ラファエル前派展

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2014年、森アーツセンターギャラリー。
ラファエル前派とは、停滞するイギリス芸術界や形骸化したロイヤルアカデミーに反旗を翻した若者達によって1884年頃に結成された。本展覧会は、2012年にテイト・ブリテンで行われたラファエル前派の30年振りの大回顧展の日本巡回展で、日本ではここでしか行われない。
日本でもお馴染みのミレー「オフェーリア」などテイト所蔵の名作が多く展示されていたが、目当ては何と言っても初来日、ロセッティの「ベアタ・ベアトリクス」。はっきり言って、この1枚を見る為に来たようなもの。
もう40年以上も前、学生時代に初めてこの絵を知ってから、すっかり虜になってしまい、いつかこれを見にロンドンに行きたいと思っていたので、この機会を逃す訳にはいかない。
アヘン過剰摂取という悲劇的な死を遂げた彼の妻を「神曲」を書いたダンテの妻ベアトリーチェに準えて描かれたもので、背景にはフィレンツェの風景が、向かって右側にはダンテ、左側には真っ赤に燃える心臓を手にした愛の神がいる。そして死を告げる使者である鳩が白いケシの花をベアトリーチェの手に落としている、象徴的雰囲気に満ちた素晴らしい作品。全ての絵画の中で最も好きな作品であり、実物を初めて目の当たりにした感激は言葉では表せない。
オフェーリアを見た時にも感じたのだが、ここから離れたくない気持が強くて足が動かない。それに長時間眺めていると、印刷物では得られなかった不思議な感覚に囚われる。毛髪や衣服が何だか立体的に見えてきて、妙に生々しく体温が感じられるような錯覚がした。これが実物の持つパワーだろうか。私の思い入れが強過ぎるせいもあるかもしれないが、作品に込めた作家の念が強ければ、それが作品を通して見る者に訴えかける事を、改めて実感した。ただ残念な事は、この作品に対する照明が少々明る過ぎる。「オフェーリア」は明るい照明で正解だと思うが、「ベアタ・ベアトリクス」はもう少し暗い方が良かった。確かにこの絵は死を象徴しているが、それだけではなく死をも超越した恍惚感を表していると思うからだ。
書きたい事はまだまだ有るが、とにかく、これ程の規模でラファエル前派を見られる機会は滅多に無いので、久し振りに心の底から楽しめた展覧会だった。

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