角川書店 角川文庫 姿なき怪人

0

昭和五十九年十月二十五日 初版発行
発行所 株式会社角川書店

昭和34年(1959年)から昭和35年(1960年)にかけて学年誌「中学一年コース」「中学二年コース」に連載された横溝正史の連作短編小説「姿なき怪人」。
フランス帰りのシャンソン歌手・吾妻早苗が殺害された。犯人と目されているのは、早苗との結婚を、早苗の後見人である高名な法医学者・板垣博士に反対された青年・木塚陽介。しかも、木塚は「これから“姿なき怪人”となって、人殺しでも何でもする」との恐ろしい台詞を残していた。その言葉通り、板垣博士の周囲で起こる第二、第三の殺人。次々と凶行を重ねる“姿なき怪人”を新日報社の“敏腕記者”三津木俊助と“探偵小僧”御子柴進少年が追う。
横溝正史が少年少女向けに書いたものを、山村正夫が編集構成したジュヴナイル作品ですね。ジュヴナイルのミステリーというと怪盗・怪人一味対探偵チームの攻防戦という活劇的なイメージが強いのですが、本作で描かれているのは大人向けミステリー顔負けの連続殺人。しかも、死体をトランク詰めにしたり、蠟人形のように仕立てたりとかなりの猟奇度の高さで、当時これを読んでいた学年誌の読者にはさぞかし刺激が強かったであろうことは想像に難くありません。ただ、今読み返すとトリックの使い回しや、真犯人の正体が容易に判ってしまうのが気になるところではありますが...(笑)本書には表題作の他に短編「あかずの間」と座談会「横溝正史の思い出を語る(一)」が併録されています。「あかずの間」は少年少女向け雑誌に掲載されたもの、「横溝正史の思い出を語る(一)」は山村正夫氏司会による座談会で、横溝正史夫人・孝子さんと長男の亮一氏が横溝正史の人となりを語るというもの。ここで語られているエピソードはファンにはどれも興味深いものばかりです。角川文庫には昭和59年(1984年)に収録されました。
画像は昭和59年(1984年)に角川書店より刊行された「角川文庫 姿なき怪人」です。服を着たビスクドールと首だけのビスクドールが映っているサングラス、そして、学者らしい人物。ビスクドールは“姿なき怪人”が狙う双子の少女の暗喩、学者らしい人物は“姿なき怪人”の恨みを買っている板垣博士でしょうか。本編を読めば判りますが、どこか意味ありげな板垣博士の表情が何とも絶妙です。

#横溝正史 #杉本一文 #山村正夫 #角川書店 #角川文庫 #ミステリー #ジュヴナイル #小説 #装画

Default