瀕死の靴の救命救助(大袈裟ですが)

初版 2022/05/23 12:07

改訂 2024/07/01 11:22

靴、履いていると汚れますよね。しかし、この靴は…。

イーベイで出品されていたポールセン・スコーンの靴の画像です。どう使用したらこんな汚れになるのか分からないほど酷い状態ですが、カーフの質は良さそうでセミスクエアトゥのラストも綺麗だなと感じました。グリーン製でラストは88と予想しました。

どの角度から見ても汚れがひどく、出品されたこの靴には誰も見向きもしていないようでした。当然ながら私以外は他の方のウォッチリストにも登録されません。

出品者の方ご自身はこの靴のことについて何らご存知ないようでした。インソックのロゴからはポールセン・スコーンネームの靴であることが分かりますが、インナーの文字の情報もなく、質問でアウトソールの長さ、幅を教えてもらい、履けない可能性も念頭に入れ入札することにしました。みみっちいお話ですが、ラストを質問して「88」という答えが来ると、分かる人には「グリーン製」と判明し落札価格が上がってしまいます。ですからそれ以上は何も聞かずに入札しました。

ヒールを見る限りステッチのほつれもなく、構造上の大きな問題はないようです。

出品者の方のソールの画像からは、70年代のグリーン製と思われました。トゥとヒールに金属製のチップが嵌められていますので、まだソールはしばらくはもちそうです。

結局落札金額は2000円程で、英国からの送料は4500円と送料の方が高くなりました。

到着した直後の左側の靴画像です。何か粘性の高い液体が固化したような表面ですが、汚れの根は浅そうな印象です。

メダリオンの穴の中にもこの汚れが入り込んでおり、まず爪楊枝で穴の汚れを丹念に掻き取りました。爪楊枝は先端が柔らかく、革を傷めず汚れが取れる優れものです。

その後サフィールレザーバームでゆっくり表面を湿らせてから汚れを落とします。このローションは汚れ落としの力はそう強くないですが、とにかく革に優しいので私はよくこれを使っています。今回もゴシゴシ拭いては革が傷むので、まず左側を毎日一回ずつ薄くこの液体を塗り、その後表面全体を拭き取ることを5日間繰り返しました。

その後は同社の無色の乳化性クリームで磨きを掛けます。コバ部分も汚れていましたので、こちらも出し縫いの穴の中を爪楊枝で掃除し、ヤスリ掛けをした後にコバインキを塗りました。靴はコバが汚いと「だらしない感じ」が漂いますが、この手入れで多少精悍な印象になったように思います。

右はレザーバームで汚れを落とし終えた状態。まだクリームは入れていません。

片側だけ汚れを落とし乳化性クリームを入れた画像ですが、かなり綺麗になりました。何とか外に履いていけそうな雰囲気です。

両側レストア終了です。化粧直しが終わった姿をご覧ください✌

1970年代製作 ポールセンスコーン別注 エラスティックスリッポン

https://muuseo.com/shinshin3/items/295

グリーン参る

#お手入れ

1990年3月に行ったロンドンで、初めてエドワードグリーンのドーバーを購入しました。以来、ここの靴の虜になりました。質の良いしっとりとしたカーフ、美しい木型、無い物ねだりと分かりながら、この時代のエドワードグリーンの靴を今も追い求めてしまいます。
他に古い靴も修理して履いています。特に戦前の英国靴は素晴らしいと実感しています。

Default
  • File

    mjmat

    2022/05/23 - 編集済み

     画像を見て,こんなに蘇るんだと感心しました。とても興味深く拝見しました。
    対象は異なりますが,僕も造形や玩具類のリペア作業の際には爪楊枝をよく使います。

    返信する
    • File

      グリーン参る

      2022/05/23 - 編集済み

      コメントありがとうございます。蘇るかどうかは技術的なことではなく、革が良いかどうかにほとんどかかっているように感じています。その点で現在の靴より昔の靴の方が長持ちするかもしれません。爪楊枝はおっしゃる通りいろんなところで役にたちますよね。革の表面がささくれて剥がれかかっている時も、ルーペを使って爪楊枝の先端に木工ボンドを少量付けて接着させ、何度もピンチを脱しています。

      返信する
  • File

    mat2193

    2022/12/22 - 編集済み

    すごいです!最初の写真とレストア後の姿は別物ですが古い家具にしろ他のものにしろレストアを前提として素材が選ばれていることにいつも感心いたします。

    返信する
    • File

      グリーン参る

      2022/12/22

      この状態の靴が本当に復活するのか、画像だけからは分からないことがほとんどです。ですから失敗もありました。ただコンディションの悪さが根の深いものか、表層だけのものか、これを見極める訓練は少しだけ積めたかもしれません😅

      返信する
    • File

      mjmat

      2023/01/07

      改めて修復前後の写真を拝見しました。やはりこれは,対象に対する愛情がなせる業と思います。

      返信する
    • File

      グリーン参る

      2023/01/07

      mjmatさん
      そう言って頂けて嬉しいです。でも、18世紀に海底に沈んだロシアンカーフをレストアした苦労は、きっとこの何十倍も大変だったことと思います(笑)。

      File
      返信する
  • File

    sat-2019

    2024/03/02 - 編集済み

    革靴に対する愛情がものすごく伝わるLabログでした。
    レストアして蘇る姿は、拝見して他人事ながらとても嬉しく感じます。

    返信する
    • File

      グリーン参る

      2024/03/03

      sat-2019さん
      男性女性問わず、大事にされた靴を履いている人を見ると幸せになります。1970年代のエドワード・グリーンの靴は、製作に大変手間隙がかかっているのを私は知っています。当時の職人さんの高い技術、良い素材で出来た靴、無駄にしたくないなぁと思ってしまうのです😅。

      返信する
  • File

    とーちゃん

    2024/03/04 - 編集済み

     素晴らしいっ! … としか、
    言いようがありません!

     靴も、
    価値の判る方の手元に届いて、
    本望でしょうね!!

     モノを大切にするお気持ちを
    見倣わせていただきます。

    返信する
    • File

      グリーン参る

      2024/03/04

      とーちゃんさん、
      有難いお言葉をありがとうございます。
      残念な扱いを受けた靴でも私の所に来て綺麗になってくれれば嬉しいです。
      同じ足元でも、ある方は「愛車の洗車が大好き」、でも私は車が汚くても気にならない性質です。この差は一体なんでしょうか(笑)。

      返信する