角川書店 角川文庫 悪霊島(上) 第1期

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昭和五十六年五月三十日 初版発行
発行所 株式会社角川書店

昭和53年(1978年)から昭和55年(1980年)にかけて雑誌「野性時代」に連載された横溝正史の長編小説「悪霊島」。
瀬戸内海に浮かぶ周囲14キロばかりの小さな島、刑部島。昭和42年、その島に渡った青木修三という男が謎の失踪を遂げた。名探偵・金田一耕助は青木の上司にあたるアメリカ帰りの大富豪・越智竜平から行方探しを依頼されるも、旧知の磯川警部から青木が既に怪死していることを聞かされる。青木は今際の際に「あの島には悪霊がとりついている... 鵼の鳴く夜に気をつけろ...」との奇怪な言葉を残していた。越智竜平から更なる調査を依頼された金田一は刑部島に渡るが、そこで惨劇が起こる...
横溝正史の実質的な遺作となった作品ですね。古い因習に支配される閉鎖的なコミュニティ、そのコミュニティを二分する二つの勢力、島の地下に広がる大洞窟といったシチュエーションが「獄門島」や「八つ墓村」など黄金期の傑作群を彷彿とさせる作品で、そんな作風は一連の“岡山もの”の総決算、集大成ともいえそうです。この上巻では金田一耕助が久しぶりに磯川警部と再会、島にまつわる2つの事件(青木修三の怪死、浅井はる殺し)の概要を聞き、その後、島に渡り、刑部神社の神主・刑部守衛が“黄金の矢”で串刺しにされて殺されるまでが描かれています。「蜃気楼島の情熱」の志賀泰三のその後が語られたり、金田一が「獄門島」の鬼頭早苗に思いを馳せる描写があるのがファンには嬉しいところです。角川文庫には昭和56年(1981年)に収録されました。
画像は昭和56年(1981年)に角川書店より刊行された「角川文庫 悪霊島(上) 第1期」です。冷たい眼をした女の顔と、海に浮かぶ小さな島。まさに「悪霊島」事件の主要人物の一人である巴御寮人と、事件の舞台である刑部島を描いた表紙画ですね。数羽の鴎が飛び、波も穏やかな様子ですが、不穏な気配に満ち満ちています。「悪霊島」は文庫本化される前に映画化が発表されましたが、それもあってかこの巴御寮人の顔は映画『悪霊島』で同役を演じた岩下志麻に寄せているような気がします。

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