Person3 ニコライ・メトネル 鬼神の時代

初版 2023/08/12 15:14

改訂 2023/08/12 15:14

メトネル/ピアノソナタ第10番イ短調OP.38-1『回想のソナタ』

この音楽家のボクなりの評価は、ラフマニノフまでで終わってしまった20世紀初頭のロマンティシズムの巨匠的作風の評価の埒外にある。

ラフマニノフのすぐ後を追いかけていた星は二つあった。

一つはラフマニノフのような大きな手を待たず、小さな短い指先に余るロマンティシズムを湛え、ラフマニノフを追いかけたセルゲイ・ボルトキエヴィチ。

もう一人は8歳年上のラフマニノフを徹底的に研究し、分析し、彼にないものを自らの長所とするために、敢えてロマンティシズムを音楽の表情からそぎ落とし、マッシヴな音楽的構成力を前面に押し出した別の道を、ラフマニノフの足跡を慎重によけながらも進み続け、演奏者としては勝るとも劣らない技術を発揮する能力を持っていた、このメトネルです。
彼は、ラフマニノフほどのロマンティシズムと叙情の洗練を作品の複雑さや厳格な対位法ソナタ形式の敷衍等で犠牲にしつつ練り上げられている点で、ブラームスの立ち位置を想起させもする。
彼の音楽は、未だ一部の熱狂的な支持者はいるものの懐古的音楽ファンの耳には全てが届くわけではない。
彼の音楽の芯にあるものは揺るぎないピアノの超絶技巧であり、指先のゆとりから来る思いがけないシンプルな歌の部分と重層的な妙味だ。
例えばこのピアノソナタ第10番。
メトネルの今後の決定的な評価があるとしたらそれはやはりラフマニノフに献呈された2つの協奏曲と最後の第3番だろうとは思う。
でも、この回想のソナタSonata-Reminiscenzaと副題が付されたソナタには彼のラフマニノフの全盛期のピアニズムにも劣らない技巧と彼の精緻な構成の網の目を抜け、ちらちらと人間が見える深い抒情性を内包した音楽がある点で一聴に値する。
もちろん掘り下げてゆくにはラフマニノフのソナタを鼻歌で弾くくらいの技術的なゆとりがなければ、表面的に上滑りし、非常に軽いものになってしまうかも知れない。

エミール・ギレリスの全盛期の技巧はそのインフラたり得る。
単一楽章のソナタで曲想の位置づけは『忘れられた調べ第1集』という8曲の組曲の第1曲というややこしいものだが、素晴らしい曲です。

間違いなく、このニコライ・メトネルはセルゲイ・ラフマニノフと肩を並べて歩いていた鬼神のようなピアニストの一人でした。
緩やかなテンポの部分の『郷愁』と激しく思い出を抱きしめたまま嗚咽するような『時代への執着』が凄まじい対比をみせます。
決して美しい曲であるわけではありませんが、一度聴くと特有の香りが残る。変奏の部分を過ぎて終曲に至る音楽の終息は、安らかです。

古生物を中心に動物(想像上のもの)を含め、現代動物までを描くイラストレーターです。
露出度が少ない世界なので、自作の展示と趣味として行っている地元中心の石ころの展示を中心に始めようかと思っています。
海と川が身近にある生活なので気分転換の散歩コースには自然が豊富です。その分地震があれば根こそぎ持っていかれそうなので自分の作品だけは残そうかとAdobe stockを利用し、実益も図りつつ、引退後の生活を送っております。
追加ですが、
古いものつながりで、音楽についてもLabを交えてCD音源の部屋をつくっています。娘の聴いてるような音楽にも惹かれるものがありますが、ここではクラッシックから近代。現代音楽に散漫なコレクションを雑多に並べていきながら整理していこうかと思っております。走り出してから考える方なので、整理するのに一苦労です。

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