悲愴』か『悲壮』かそれとも『表題はいらん』のか

初版 2023/08/17 15:36

チャイコフスキー/交響曲第6番ロ短調OP.74『Pathétique』

第1楽章 アダージオ-アレグロ ノン トロッポ
第2楽章 アレグロ コン グラツィア
第3楽章 アレグロ モルト ヴィヴァーチェ
第4楽章 アンダンテ ラメントーソ(もしくはアダージオ ラメントーソ)

あまりにも有名な曲で、何度も聴くくせに書く気がしないという………、真正面からではなく、ちょっとひねくれて一度書き抜けようと思っていた。

タイトルにした『悲愴』と『悲壮』は大きな違いがあって、フランス語の副題Pathétique(パセティーク)はパトス(劇的感情)からの分岐だけれど、その意味では熱情的に捉えられなくもない。

『悲愴』は絶望と悲嘆のあまり心と手をどこにも置きようがない、悲しみの淵に望んで前にも後ろにも行けないそんな状況をイメージさせる。 

『悲壮』はどちらかというとアグレッシブで、絶望はしていない。悲しみをぐっと呑み込んで前のめりに突き進む、奥歯の砕ける音がしそうな覚悟が想像される。
 日本語訳についても諸説あるらしく、いまは『悲愴』が一般的な副題とされているようだ。

ご本人はどうかというとどうも『悲愴』をイメージしていたようだけれど、それが作曲家の苦悩の果てにひねり出されたものか、単にできあがった曲の印象から気軽に付けたものか測りがたい。 
ただ「それがどうした?」と言われるとそれまでだけど、どちらと考えるかが、最終楽章の速度標記をアダージオと捉えるか、アンダンテと捉えるかと言うところにつながるような感じがする。
(あくまで私見だよ。ボクは音楽学者じゃないからね。)

この長大なチャイコフスキー最後の交響曲は華々しいフィナーレを用意されていない。
一歩踏み出せばズブリと沈み込む永久凍土の溶けだした沼地に足を踏み入れて行くような陰鬱な低音の中にその身が心と一緒に沈んで行く。
足先から冷えてゆき、抜きたくても抜けない。
啜り泣くようなエンディングのあとには暗い沼に最後の波紋が浮かんで消えるような趣がある。
全てが今終わったと言わんばかりに。

そんな第4楽章の序奏がはじめから力無く諦念の極みのようなよろけた歩幅を持っているのか、あるいは前にのめりながらも、自分を支える何かに拠って信念を持って前に踏み出して行くための序奏なのか、後者であるとすれば、最近の演奏によく聴かれるようなアンダンテがふさわしいのかも知れない。

第5番なんかもそうだけれど、チャイコフスキーは第1楽章に序奏を用いるとそれとシンメトリカルに最終楽章でも同じ速度の序奏を置くことがある。そう考えるとアダージオかな、という気もするね。実際にはこの部分がはじめはアンダンテと書かれていてあとから親友の指揮者の手でアダージオに直されているのだという。
それが改ざんかどうかは、一概に断言はすべきではないだろうけど、本人の副題に対する気持ちがどれほど深かったかといえば、そんなでもなかったように思えてくる。

ヨアヒム・ラフの交響曲の帯に載っているライナー・ノーツに『作曲者の苦悩の投影だけが芸術音楽ではないのです!』というのがあったけれど、まさにその通りで、この曲の評価は絶対音楽として純粋に終楽章の終わり方のユニークさや第2楽章の美しい舞曲、第3楽章のリズムの天才的な閃きと推進力に耳を傾けるべきだと思う。
それにしても、この曲はどの楽章をとっても完結した美しさがあります。
結局、副題はいらんかったのではないか………と思っています。

でも、この曲の消え入るような最後の波紋を聴いたとき、この曲を幸福な気分で聞き終える人はいないでしょう。
チャイコフスキーは生涯に亘ってうつ病に苦しんでいます。

彼のこの曲を実験的に精神病患者に聴かせた事のある精神科医のデータには総じて内因性うつ病患者の場合、その症状が悪化したそうです。

曲の中にある種の精神的衝動を起こさせる共感性があるのではないかと言われる部分ですが、この作品をあまり情感たっぷりにやられると本当に凭れますね。
曲自体の美しさには手放しで感動する部分があるのですが、僕自身あまり精神的に安定しているときに聴きたいと思って取り出す曲ではないことに気づき、精神科医の実験結果にちょっと虚をつかれました。( ´艸`;)

第4楽章の聞き比べがありました。これはいいわ。ただ、今日の自分の気分では、この曲に関してはフィナーレの魂が消えるようなラメントーソをあまり粘らずに演奏したのを聴きたい。合いそうなのはカラヤンとBPOがいいかなと思ったが、あれ、?カラヤンが指揮棒持ってる……これはVPOだね。演奏はこっちのほうが好きだけど、今日の流れで行くとBPOがいいんだけどね。二人目はインテンポの鬼。ムラヴィンスキーとレニンラードPO。三人目はバーンスタインNPOエモーショナル。テンポが…

四人目が何でこの人?ヴァレリー・ゲルギエフ典型的『悲壮』

今日はムラヴィンスキーだなぁ、個人的には。

古生物を中心に動物(想像上のもの)を含め、現代動物までを描くイラストレーターです。
露出度が少ない世界なので、自作の展示と趣味として行っている地元中心の石ころの展示を中心に始めようかと思っています。
海と川が身近にある生活なので気分転換の散歩コースには自然が豊富です。その分地震があれば根こそぎ持っていかれそうなので自分の作品だけは残そうかとAdobe stockを利用し、実益も図りつつ、引退後の生活を送っております。
追加ですが、
古いものつながりで、音楽についてもLabを交えてCD音源の部屋をつくっています。娘の聴いてるような音楽にも惹かれるものがありますが、ここではクラッシックから近代。現代音楽に散漫なコレクションを雑多に並べていきながら整理していこうかと思っております。走り出してから考える方なので、整理するのに一苦労です。

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