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ウォーキン、マイルスデイビス
アルバムタイトル曲「ウォーキン」は、この直前に興隆したビバップよりも20年も前の、ルイ・
アームストロング時代のブルース表現に近い。復帰アルバムの一発目の冒頭に、マイルスは、
自分の紆余曲折を飛び越した時間軸を設定したかったのかもしれない。これはマイルスの復帰宣言。
「俺はジャズの現場にまた戻って来た」声と聞くと、納得がいく冒頭の1曲目。
オールドスタイルのブルース曲ではあるが、トランペット、トロンボーン、テナーサックスという
3ホーン・サウンドは、マイルスが『クールの誕生』で生み出した都会的な響きを持つ。
さぁマイルス のジャズ史上でも有名な名盤を聴くぞと勢い込むと、1曲目のまったりとした
リズムや悠長な雰囲気のソロに出会って、これは何だ?と思う。しかしイアン・カーは
『マイルス物語』の中で、この1曲のために3ページを費やしている。そして「このセッションの
録音でマイルスは初めて、どこから見ても納得のいく1枚の傑作を生む」と評価する。一発目に
象徴的な曲を持ってきて、アルバムやそれ以降の自分の音楽活動全体をひとまとめにする手法を、
これ以後マイルスは『ネフェルティティ』などで見せる。それはスタジオ録音アルバムを、
自分の存在証明の証として強く意識した彼の特徴でもある。
前口上としての1曲目が終わると、一転して急速ビートの曲になる。溜めていた力が開放される
「Bluue'n' Boogie」。3曲目「Solar」からは別セッションで、バンドのパーソネルも異なる。
ホーンがマイルスのトランペットとテナーサックスのクインテット編成。マイルスはミュートを
つける。この「Solar」は、マイルス唯一の自作曲なのだが、アルバムの中で目立たない感じに
収まってしまっている。だが、この曲だけが独立して、カフェの中で流れていたら、かなりお洒落に
響く名曲、名演奏になっている。ケニー・クラークのブラシワーク、パーシー・ヒースのウォーキング
ベースワイン、ホレス・シルバーのピアノもしっかりまとまっている。
4曲目は「あなたは愛がなんたるかを知らない」というバラード。マイルスのミュートも切なさを
滲ませてマイナーな曲想の中を漂う。だが、後の「枯葉」で聞かれるような切迫性はまだない。
5曲目もアップテンポの「愛するか、去るかして」で、『ウォーキン』は終わる。