メンデルスゾーン(フェリックス) 無言歌集 リーヴィア・レーフ

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FELIX MENDELSSOHN/ Songs Without Words

第1集から第8集までの全48曲に第49番としてト短調の遺作をつけている完全版

Disk1
第1集 作品19
第2集 作品30
第3集 作品38
第4集 作品53
Disk2
第5集 作品62
第6集 作品67
第7集 作品85
第8集 作品102

各6曲 全48曲

第49番として追加された遺作

Piano:Lívia Rév(リーヴィア・レーフ) 1916年7月5日 - 2018年3月28日(パリで死去)

恥ずかしながら、買ってからまだ全曲を聴くに至っていない。メンデルスゾーンのピアノ曲と言えば厳格な変奏曲が秀逸ですが、この無言歌には時折胸を突かれる曲がある。この叙情の流れを聴いていると、やっぱりこういう分野では姉のファニーの方が才能があったのではないかと思えてくる。随所に彼のというより彼女の作遺品に触発されたようなものも散見される。

Labで書くほどのこともないので、有名な作品30-6『ヴェネチアのゴンドラの歌』で妄想を一つ。

この曲は49曲の無言歌の中で
 この一曲を聞いて水面に浮かぶ花弁が緩やかな流れの中を風にフルフルと回りながら流れ下ってゆく印象を持ったこともあった。
この曲の演奏はたくさんあって、それぞれ印象が違うのだけれど、この動画の中音のアクセントの付け方は均一で、淡々としている。それだけにタッチの余韻が感情を押し殺して切なげに消える。物語を音で紡ぐのではなく、
音の中に物語を思い浮かべられる演奏。

https://youtu.be/2tLdRPCqGgI?si=xfh9IxbhstNx8k4B

日暮て沈む陽の光が鏡のような水面にオレンジ色の時間を流し込む。
川べりに舫われたゴンドラの影が背後の建物の陰に溶け込んでゆくころ
ゆらゆらと一艘の小舟が風に押されながら河口に向かって流れてゆく
舫い綱が緩んで岸を離れたのか、塗りの剥げかかった小舟の船べりは
人の重さから解放された自身の浮力でゆっくりと風に追われて右に左に傾きながら滑ってゆく
昼間の温度を失ったそよ風は、ゆったりした運河の流れの面にトリルのような細かなさざ波を作る
それは風に送られる無数の小さな手になって
主のいない小さな船をかすかに揺すりながら運んでゆく
棹に操られる小舟がまだ周りを行き来するころ、その小さな船にはまだ若い男女の姿があった

櫂も棹もなく、ただ流れるままに下りながら、たまに行合う船からかけられる挨拶
返事をするのではないが、互いに頬寄せたまま、口元はにかんだような笑みを浮かべ
彼女はかすかに手を振った
そのかすかに上気した横顔を亜麻色の長い髪が風にほどけて降りかかる
若者の方に彼女の頭がゆっくりと落ち、目を合わせたまま短い言葉を口にする
やがて行き交う船の途絶えた黄昏れに
水音とともに大きく小舟は揺れ動いた
その後の静寂、風のトリル
今、左右どちらの岸辺に付くでもなく、夕暮れの中を漂う小舟にはもう、二人の姿はない
暮れて行く夕日が落ち切り川面の両側から夜が流れ込んでくる

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