孤高のバガテル Beethoven op.126
初版 2024/01/26 17:38
改訂 2024/01/26 17:38
ベートーヴェン/6つのバガテル op.126
バガテル第1番ト長調 アンダンテ コン モート
バガテル第2番ト短調 アレグロ
バガテル第3番変ホ長調 アンダンテ
バガテル第4番ロ短調 プレスト
バガテル第5番ト長調 クワジ アレグレット
バガテル第6番変ホ長調 アンダンテ アマービレ コン モート
ここまで来たとき、彼の創作意識は、ほぼピアノからは離れ、その残り少ないほとんどが、弦楽の発する擦過音の持つ
耳への明瞭さの中に没頭してゆく。
これ以後の作品は最後の作品であるレオノーレ序曲第1番まで12曲となるがそのうち弦楽が主体となるものが7曲を占める。
バガテルは様々な作曲家が書くけれど、そのほとんどが作成途中で生まれたつながりにくいアイデアや、捨てがたく残ったフレーズからの展開である。
曲達には有機的な関連性があるというより、ひとつに纏まりのよいものがその時そこに7つあったり、6つあったりしたことが多いのではなかろうか。
このベートーヴェンの最後のピアノ作品ははじめから6曲を連続で弾くように並べられている。
緩、急の交替するひとまとまりの作品である。
ソナタに聴かれるような作品相互の関連性は聴き取れないけれど、その深さと推進力、力強さと間の持つ静謐は偉容。
6曲全てが素晴らしい。
小品、(例のエリーゼもバガテルと呼ばれる。)ではあるが、
その音楽に入り込んだ先には第29番ソナタの長大な緩徐楽章があったり(第6番変ホ長調op.126-6)、バッハに対する対話のように始まるト長調op.126-1アンダンテ コン モートの豊かで落ち着ききった内省のからの歌。
第31番のソナタの中にもう一度浸ってゆくような暖かな懐がある。
ボクはベートーヴェンがピアノに向かって自作を弾いているときの情景を想像したことがなかったけれど、この6曲のバガテルにはそれがよく登場する。
苦はなく、既に自分の中にある音楽をどういう響きと隣り合わせてゆこうかと指に触れる鍵盤が発しているだろう響きを自分の中にある絶対的な響きの核に置き換える。
ロ短調のop.126-4ああ、凄いなと、これは演奏者の的確な音量と熱中が生み出す相乗効果もあるかも知れないがピアノ曲として最晩年に到達した作曲者のレベルがそのまま乗り移っている。このプレストは凄い。
ただ、グールドのテンポはこりゃプレストじゃないなあ。
その後に置かれたクワジ アレグレットのト長調の歌。(op.126-5)
肩を大きく左右に揺らせながら頭の中に響く鍵盤の発するだろう約束の音に身を委ねるような楽しげなイメージが浮かぶ。
最後の126-6はバルカローレ風の穏やかなテンポから始まる。
彼の作品の何処かで耳にしたテーマが聞こえるように愛おしげで優しく、ペダルが入ると音楽はピアノを中心に周りながら拡散してゆく。
バガテルという名称は多分に作曲者の謙遜のような部分があるのだろうけれど、第2番のト短調の彼がそれまで見せたことのない音の取り方、「まだ引き出しには沢山のイメージがあるんだよ」と見せつけられたようだ。
何処にも最後などという枯れ方はない。
単にたまたま最後になったピアノのための作品であるというにすぎないんだろうね。
古典的なクッキリとした旋律の中には情動的な匂いはなく、これひとつを持ってしても、ベートーヴェン像をひとつに括ることの危うさを思い知る。
最後になったけれど、126-3の変ホ長調の潔癖で深い清水の藍色に見える水を両手ですくったとき、見えていた深さが手のひらに残った手の切れるような冷たさの知覚に置き換わってしまうその捉えようのない深淵を聴く。
続けて聴いて欲しいのだけれど、これはグールドを聴くべきでしょう。
Mineosaurus
古生物を中心に動物(想像上のもの)を含め、現代動物までを描くイラストレーターです。
露出度が少ない世界なので、自作の展示と趣味として行っている地元中心の石ころの展示を中心に始めようかと思っています。
海と川が身近にある生活なので気分転換の散歩コースには自然が豊富です。その分地震があれば根こそぎ持っていかれそうなので自分の作品だけは残そうかとAdobe stockを利用し、実益も図りつつ、引退後の生活を送っております。
追加ですが、
古いものつながりで、音楽についてもLabを交えてCD音源の部屋をつくっています。娘の聴いてるような音楽にも惹かれるものがありますが、ここではクラッシックから近代。現代音楽に散漫なコレクションを雑多に並べていきながら整理していこうかと思っております。走り出してから考える方なので、整理するのに一苦労です。
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