声― THE COLD SONG
初版 2024/03/16 17:18
改訂 2024/03/16 17:18
1983年。HIV(後天性免疫不全症候群=エイズ)という恐怖の感染症が世界を席巻した頃、エイズでなくなった最初の著名人クラウス・ノミのことをいつか書こうと思って書き飛ばしたものを改めて補完してみた。
彼は音楽の様々なジャンルだけでなく、舞踏の世界にも足跡を残したパフォーマーだった。
享年は39歳だったと記憶している。
一目見たら忘れられないフランケンシュタインの怪物のようなメイク。その窪んだゲルマン的な悲愴な目の輝き。
知性的な哀しみを湛えた声質。カウンターテナーといえるのかな。
音楽としての代表的なジャンルはオペラロック化、ある意味プログレッシヴ・ロック
フレディ・マーキュリーにも共通するものがあるけれど、ボクが彼の『The Cold Song』を聴いていて、思ったことは長い時代を経て発達してきた声楽というジャンルの『声』という楽器についてだった。
それはマイクロフォンのない、遙かな時代から遠く広く聞こえるように、様々に錬磨され、発声技術として確立された呼吸法や肉体的な声帯の鍛錬等によって今日まで独自の価値を保ち続けている。
クラシックな『古い』歌い方なのではない。
楽器なのである。
楽器である以上はバス、テノール、アルト、メッツォソプラノ、ソプラノとその性能に合わせ規格が決められ、音楽によって必要な楽器の編成として組み入れられる。
一人一人がニコロ・アマティやストラディ・バリウスやガルネリウス・ダルジェスを持っているのです。
現在のニュー・ウェイブやロックはもちろん鍛錬はされているものの遙かに多様で個性的な通常の声帯域を使いつつ、不足する部分をマイクロフォンの性能の上で表現する。
だから、その歌い手の音域に合わない無理な音が求められたとき、その声はかすれ、裏返り、苦しげな叫びにもなる。
でも、それは人間の痛切な表現法として理にかなっていて、ボクらはその限界を超えようとする魂の生々しさに感動する。
クラウス・ノミはそういうやり方をとらなかった。
現代のミュージックシーンの中にありながら、彼の音域はコントロールされ、高音が無理なく楽器としての性能に裏付けられた正確な音を奏でた。
それは静かな激情でした。
現代的であり、その歌唱法は伝統的であり、楽器としての側面を多く感じさせながら、マイクロフォンを通しても同様のやり方を押し通した。様々な可能性があって、様々なジャンルの人の心に引っかかった。
彼の楽器は様々なシーンで奏でられた。
『Tne Cold Song』は
もともとは『キング・アーサー』の第3幕で歌われている大地の精霊の、まあ言わば『ぼやき』ですね。オペラの詩はジョン・ドライデン。作曲はイギリス音楽の父と言われるヘンリー・パーセルです。このオペラの一節をアレンジしたものですね。ジャンルは大衆受けする恋愛冒険物語。このシーンはアーサー王の婚約者エメリンを敵サクソン王に使える魔術師オズモンドにとらえられ、彼の横恋慕を拒んだ彼女を振り向かせるため、魔術師は自然界を氷に閉じ込め、大地を凍てつかせる。『雪の女王』のノリです。これを救うため、凍り付いた大地を目覚めさせようと愛の天使キューピッドが降臨し、大地の精を目覚めさせ、エメリンを救おうと眠に就いた老いさらばえた『大地の精に呼びかけます。その呼びかけに渋々大地の精が応えるところだというシーンのセリフみたいですね。
汝は何の力か?
私を眠りの底より起き上がらせる者とは?
しぶしぶ のろのろと
永遠の雪の寝台から
見えぬか、これ程がちがちで
ひどく年老いた姿が?
厳しい寒さにとうてい耐えられぬ…
私は殆ど動けぬ
息もできぬ
私は殆ど動けぬ
息もできぬ
どうか
どうか私を
元の凍てつくままに…
どうか私を
元の凍え死にゆくままに
クラウス・ノミの独自性はオーケストラの刻む音にその高さの声を合わせて、短いフレーズに切れ目を入れて均一化し、詩の言い回しの時代がかった古風を独白のような世界観に変換して提示しているようです。その声の抑揚をオケがとらえて合わせているのではないような印象ですね。
余談ですが、
このオーケストラと共演した怪作『The Cold Song 』は小林克也と伊武雅刀のシュールギャグアルバム、スネークマンショーの『急いで口で吸え!』の中でも使われていました。
Mineosaurus
古生物を中心に動物(想像上のもの)を含め、現代動物までを描くイラストレーターです。
露出度が少ない世界なので、自作の展示と趣味として行っている地元中心の石ころの展示を中心に始めようかと思っています。
海と川が身近にある生活なので気分転換の散歩コースには自然が豊富です。その分地震があれば根こそぎ持っていかれそうなので自分の作品だけは残そうかとAdobe stockを利用し、実益も図りつつ、引退後の生活を送っております。
追加ですが、
古いものつながりで、音楽についてもLabを交えてCD音源の部屋をつくっています。娘の聴いてるような音楽にも惹かれるものがありますが、ここではクラッシックから近代。現代音楽に散漫なコレクションを雑多に並べていきながら整理していこうかと思っております。走り出してから考える方なので、整理するのに一苦労です。
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