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Gudrun Gut & Mabe Fratti “Let's Talk About The Weather“
今回は、独Mの系譜(Mania D., Malaria!, Matador, Monika Werkstatt)の1人Gudrun Gutとグアテマラ出身の前衛音楽家Mabe Frattiのコラボ作品”Let’s Talk About The Weather”をご紹介したいと思います。Gudrun Gutの方は、前回、ソロ作品”Moment”の時にも、その略歴は書いてありますので、そちらをご参照下さい。今回は、コラボレーターのMabe Frattiのバイオグラフィーを少し書いてみたいと思います。Frattiは、そのエーテル的な声と音楽から、グアテマラの代表的な前衛チェリストとして知られていますが、現在は、メキシコに住んでいます。その振り幅は、ノイズ〜クラシック〜エレクトロニクス〜現代音楽のインディペンデントな領域にまで及んでいます。彼女は、グアテマラのペンテコステ派の家庭で育っており、小さい頃から、クラシック音楽しか聴かず、チェロのクラシック教育を受けていました。 また、父親がランダムに持ってきたGyorgy Ligeti(ジョルジ・リゲティ)のレコードや、レコード店で見つけたチェリストのJacqueline du Pré (ジャクリーヌ・デュ・プレ)のDVD等を見聴きして、より前衛的な音楽も体験することとなります。 彼女は10代の頃から自分の音楽を作り始め、教会から外に出た時には、レゲエ、ブルース、ファンクなどさまざまな演奏スタイルを演奏していたようです。因みに、現在使用しているチェロは学校からのプレゼントだそうです。その後、自分のPCで、ファイル共有サイト LimeWireを使いこなすようになって、更に色々な音楽を聴くようになり、その結果、本格的な前衛演奏家/作曲家として、活動を始めています。そうして、2015 年に、Goethe Institutの研修の一環とした、彼女は音楽制作のためにメキシコに行っており、その時に、彼女は著名なアーティストであるGudrun GutやJulian Bonequiなどの多くの音楽家達と共演し、Mexico Cityの即興音楽シーンに参加するようになります。また、その時に、彼女のパートナーとなるHector Tosta(その時はLa Vida Bohèmeに在籍していた)とも知り合い、その後、Amore Muereというグループを結成することになります。2019年に、Frattiは、作家W.G.Sebaldの作品「土星の輪」にインスピレーションを受けて、彼女のファースト・アルバム” Pies Sobre La Tierra”を制作しており、その翌年には、彼女のセカンド・アルバム”Será Que Ahora Podremos Entendernos”を、作曲家Claire Rousayと彼の実験音楽グループTajakの協力の元、作製しています。そうして、2023年には、彼女のパートナーである画家のHector Toscaとのコラボ・ユニットTitanic名義で、アルバム”Vidrio”を作製、「ジャスとチャンバー・ポップの間にある音楽」と評されています。また、同年には、Amor Muereとして、アルバム”A Time To Love, A Time To Die”を作製、リリースしています。このグループは、FrattiとConcepción Huerta, Gibrana Cervantes, Camille Mandokiから成り、またこのアルバムには数年間掛けて作製されているそうです。
以上が、Mabe Frattiの略歴となります。それで、本作品ですが、恐らく、2015年に、FrattiがMexico Cityを訪れた時に、Gudrun Gutと出会い、コラボの約束をしたものだと思います。クレジットを見ると、ヴァーチャル・コラボであり、FrattiはMexico cityの自宅スタジオで作業し、GutはBerlinの自宅スタジオで作業し、2020/2021年に、GutがBerlinのStern Studioでミックスを行っています。なお、レーベルはメキシコのUmor Rexからのリリースです。内容的には、A面4曲/B面5曲が収録されていますが、B2-B5は連作のようです。A1の歌詞はGut, A2の歌詞はFratti, B1-5の歌詞はGut & Frattiの共作となっています。B2-B4は大きな曲を4章に分けていますが、実際の曲間の境界は不明瞭ですので、全体を1曲と捉えても良いかもしれません。それでは、各曲をご紹介していきましょう。
★A1 “Aufregend” (4:25)は、軽いリズムマシンに太めのSynth-Bによるミニマルな曲で、Gutの呟くような歌が微音で入っており、バックには辛うじて/はっきり聴こえるチェロが入っているのが不気味です。
★A2 “El Cielo Responde” (3:47)は、ダブ的な打楽器と子守唄を囁くようなFrattiのVo、それにピアノやドラムマシンのキック音等から成る曲で、声のループや刻むハイハット、太く蠢くSynth-Bの低音等が挿入されています。
★A3 “Walk” (6:03)は、ジャジーなハイハットとそれに不釣り合いなSynth-B、歪んでいくチェロや不明瞭なVoice等が複雑に絡み合う曲で、単に「ジャズ的」とは片付けられない程、破壊的音響になっていきます。
★A4 “In D” (5:25)では、蠢く低音シンセと四つ打ちキックで始まり、段々とビート感が増して、ダイナミックになり、チェロや電子音も入ってきますが、キーはDからは外れません。Terry Rileyの”In C”の別ヴァージョン⁈
★B1 “Air Condition” (5:21)は、浮遊感のあるFrattiのVoとハスキーなGutのVoの絡みが、バックのピアノや電子音の上で繰り広げられているような曲で、全てが曖昧模糊で、虚空に溶けていきそうです。
★B2 “Let's Talk About The Weather I” (2:30)は、不明瞭なチェロの音に、電磁波音やナレーションが絡む曲で、段々とチェロの音が埋もれていきます。
★B3 “Let's Talk About The Weather II” (2:16)は、B2との曲の境界がハッキリしませんが、ナレーション等の音と曖昧な電子音の蠢きから成る曲で、混線した通信を傍受しているようです。
★B4 “Let's Talk About The Weather III” (3:50)も、B3に連続して始まり、バックでドラムが鳴っていますが、完全に前面のナレーションや不明瞭な電子音?に隠されています。
★B5 “Let's Talk About The Weather IV” (4:01)も、B4に連続して始まりますが、段々とモコモコと蠢く電子パルスに形を変えていき、すこーしだけビート感が感じられますが、やはり具体音等に隠れてしまい、収束していきます。
Gudrun Gutのポップネスは完全に封印され、Mabe Frattiが自由に出来るように配慮されたものと想像します。しかも、明瞭な音は少なく、何処か曖昧模糊として不明瞭な音が鳴っているキャンバスに、2人が水彩画で抽象画を描いているかのような音楽となっています。しかしながら、ぼーっと聴いていても、聴き込んでみても、大丈夫なだけの完成度と強靭さも兼ね備えていますので、片意地張らなくても、充分楽しめます。しかし、意外なところで、接点があり、かつ今の通信環境であれば、ヴァーチャルでコラボも出来ると言う、現代のテクノロジーはこの2人のように異文化間の接続を可能にしているのだなぁと感心しました。多分、Gutのミックスも相当、気をつけてやっているのが分かりますね。そんな2人のイカした音楽も体験してみて下さい!
A3 “Walk” (6:03)
https://youtu.be/IrGtWduunS4?si=GKcPO32Rsw2RL3Hv
[full album]
https://youtube.com/playlist?list=OLAK5uy_klJCx56gloYSTVn9sp8QxYwreDM0GefHE&si=ECtpsf1AT2YGGSfu
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