、1966年にBakerが合成によって3つの鉱物が完全な系列(同構造)にあることを示した。 バナディナイトは1801年にメキシコ、イダルゴ州、ジマパンで鉱山学校の教授をしていた化学者Andrés Manuel Del Ríoにより発見され、彼はこの鉱物を茶鉛"brown lead"と呼称した。その後、彼はこの鉱物からクロムに似た未知の元素を発見してパンクロミウム"panchromium"と命名。さらにこの元素の化合物を加熱した所、鮮やかな赤色になったことからエリスロニウム"erythronium"と改名してフランスの研究機関に鑑定依頼を出した。しかし、研究機関からはクロム化合物であると鑑定されてしまったため新元素として公認されず、彼もそれを納得してしまった。 その後、1830年にスウェーデンの化学者Nils Gabriel Sefströmが軟鉄中から発見した新元素が美しい多彩な色に着色する性質を有していたことからスカンジナビア神話の愛と美の女神バナジス"Vanadis"に因んでバナジウムと命名した。後にドイツの化学者Friedrich WöhlerがDel Ríoの発見したエリスロニウムがバナジウムと同じ元素であったことを確認、1838年にジマパン鉱山で茶鉛が再発見されたことで高いバナジウム含有量からvanadiniteと再命名された。 このバナディナイトから産業用のバナジウムを抽出する際は 1.バナディナイトをNaClまたはNa2CO3と共に加熱してバナジン酸Naを生成。 2.水に溶解させ、塩化アンモニウムで処理してメタバナジン酸アンモニウムの橙色沈殿を得る。 3.沈殿を加熱溶融して粗五酸化バナジウムに分解した後、カルシウムで還元して純バナジウムとして抽出。 といった手法が一般的に用いられる。 本標本は2019年にミネラルマルシェにて購入。バナディナイトの産地として世界的に有名なモロッコ、ミブラデン産の標本である。ミブラデンのバナディナイトはジュラ紀前期の石灰岩・苦灰岩に層状に堆積したガレナ(方鉛鉱)やバライト(重晶石)と共に産出し、本標本の白い母岩部分もバライトであると思われる。 *1:ミメタイト →鉱物標本 ミメタイト(Mimetite) *2:パイロモルファイト →鉱物標本 パイロモルファイト(Pyromorphite)
鉱物標本 褐鉛鉱 3~4たじ
-
鉱物標本 ウェルネライト(Wernerite)
別名:ウェルネル石、蛍光柱石 産地:Grenvill Scapolite Prospect, Grenvill-sur-la-Rouge,Argenteuil RCM, Laurentides, Quebec, Canada スキャポライト(柱石)の蛍光性変種。 1800年にブラジルの鉱物学者で政治家でもあったJosé Bonifácio de Andrada e Silvaがヨーロッパ滞在時に同じく彼が発見したスキャポライトと共に命名した。彼は他にもペタライト(葉長石)(*1)やスポジュメン(リシア輝石)、クリオライト(氷晶石)など4つの新鉱物と8の未知の鉱物種を発見した。彼は後年、ブラジル独立時に内務大臣と外務大臣を兼任するなどブラジル独立で重要な役割を果たした。ガーネットの一種であるアンドラダイト"Andradite"は彼の名前に因んでいる。 肝心のウェルネライトだが、こちらの名は当時の著名なドイツ人鉱物学者であるAbraham Gottlob Wernerに因む。彼は鉱物の化学的な分類の必要性を認めていたものの当時の分析技術が低かったため、代わりに外部特長で分類する方法を提唱して鉱物分類法の基礎を築いた。1775年、彼は26歳でドイツ、ザクセンのフライベルク鉱山学校の教授に就任し、以後彼が亡くなる1817年まで42年に渡り教鞭を取り続けた。彼はヨーロッパで初めて地球の歴史に関する講義を行った人物でもあり、また優れた教育者としてウェルナー学派と呼ばれる学派が誕生した。 Wernerについて、もう一つ有名なのが当時の当時の構造地質学の理論として彼が提唱した水成論(Neptunism)である。この説は原初の地球の海底で鉱物が結晶化し、その後堆積や隆起、風化作用を受けて現在の岩石が形作られたとする説である。一方でこれと対立したのが火成論(Plutonism)であり、火山活動によって溶岩中の鉱物が結晶化して生成したのが岩石で、その後風化や海底での堆積等の過程を経て再び地下深くに沈んで溶岩に戻るサイクルを繰り返し続けるという説である。 当時は双方の支持者間で大論争が繰り広げられたそうだが、一度のサイクルで岩石が出来たとする水成論に対して火成論の繰り返しサイクル(斉一論)は聖書の内容を否定するものであったため、万人受けはしなかった。水成論の支持者にはかのドイツの大文豪ゲーテもいたが、彼も著作『ファウスト』において火成論者を悪魔メフィストフェレスとして描写した。それでも相次いで発見された地質学的事実から水成論は否定される様になり、Wernerの死後、1830年頃には火成論が主流となった。現在では様々な造岩形態が認められており、石灰岩の様な堆積岩の生成は水成論により説明できる。 そんな鉱物学の大家であったWernerの名が付けられたウェルネライトの発見地は北欧であったが、現在の主要な産地はカナダ、ケベック州のグレンヴィルとマダガスカル島南部のアノシーである。本標本はグレンヴィル産であり、ここでは蛍光スキャポライトの他、蛍光メイオナイトも産出しているが正確な産出場所は公開されていない。 2019年、ミネラルザワールド横浜で購入。 *1:ペタライト →鉱物標本 ペタライト(Petalite)
鉱物標本 ミネラルザワールド横浜 2019年たじ
-
鉱物標本 パイロクスマンガイト(Pyroxmangite)
別名:パイロクスマンガン石 産地:愛知県、北設楽郡、設楽町、八橋、田口鉱山 変成マンガン鉱床の酸化鉱層、炭酸塩鉱層の下のケイ酸塩鉱層に産出するマンガンケイ酸塩鉱物。花崗岩やその他火成岩中にも見られる。 同じマンガンケイ酸塩のロードナイトと見た目で判別するのは非常に困難であるが、生成される条件が異なる。どちらもマンガン含有岩の変成とケイ酸分との接触交代作用により生成されるが、ロードナイトは高温低圧条件下で生成されるのに対して、パイロクスマンガイトは低温高圧条件で生成される。 名前はマンガン(manganese)を含有した輝石(pyroxenes)に似た鉱物という意味で1913年にWilliam E. FordとW. M. Bradleyにより命名された。 基本的にMnがFeに置換されたパイロクスフェロイトと固溶体を形成しており、Mn>Feのものはパイロクスマンガイト、Fe>Mnのものをパイロクスフェロイトに分類される。パイロクスフェロイトそのものは1970年にアポロ11号が静かの海から持ち帰った月の石から発見されている。 話は変わるが、海洋プレートが海溝にて大陸プレート側に沈み込む際に海洋プレートから剥ぎ取られて陸側に寄せられた堆積岩層を付加体と呼び、日本列島の陸地の多くはこの付加体から成立している。 本標本が採掘された田口鉱山はジュラ紀付加体(中央構造線)の北側に位置する領家変成帯という長野県南部から九州まで続く長大な変成岩帯上にある。この領家帯は白亜紀に起きたマグマの大規模上昇による「高温低圧型」の変成を受けて出来たものである。田口鉱山の層状マンガン鉱床の場合は泥質片岩の付加体が白亜紀に角閃岩相広域変成(500~800℃、0.2~1.3GPa)と花崗閃緑岩の接触変成、ペグマタイト貫入を受けて出来た。 この田口鉱山は国内でも良質なパイロクスマンガイトが産出する場所で、他にもロードクロサイト(*1)やロードナイト等のマンガン鉱物がかつては採集できたが、現在は一切の立入りおよび採集が禁止されてしまっている。 2019年、ミネラルマルシェで購入。 *1:ロードクロサイト →鉱物標本 ロードクロサイト(Rhodochrosite)
鉱物標本 5.5~6 ガラス光沢、真珠光沢たじ
-
鉱物標本 クロコアイト(Crocoite)
別名:紅鉛鉱、黄鉛 産地:Adelaide Mine, Dundas, Tasmania, Australia 赤い短冊状の結晶が特徴の鉛とクロムを含有する鉱物。そもCr元素自体が1797年にフランスの化学者Louis-Nicolas Vanquelinのよってこの鉱物から発見されており、化学史においても重要な鉱物である。ちなみにクロムの語源はギリシャ語で色を意味する"χρωμα"で、クロム化合物はその酸化状態で赤色から黄色、緑色と多彩な色を示すことからVanquelinの知人で鉱物学者で聖職者でもあったRené Just Haüyが命名した(*1)。 クロコアイトは1763年にエカチェリンブルク近郊のBerezovsk鉱床で発見され、1766年にJohann Gottlob Lehmannにより"Nova Minera Plumbi"と命名された。 1770年にPeter Simon Pallasによってこの鉱物を砕いた黄色い粉末が顔料に適していることが指摘され、「シベリアの赤い鉛」として黄色顔料として珍重された。かのゴッホの「ひまわり」もこの黄色によって1888年~1889年にかけて描かれた。現在の日本でもクロムイエローや黄鉛という名前で利用されているが、6価クロムを含むこの顔料の毒性はとても強く、発ガン性や生殖毒性、造血系や腎臓、神経系への影響等の恐れがあるとされる。日本の化学物質に関する法規制では毒劇物取締法の劇物指定な上、特定化学物質の第2類物質にも引っ掛かっており、毒性に関しては役満アウトである。ただしクロコアイトは法的には化学試薬ではなく石ころなので鉱物標本としての所持については(まだ)セーフである。 閑話休題、この鉱物には歴史の中でplomb chromate, kallochrom, crocise, beresofite, lehmannite等々まさしく「色々」な名前が付けられてきたが、現在のクロコアイトの元となったのは1841年のJohann August Breithauptによる"krokoite"という名前で、この顔料の黄色がサフラン"krokos"の色に良く似ていたことに由来する。 本標本が採掘されたAdelaide鉱山はタスマニア島西部のDundas鉱山地帯にある鉱山の一つで、世界でも有数のクロコアイト産地でもある。ここの露頭は古生代カンブリア紀の超苦鉄質岩に由来し、長い時間をかけて蛇紋石や方鉛鉱、苦灰石を豊富に含む岩へと変成し、さらに風化作用を受けることでクロコアイトのような二次鉱物も生成された。この鉱山ではクロコアイトの他にもMgとCrからなるスティヒタイトや、PbとAlからなるデュンダサイトのような希少鉱物も発見されている。 本標本は2019年のミネラルフェスタで購入。机下の目立たない所にあったこの標本買おうとしたら外人のお店の方が相当割引して下さって非常にお買い得だった。名前はサフランに由来しているが、私的には結晶の色形と毒性からヒガンバナの花のイメージが強い。…もしくはニンジンの千切り。 *1:René Just Haüy →鉱物標本 ダイオプテーズ(Dioptase)
鉱物標本 亜金剛光沢、亜ガラス光沢、樹脂光沢、蝋光沢 ミネラルフェスタたじ
-
鉱物標本 合成ダイヤモンド(Diamond)
別名:金剛石、алма́з 産地:China 炭素元素からなる天然で最も硬いとされる物質で、モース硬度は最硬の10。同じC元素からなる同素体にグラファイト(黒鉛)があるが、こちらは共鳴した炭素のシートが分子間力で積層した構造を取り、エネルギー的にもダイヤモンドより安定である。そのため通常の大気圧条件ではこちらが炭素の単体として生成される。対してダイヤモンドは共有結合による四面体配列の構造を取っており、グラファイトよりも密な構造となるため生成される条件も超高圧を要する。 語源はギリシャ語の"αδάμας"(屈しない)である。西暦100年頃には小プリニウスらによって記述されているのは確認されている。 ダイヤモンドが見つかる母岩はキンバーライト(雲母橄欖岩)と呼ばれる超塩基性の火成岩である。この岩石は先カンブリア時代の世界的な造山運動にて、地下120kmにあるマントル物質が激しい噴火によってごく短時間のうちに地表付近まで噴出したことで生成された。噴出後も数十億年単位でその先カンブリア時代の地質が保存されていなければならず、そのためキンバーライトが存在する場所は安定陸塊と呼ばれる地球上でも地殻変動が非常に少ない場所に限られる。ダイヤモンドの結晶はそんなマントルという超高温高圧の特殊条件だからこそ出来たものであり、更に地表へと急速に噴出され、かつその地質が維持されるという希少条件が揃うことで初めて見つかったものである。 この条件を工業的に再現したのが高温高圧法(High Pressure and High Temperature, HPHT)で、1955年にアメリカのゼネラル・エレクトリック社(GE社)が合成ダイヤモンドの製造に成功させた。この方法によって宝飾品用だけでなく、研磨剤用のダイヤも工業的に量産出来るようになった。他にも化学気相成長法(Chemical Vapor Deposition, CVD)と呼ばれる合成方法もあるが、本標本はHPHT法によるものである。 また、ダイヤモンドはその四面体構造に組み込まれる不純物によって窒素を含むⅠ型と含まないⅡ型に分類される。Ⅰ型は更に無色に近いⅠa型と黄色の濃いⅠb型に、Ⅱ型は不純物を全く含まない無色のⅡa型と窒素以外の不純物を含むⅡb型に分けられる。特にホウ素を含むⅡb型は青色を示して天然では希少性が高い。本標本は濃黄色のため、Ⅰb型のダイヤに相当する。 2019年にミネラルフェスタで購入。拡大観察してみると正八面体の各頂点が削れた14面の立方八面体に近い形状になっていることが確認できた。
鉱物、人工結晶 10 金剛光沢、脂肪光沢たじ
-
鉱物標本 ブルーサイト(Brucite)
別名:ブルース石、水滑石 産地:Pakistan 水酸化マグネシウムの天然鉱物。化学式は単純なれど初めて記述されたのはアメリカ開拓期の鉱物学者でAmerican Mineralogical Journalの編集者でもあったArchibald Bruce(1777-1818)によってである。なお彼はジンカイト(紅亜鉛鉱、ZnO)の発見者でもある(*1)。彼の死後1824年にその功績を称えてFrançois Sulpice Beudantがその名をこの鉱物に付けた。 色は白色から灰色、淡黄色、淡青色、淡緑色、赤褐色など様々。大理石中のペリクレース(MgO)の変質により生成。ケイ酸塩と共に滑石(Talc, Mg3Si4O10(OH)2)を形成する。空気中では湿気と共に徐々にCO2を吸って塩基性炭酸マグネシウムに変化する。 また、化学物質としての水酸化マグネシウムは常温常圧で白色のゲル状固体だが、加圧下220℃の塩基性マグネシウム塩水溶液では凝集して六方晶の結晶になる。 酸化マグネシウムや炭酸マグネシウムと共に親水、吸水保持性を示すことから漢方の緩下剤として古くから利用されている。 本標本は2019年にミネラルマルシェで購入。淡黄色の塊状?タイプである。 *1:ジンカイト →鉱物標本 半人工赤色ジンカイト(蛍光性)(Zincite)
鉱物標本 2.5~3 ガラス光沢、蝋光沢、真珠光沢たじ
-
鉱物標本 レッドジャスパー自主採集/研磨品(Red Jasper)
別名:赤碧玉 採集地:千葉県、稲毛海岸 レッドジャスパーと記載したが、人によってはチャートと判断する方もいるはず。 ジャスパーもチャートも主成分は共にSiO2、更に色が赤ならば基本的にはどちらも酸化鉄(赤色)や水酸化鉄(褐色)に由来のため、化学組成だけならば実質同じである。 その違いは成因で、レッドジャスパーが酸化鉄を含む地層の隙間にケイ酸分が浸透充填して生じた玉髄(潜晶質石英)の一種であるのに対して、赤チャートはフズリナ等のケイ質殻を持つプランクトンの死骸が含水酸化鉄と共に堆積して出来た堆積岩の一種である。そのため両者のの性質性状には若干異なる傾向が現れるが、実際のところ鉱物としての明確な境界は無い。 本鉱の場合は ・研磨は比較的容易(チャートだと火打石として用いられる程硬くて磨くのが大変)。 ・脈は多め。色は無色透明が主で、堆積性よりも浸透性の印象。 ・採集場所で瑪瑙も拾える。 等の特徴から判断してレッドジャスパー寄りに推測してる。 レッドジャスパー自体は古くから世界中で御守りとして用いられており、13世紀のドイツの神学者Albertus Magnus(大聖アルベルト)も自身の著書である『鉱物書』にて「太陽のエネルギーと共鳴することで大きな保護力を与えるクリスタル」と記しており、現在でもパワーストーンとして「身心の安定性を保つ」等の効果で紹介される。国内の産地としては新潟県佐渡地方で採れる「赤玉石」が有名。 本鉱は2019年に千葉県稲毛海岸にて拾ったもの。稲毛海岸は検見川浜から幕張海岸にかけて東京駅から電車で一時間もかからないビーチコーミングスポットである。今回のジャスパーや瑪瑙の他に貝化石なども打ち上げられるため、拾う事が出来る。
鉱物標本 6.5~7 ガラス光沢,、蝋光沢,、脂肪光沢,、絹糸光沢、無光沢たじ
-
鉱物標本 オートゥナイト(Autunite)
別名:燐灰ウラン石、Calco-uranite 産出地:Streuberg Quarry, Bergen, Vogtlandkreis, Sachsen, Germany 蛍光鉱物の中でも特に強力な蛍光性を示すことから認知度は高めであろうウランの鉱物。 フランスのAutun近郊のSaint Symphorienで採掘されたことに因んで1854年にHennry J. BrookeとWilliam H. Millerによって命名された。 熱水脈や花崗岩ペグマタイト中のウラン鉱物の酸化による二次鉱物として産出し、長方形または八角形の平板状の結晶として葉片状または鱗状のクラスターを形成する。その見た目が雲母に似ていることから燐銅ウラン石を含めてウラン雲母とも呼ばれる。元々は10~12水和物の黄緑色の鉱物であるが、空気中では徐々に脱水することで6~8水和物で黄色のメタオートゥナイトへと変化していく。 ウラン鉱物として放射性を有するために体への影響が気になるが、全国宝石学協会(株)のweb情報では国の安全性基準が0.11μSv/h(1時間辺りのシーベルト)に対してオートゥナイト表面で最大3.2μSv/h、10cm離れることで0.12~0.13μSv/hとなる測定結果が示されており、宝飾品としては論外だが鉱物標本としてケースに入れて飾る分には問題ない。 話は変わり、本標本が採掘されたザクセン州フォクトランドはドイツとチェコの国境地帯またがって存在するエルツ山地(クルスナホリ)の外れに位置する。ここでは紀元前2500年頃の青銅器時代にはすでに錫が採掘され、各地に交易されていた。1168年に銀が採掘されると16世紀頃まで銀の産地として、その後も鉛、鉄、コバルト、ビスマス、ウラン、ニッケル、石灰、カオリン、石炭等が採掘されてザクセンをヨーロッパ有数の鉱業地帯へと発展させた。陶磁器で有名な同じザクセン州マイセンも一帯で採掘されたカオリンやコバルトブルーの存在が大きく影響している。これら20世紀までヨーロッパの鉱業や治金技術の発展に大きく寄与してきた歴史から『エルツ山地鉱業地域』として2019年にユネスコ世界遺産に登録された。 この鉱物資源豊富なエルツ山地の起源は今から4~2億年前の古生代石炭紀頃に存在したローレンシア大陸とゴンドワナ大陸の衝突によるパンゲア大陸の形成過程で起こったバリスカン造山運動まで遡る。後にエルツ山地と呼ばれることになる地では、当時の大陸どうしの衝突による変成作用で地下深くにスレートや千枚岩が形成され、そこに花崗岩質ペグマタイトが貫入した地層が形成された。この硬くて脆い岩塊は古生代後期には侵食作用で地表へと露出していき、新生代第三紀の終わりには断層運動および火山活動によって巨大断層岩塊としてウランを含む鉱物資源の鉱脈と共に地表に現れ、現在のエルツ山地となった。 本標本は2019年、ミネラルマルシェで購入。UVによる蛍光は肉眼で強い黄緑色だが、カメラ撮影だと輝度を下げてなお強い蛍光色のため白くなってしまった。 *ウラン元素の起源について →トーバーナイト(Torbernite)参照
鉱物標本 2.5~3 亜ガラス光沢、樹脂光沢、蝋光沢、真珠光沢たじ
-
鉱物標本 サファイア(Sapphire)
別名:蒼玉、青玉 産直:Madagascar ダイヤモンドに次ぐ硬度を持つコランダムの変種。9月の誕生石でもある。語源は古代ギリシャで青色を意味する"sappheiros"であり、当時は青色の宝石類全般を示す言葉であった。現在ではサファイアの定義はルビー以外の宝石価値を有するコランダム全てを含めるため、透明でもピンクでもサファイアである。 その青い発色はルビーのドーパントがCr3+なのに対してサファイアではFe3+やV3+になることで起こっている。 インドのヒンドゥーの間では元々不幸を招く石とされていたが、仏教徒には縁起の良い石とされ、キリスト教では司教の叙任の際に指輪として与えられたり等、昔から宗教と関わりのある石であった。 2019年、東京ミネラルショーで購入。
鉱物標本 9 亜金剛光沢、ガラス光沢、真珠光沢たじ