ベートーヴェンのカヴァティーナと大フーガ

初版 2023/11/23 16:08

改訂 2023/12/11 22:05

ベートーヴェン/弦楽四重奏曲第13番変ロ長調op.130
第1楽章 アダージオ・マ・ノン・トロッポ
第2楽章 プレスト
第3楽章 アンダンテ・コン・モート・マ・ノン・トロッポ
第4楽章 アレグロ・アッサイ
第5楽章 カヴァティーナ//アダージオ・モルト・エスプレッシーヴォ
第6楽章 選択1 大フーガop.133
     選択2 アレグロ

ベートーヴェンの弦楽四重奏曲の傑作第13番作品130に対して古今の弦楽四重奏団は様々なアプローチをとっています。つまり、この傑作のフィナーレをどうするか?

ですね。

この130の第6楽章は出版社の求めに応じて不人気だった大フーガの代わりにはるかに軽く短いフィナーレを新たに作曲しました。彼はその曲が演奏されるの耳にする前にこの世を去ります。
このYouTubeのアルバンベルクSQは第13番の作品全6楽章を全7楽章とし、最初のフィナーレであった大フーガのうしろに第7楽章として新たなフィナーレを演奏する形をとります。
スメタナSQはライブで大フーガを最初に演奏し、それから第13番を新たなフィナーレを終楽章として演奏していました。また、大フーガまでで新たな短い楽章を演奏しない演奏も今でも聴くことができます。7楽章形式は長いよね。

大フーガ作品133自体のの凄さは様々な音の歴史を経由してきた現代の耳にはともかく、当時の効き手に披露される音楽としてはあまりにグロテスクであったのかもしれません。出版社がクレームを入れるのも商売だからわかる気がします。

でも、ボクは敢えて言いたい。

ボクはどうしても、終曲に大フーガを持ってきている演奏を指示します。

その理由は作品130の弦楽四重奏曲の第5楽章のカヴァティーナにあります。

カヴァティーナ。
もともとは18、19世紀のオペラやオラトリオで、アリアよりも単純な形式の独唱曲とか19世紀のイタリア・オペラで、主な歌手が登場する際の技巧的なアリアとか言う意味があったといわれ、「ロマンス」などと同じく、抒情的な旋律を表現の主体とする小品という意味もあるようで、こちらの方がイタリア語のカヴァータ(楽器が奏でる音色)の意味に近いとのこと(受け売り)。
ホントはヨアヒムラフの有名なカヴァティーナについて書こうと思って書き始めたのでした。比較のためにベートーヴェンのカヴァティーナを挙げようと思ったのですが、こっちがやっぱり凄い。

カヴァティーナという楽式のイメージは、ボクはこの作品130で刷り込まれている。
それははじめて聴くにはあまりにも突き抜けた悲痛の歌でした。
ピアノソナタ第31番の第2楽章のアリオーソ・ドレンテ「嘆きの歌」と同様の、決して抒情的というのではない、楽器から出る音を超えたところから来るもののように聴こえました。
それが弦楽四重奏曲第13番変ロ長調op.130の第5楽章にあるアダージオ・エスプレッシーヴォです。
この頃の最後期のベートーヴェンは特に弦楽四重奏曲とピアノソナタに於いて、普通に意味されるところの「音楽」を超えてしまっているようです。
音によるメタファー(暗喩)とでも言うのかな。


モノクロームの世界の中で美しい女性の見開いた大きな瞳からゆっくりと涙が溢れ、やがて凛とした寒さに凍り付いた頬を静かに伝う。
伝うその涙の跡だけが暖かく、失われたぬくもりが戻ってくるようにモノクロームの世界から抜けてゆく…
彼女の心の動きを何かの衝動で瞳を見開いた瞬間から頬を伝う涙が、顎先からこぼれるまでを音にして切り取ったと想像してみたら、あんな音楽になるのかな。


数瞬、ヴァイオリンが通奏の上でふうわりと浮き上がり、掠れたような切れ切れの歌を奏でます。(後にシューマンが自分の弦楽四重奏曲で同じようなことを試みています。)

作曲当時の出版の在り方は今も同じようなものだと思いますが、それは無理からぬこと。かといってフィナーレふたつを並べる演奏の仕方が再現芸術の王道なのか。かなり苦しい選択であるような気がします。

この抜けきった悲痛を受け止めて登場するのはあの長大な大フーガしかあり得ないと、ボクは強く信じています。

紹介するアルバンベルクSQのライブビデオは二つのフィナーレを並べています。

古生物を中心に動物(想像上のもの)を含め、現代動物までを描くイラストレーターです。
露出度が少ない世界なので、自作の展示と趣味として行っている地元中心の石ころの展示を中心に始めようかと思っています。
海と川が身近にある生活なので気分転換の散歩コースには自然が豊富です。その分地震があれば根こそぎ持っていかれそうなので自分の作品だけは残そうかとAdobe stockを利用し、実益も図りつつ、引退後の生活を送っております。
追加ですが、
古いものつながりで、音楽についてもLabを交えてCD音源の部屋をつくっています。娘の聴いてるような音楽にも惹かれるものがありますが、ここではクラッシックから近代。現代音楽に散漫なコレクションを雑多に並べていきながら整理していこうかと思っております。走り出してから考える方なので、整理するのに一苦労です。

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