鉱物標本 ラピスラズリ(Lapis Lazuli)

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別名:瑠璃、群青
産地:Afghanistan

ラズライト(青金石)を主成分(25~40%)としたソーダライト(方ソーダ石)・アウイン(藍方石)・ノゼアン(黝方石)などの方ソーダ石グループの青色鉱物の固溶体に、白色のカルサイト(方解石)や金色のパイライト(黄鉄鉱)が斑に散ることで、夜の星空の様な色彩を呈する半貴石である。日本では9月と12月の誕生石とされることがある。

ラピスラズリは接触変成作用にて結晶性石灰岩のスカルン中などに生成する鉱物だが、普通のスカルンと異なり硫黄、塩素などの特殊な元素を必要とする他、高温、低珪酸分といった特殊な条件が必要となるため、ラピスラズリの産地は世界的に少ない。

そも青色の由来自体がラズライトに含まれる不対電子を有するトリスルフィドアニオンラジカル(チオゾニド、[S3]・-)の電子遷移による光吸収によって生じるものだが、自然条件下ではチオゾニドは空気中の酸素と即座に反応・分解するため安定して存在できない。ラピスラズリは上記の特殊な地質条件により、このチオゾニドがケイ酸アルミの結晶格子の篭に閉じ込められていることで奇跡的に安定して存在しているのである。これがソーダライトの場合は塩素イオンが、アウインならば硫酸イオンがケイ酸アルミの篭の中に閉じ込められている。

この構造のため、ラピスラズリは耐薬性(酸)に弱く、塩酸などに浸けるとケイ酸アルミの篭が壊れて中のチオゾニドは硫化水素になってしまい、鮮やかな青色から無惨な灰色へと変わってしまう。

この青色は古くから人々を虜にし、人類に認知され利用された鉱物としては歴史上最古のものとも言われている。現在のアフガニスタンのバダフシャーン州にあるSar-i Sang鉱山で発見されたこの鉱物は世界各地に輸出され古代シュメール文明のウルのスタンダードや古代エジプトのツタンカーメンの黄金のマスクにも用いられた。

因みにラピスラズリのラピス"lapis"はラテン語の『石』を意味する言葉だが、ラズリはSar-i Sang鉱山の古名である"lazhward"が起源とされている。それがアラビア語に入って蒼穹を意味する "lazward"に転じ、最終的に『群青の空の石』ラピスラズリ (lapis lazuli) となった。

古代ギリシャにおいては青石"sappir"の語が示していたのはサファイアではなくラピスラズリの方であるという説があり、この説の通りならば旧約聖書でモーセがシナイ山にて、神より授かった契約の石版もラピスラズリではないかといわれている。

また日本では、ラピスラズリは瑠璃と呼ばれ、仏教の七宝の一つとしてシルクロードを通じて日本にもたらされた。

鉱物そのものだけでなく、その粉についても6~7世紀頃から最初の鉱物顔料としてアフガニスタンで利用され始め、16世紀初頭にヨーロッパへ輸入される様になってからは『地中海を越えてきた青』という意味のウルトラマリン(azzuro ultramarino)の名前で当時最も高価な顔料として用いられた。
余談であるがアズライトの顔料は逆に『地中海のこちら側の青』を意味する"azzuro citramarino"と呼ばれた(*1)。

2010年代に科博にて購入。

*1:アズライト
→鉱物標本 アズライト(Azurite)

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