角川書店 角川文庫 迷宮の扉

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昭和五十三年十二月二十五日 初版発行
昭和五十四年十二月三十日 五版発行
発行所 株式会社角川書店

昭和33年(1958年)に雑誌「高校進学」に連載された横溝正史の長編小説「迷宮の扉」。
三浦半島の先端、城ヶ島の燈台からほど遠からぬところに“竜神館”という奇妙な館が建っていた。そして、東京湾をはさんで反対側の房総半島の先端、洲崎の燈台付近には“海神館”という奇妙な館が建っていた。瓜二つの構造を持つこの二つの館にはそれぞれ東海林日奈児、月奈児という少年の当主がいるが、二人は元々シャム双生児だった。二人は父親である東海林竜太郎の莫大な遺産を巡って、周囲の人間たちを巻き込みながら対立していた。やがて起こる奇怪な連続殺人事件に名探偵・金田一耕助が挑む。
横溝正史が少年少女向けに書いたものを、山村正夫が編集構成したジュヴナイル作品ですね。ジュヴナイルというと怪盗や怪人が跋扈する、江戸川乱歩の“怪人二十面相シリーズ”的なものを思い浮かべますが、本作で描かれているのは、財を成した父親の莫大な遺産を巡る元シャム双生児と、その周囲の人間たちの軋轢から起きる連続殺人事件。まるで家族間に諍いを起こすのが目的としか思えない遺言状なども出てきて、それはもう“ジュヴナイル版犬神家の一族”とでも呼びたくなるような雰囲気の作品です。ただ、今読み返すと終盤の謎解き部分の雑さと超展開が正直、う~んという感じですが、小学生の頃に夢中で読んだ記憶もあって、個人的には思い出深い一編です。本書には表題作の他に「片耳の男」「動かぬ時計」の短編2編が併録されています。こちらも少年少女向け雑誌に掲載されたものですが、「動かぬ時計」の切なさが泣けました。角川文庫には昭和53年(1978年)に収録されました。
画像は昭和54年(1979年)に角川書店より刊行された「角川文庫 迷宮の扉」です。胴体は一つしかないのに、頭が二つ、手が四本、足も四本持っている怪物の像。まさに「迷宮の扉」の“竜神館”(あるいは“海神館”)の正面の壁に彫りつけられた像を描いた表紙画ですね。その像に向かって伸びているシャム双生児と思しき影と、それらを見つめている二つの眼が何とも意味深です。横溝ワールドのおどろおどろしさは残しつつ、ジュヴナイルらしい雰囲気で仕上げたこのシリーズは買いやすかったので、横溝好きの小中学生にはありがたかったです。

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