さまよい小椋佳

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意外な歌手にも影響を与えたミリオンセラー
2010年11月4日に日本でレビュー済み
のっけから別の歌手のことで恐縮だが、松山千春が音楽を志したのは、岡林信康と
加川良を聴いた経験によると言うのは割と有名な話である。その彼が修業時代(と
いうか歌手になる前のバイト時代)、当時流行したフォークを聴きあさる中で、井
上陽水(「氷の世界」)と小椋佳(「彷徨」)に強い感銘を受けたと彼の自伝には
ある。その中で小椋佳を評して、「曲の山らしいところがあまり感じられないのに
曲全体で聴くとビシッと盛り上がっている(「メリハリがある」だったかな?)」
と評価しております。

このアルバムの中には劇的な言葉も、絶唱型の強いサビの部分もありません。かと
いって、ほんわかと癒し的な表現に終始しているのでもなく、良く練り上げられた
歌詞とその歌詞に寄り添うようなメロディが結びつき、千春言うところのメリハリ
をつけているのでしょう。最も有名な終曲の「さらば青春」も二分くらいであっさ
り終わり、絶唱するわけでもないので、一回聴いただけでは良さがわかりませんが、
歌詞の良さと語り口のうまさでトータルでメッセージが伝わります。個人的には、
「銀河英雄伝説」のエンディングの曲のような大盛り上がり型も嫌いではありませ
んが、繊細な心の動きを過不足無く伝える,当盤のような表現方法は当方もこの年
齢になってだんだんわかってきたというところでしょうか。

ちなみに、盤面の人物は当然小椋氏ではなくNHKでのコンサートが放送されるまで,
5年間もの間、いわゆる覆面歌手として(本職は第一勧銀のエリートサラリーマン)
活動していたせいか、初めてテレビに出た時にはずいぶん驚かれたそうな。

なお、日本で最も最初のLPのミリオンセラーは井上陽水の「氷の世界」、次が小椋
佳の「彷徨」で3人目が松山千春の「起承転結」というのはなかなか面白い話です。

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