ピンクレディーペッパー警部

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人気絶頂の頃はあまりにも多忙を極めていたためオリジナルアルバムを制作できなかったピンク・レディー。
本盤は、まだ海のものとも山のものともわからない時期に作られたファーストアルバムです。
”モンスター”に化ける前の、初々しい二人の歌声に耳を傾けてみましょう。

評者のお勧めは「乾杯お嬢さん」~「ゆううつ日」~「S・O・S」の流れ。
「乾杯お嬢さん」は「ペッパー警部」のB面で、「ペッパー警部」のあまりのぶっ飛びぶりに腰を抜かしたレコード会社のお偉いさんがAB面差し替えの検討はできないかと言ったと伝えられている曲です。
差し替えたら差し替えたで、当時19歳の二人が♪ワインなんか飲んでみました~とテレビで歌ったら、それこそ問題になったでしょう。
♪ジンと胸に迫る恋でも~は、デュオ名がカクテルから取っているため、お酒の「ジン」とのダブルミーニングとも考えられます。
「はいからはくち」は「ハイカラ白痴」と「肺から吐く血」の意味を持っているように。
その意味でも「ペッパー警部」でのデビューは正解でした。

しかし音楽的には優れた一曲です。
ズーンと低いベースから始まり、水がお湯になり沸騰していくように音程がかけあがり、華やかなストリングスが追っていくイントロ。
声質が異なるミーとケイの絶妙なハーモニー、最後の♪そんな言葉をかける誰かが現れる~は輪唱の形になっています。
今のアイドルはあれだけの人数がいても、全てユニゾンですね。

「ゆううつ日」は、後年の快進撃しか知らない人にもぜひ聞いていただきたい作品です。
ストーリーは太田裕美さんのファーストアルバム「まごころ」に収録されている「グレー&ブルー」(太田さんの自作)に近いですね。
阿久悠さんが太田さんのアルバムまでご存じだったとは思えませんが。
阿久さんにしてはかなり繊細な表現が織り込まれていて、ボーカルはやや粘度が高いきらいもあるものの、歌の世界観をしっかりと表現しています。

♪ひとり手紙など書いて…は、翌年に阿久さんが書いてヒットさせ、今では一般用語にまでなっている「思秋期」の♪絵葉書なんか書いている…のプロトタイプともみなせます。「ゆううつ日」のヒロインはやや自嘲気味に自らの境遇を嘆き、阿久さんらしくありませんが、本作で描けなかった「別れの悲しみを受け止めて、前向きに歩んでいく姿勢」を一気に表現しきった作品が「思秋期」と考えれば、さらに味わいが深まります。同様に、「乾杯お嬢さん」が♪秋の日暮れセンチメンタル~で始まるのは、前年阿久さんが「感傷的な十七歳」という詞を書いたところ、カタカナのタイトルを続けるほうがよいと占い師に言われたという理由で「センチメンタル」に改題されたことをふまえているようにも思えます。

LPレコードではB面に相当する後半は、デビュー当時大人気だったベイ・シティ・ローラーズのナンバーの日本語版。
評者も「S・A・T・U・Y、D・A・Y、 Night!」と拳を振り上げた世代ですから(この曲は収録されていません)、今でも懐かしく思い出します。「二人だけのデート」は後年河合奈保子さんがファーストライブで、同じ日本語詞で歌ったことも付け加えておきましょう。

ジャケットも、背景のいちょうの鮮やかな黄色と、二人の深紅の衣装のコントラストが見事です。
今でこそ当たり前になりましたが、当時は飛び抜けて新鮮な色彩でした。
撮影日は寒かったのではないでしょうか。

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