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DVD「第七天国」
何と言っても第1回アカデミー賞の監督賞、女優賞、脚本賞受賞、さらには1927年キネマ旬報外国映画ベストテン第1位という勲章を得た、誠に名作の誉れ高い作品ですが、個人的には本フロアのシリーズのラインナップを見るまで寡聞にしてその存在を知ることがなかったのは、さすがに不勉強でした。それでも、この場でやっと巡り合えたのは良かったですかね。貧しく、社会的な階層も低い若い男女が紆余曲折して結ばれる折に男性は招集され、離れ離れになるも毎日決まった時刻にお互いの名前を呼び合い愛情を確認、戦死の方を受けるも男性は帰還する、失明しているが希望は失わない。何と美しいストーリーでしょう。ただ、現代的には少し陳腐かな。 ちなみにこの本展示アイテム収録作、最近動画配信サイトで再見したのですが、活動弁士の澤登翠の語りが付加された版で、初見からかなり年月が経過しているから比較しにくいのですが、やはりサイレント映画には弁士がいた方がいいと改めて実感しました。 さて、本展示アイテムに収録されている淀川氏の解説の中に興味深いエピソードがありましたので、それを紹介しましょう。淀川氏が戦後、映画雑誌編集の傍らに結成した『映画友の会』の会合で本作の話をしたそうです。男性(チコ)が女性(ダイエンヌ)に語った口癖が「上を向いて歩きなさい」、という話をしつつ、本作がいかに素晴らしいかを力説したのですが、その場にいたのが永六輔という可愛い子供!? 後に永六輔は『上を向いて歩こう』なんて歌を作っちゃったのだが、どうもあやしい、『第七天国』のこれから来てるんだと思った旨を語っておられました。 https://www.youtube.com/watch?v=euCdlNuwqh0 #DVD #淀川長治 #第七天国 #フランク・ボーザージ #ベンジャミン・グレイザー #ジャネット・ゲイナー #チャールズ・ファレル #永六輔 #上を向いて歩こう
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DVD「ミラグロ/奇跡の地」
劇場公開当時はジョン・ニコルズの小説を原作としたドラマ映画という触れ込みで、前作『普通の人々』でいきなりアカデミー作品賞と監督賞を手中に収めたレッドフォード監督の2作目ということもあり、期待をして日比谷みゆき座にはせ参じたのですが、ちょっと肩透かしを食らった、というのが観た後の素直な感想でした。テイストとしてはドラマというより、むしろファンタジーの風情であった、というのがその理由ですかね。その辺のストーリー等に関することは別の機会があれば、その際に述べたいと思います。 さて、本展示アイテム収録作は第61回(1988年度)アカデミー賞の作曲賞を受賞したのですが、その報を目にしたときは少々意外でした。実際、授賞式でもプレゼンターが受賞を発表した際、作曲のデイヴ・グルーシンが会場に不在だったくらいですしね。その数日後に放映された授賞式を収録した番組でその発表のシーンを観たのですが、ちょっと拍子抜けしました。もっとも、他のノミネート作品のスコアも、言っては何ですが押し並べてそれほど際立った出来ではなかったので、「そんなものなのか」とも思えましたが…。それよりも驚いたのが、他の4作品; ・『偶然の旅行者』(ジョン・ウィリアムズ) ・『危険な関係』(ジョージ・フェントン) ・『愛は霧のかなたに』(モーリス・ジャール) ・『レインマン』(ハンス・ジマー) は、それぞれサントラ盤CD(もしくはレコード)がリリースされていたのに、本作のサントラ盤は未出版でした。いくら何でもアカデミー賞受賞作のサントラ盤が存在しないのはどうかとも思うのですが、私の知る限り、アルバム化されてはいないようです。 なぜ、こんなことを言及するかというと、映画公開時にサントラ盤レコードがリリースされなかった、同じデイヴ・グルーシンが音楽を担当した『天国から来たチャンピオン』のサントラ盤CDが、約30年の時を経てKritzerlandやVarese Saravandeというレーベルからリリースされたからで、本作についても実現化しないのかと心待ちにしているのですが、どうなりますかね。 ということで、現在のところ本作の音楽を聴けるのは、1991年にリリースされたデイヴ・グルーシンのアルバム『マイグレーション』に10分余り収録された『ミラグロ(奇跡の地)組曲』くらいという状況であり、残念でなりません。 あと、本展示アイテムには吹替も収録されていますが、特筆すべきことはないです。 https://www.youtube.com/watch?v=uuaKVk4hNAY #DVD #ロバート・レッドフォード #ミラグロ/奇跡の地 #ジョン・ニコルズ #デイヴ・グルーシン #チック・ヴェネラ #ルーベン・ブラデズ #ソニア・ブラガ #ジェームズ・ギャモン #クリストファー・ウォーケン #吹替
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レコードマップ2003
2002年10月10日発行。御存じも方も多いと思いますが、『レコードマップ』というのは、いわゆる「中古レコード屋」、つまりレコード・CDなど音楽メディアやその関連物を扱う専門店を記載・紹介する内容で、「2003」とあるように『レコードマップ』自体は毎年発行されていました。実際、私もこの2003年版までは毎年購入していました。ただ、ほぼ同じ内容の本が10冊以上書棚に並んでいるのを家人が見咎め、処分を強要されたため、現在手元に残っているのは本展示アイテムのみになってしまいました。今にして思えば残念ですが、当時の家庭内での力関係では仕方がなかったのかな。それはともかく、要するに中古レコード店のガイド本ですから、例えば、たまにある地方出張の際には旅行鞄に忍ばせ、地元の中古レコード店巡りをする拠り所とするなど利用していました。 ただ、出版から年月を経た今となって特筆すべきは掲載店の数で1426店、それに要した本書のページ数が548ページで、この約20年後に出版され本展示に並んで展示・登録した『レコード+CDマップ21-22』は、それよりもかなりボリュームが小さくなっています。 #レコードマップ #レコードマップ2003 #中古レコード店 #ガイド本
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レコード+CDマップ21-22
2020年12月26日発行。本アイテムと並んで展示の『レコードマップ2003』とほぼ同じ趣旨、同じ構成の書籍ですが、掲載店の数が457店、それに要した本書のページ数が376ページとなり、かなりスケールダウンしてしまった、というのが本書を入手したときの率直な印象でした。それだけ、中古レコード・CD業界が縮小・衰退してしまった、という見方もできますが、一言でまとめれば「音楽メディアの販売形態の多様化」が進展した結果でもあり、一概に縮小・衰退とは言い切れないでしょう。 #レコードマップ #レコード+CDマップ #レコード+CDマップ21-22 #中古レコード店 #ガイド本
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VHS「ティンメン/事の起こりはキャデラック」
1987年製作。本国アメリカではDVD化されているようですが、日本国内ではまだ行われていない、というよりも、おそらくDVD/Blu-rayとして発売されることはないでしょう。その辺りの話はいずれ「モノ日記」で機会があれば語るとして、以下は本展示アイテム収録作についてですが、この作品、日本では劇場未公開で、VHSが発売されたのは1990年5月21日だそうです。それ以前のバリー・レビンソン監督の主なのフィルモグラフィは、 ・ダイナー Diner (1982年) ・ナチュラル The Natural (1984年) ・ヤング・シャーロック/ピラミッドの謎 Young Sherlock Holmes (1985年) ・グッドモーニング, ベトナム Good Morning, Vietnam (1987年) ・レインマン Rain Man (1988年) と、それなりに佳作揃いで特に『レインマン』はアカデミー賞作品賞受賞作品ですから、80年代唯一の劇場未公開作品である本作がビデオスルーされたのでしょう。その成否がどうだったのかは知りませんが、少なくとも上記5作品よりは凡作に感じました、もちろん私見ですが…。出演がリチャード・ドレイファス、ダニー・デビート、バーバラ・ハーシーとそれなりにビッグネームが配されていましたが、概してアメリカのコメディ映画はなかなか日本の観客には受け入れられないことが多く、そういう意味からも劇場公開しなかったのは正解だったのでしょう。 https://www.youtube.com/watch?v=ajetxCpdwbY #VHS #ティンメン/事の起こりはキャデラック #ビデオスルー #バリー・レビンソン #リチャード・ドレイファス #ダニー・デビート #バーバラ・ハーシー
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プロ野球雑学事典 渡辺謙太郎著
1976年5月10日発行。当ミュージアムの展示アイテムはほぼ映画、音楽関連のものであり、要するに私の趣味の反映なのですが、興味の対象はそれ以外にもあるわけで、本アイテムはその右代表ということで展示・登録しました。というのも、この紹介文を作成している少し前にモノ日記で、元ニッポン放送アナウンサー深澤弘氏の訃報について触れましたが、その際に深澤氏と対比する形で元TBSアナウンサー渡辺謙太郎氏の名前を挙げましたしね。 本展示アイテムが発行された1976年はプロ野球発足40年ということで、その間の歴史をプロ野球オフシーズンの半年間で語る番組なども放送されたりもしました。そして、それを聴きつつ、本書を熟読して、何となく過去の名選手、名指導者やそのエピソードを知識とすることができました。どんなメリットがあったかというと、年長のプロ野球ファンの聞き役になれたということですかね。なかなか共通の話題がないときに、相手がどこの球団のファンであるかがわかれば、そのことをきっかけに場を持たせることができた、なんてことも少なくなかったです。 内容は「雑学」と銘打っているだけあって、要するにエピソードの羅列なのですが、その一つ一つがとにかく興味深い。今回の展示で改めて読み返しましたが、懐かしさとともに、新たな発見もありました。 #プロ野球 #渡辺謙太郎 #プロ野球雑学事典
プロ野球 廣済堂 600円 1976年woodstein
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ウルトラマンDNA Vol.2
2005年1月15日発行。以前、このフロアに展示・登録した『ウルトラマンDNA Vol.4』の紹介文ではVol.2及び3を入手しなかったのかのような表記をしましたが、先日堆く積み重なった映画のパンフレットの束の中から、この2冊が見つかりました。誠に恥ずかしい話ですが、おそらくVol.4購入後に店頭でこの2冊の在庫を見つけ、とりあえず購入したものの、放置しているうちに他のものの在庫の山に埋もれてしまったのでしょう。今回発見して、改めて読んだのですが、内容に記憶がない。購入した時分に碌すっぽ読まなかったのでしょう。まあ、とにもかくにもVol.1及び4を展示したアイテムのVol.2及び3が手元にあるわけですから、これらも追加して展示・登録させて戴きます。 とは言うものの、表紙の華やかさとは裏腹に興味を引く記事は、あまりなかったようです。でも、その中で興味深かったのは、『ウルトラセブン』『帰ってきたウルトラマン』などの音楽を担当した冬木透氏のインタビュー記事ですかね。特に 「いまは、少し音楽が多すぎます。昔は三十分の枠の中にせいぜい三曲から五曲ですよ、テーマ以外に。いまはもうベターッと入ってるでしょう。あれは、僕のやり方と違う。 いまは音楽に意味がなくなってきた時代です。」 というこの言葉には共感しますね。 #ウルトラマンDNA #冬木透
ウルトラマン 小学館 980円 2005年頃woodstein
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ウルトラマンDNA Vol.3
2005年6月1日発行。表紙を飾っている『ウルトラマンマックス』は、平成ウルトラマンの中では好きな部類ではあるのですが、本展示アイテム内ではまだ紹介の段階でしたので、特記することもなくその他の記事も篠田三郎氏のインタビューが目を引いたくらいですかね。ただ、個人的に嬉しかったのは表紙にもタイトルが記載されている『ウルトラ5兄弟大座談会』のなかで、映画『十三通目の手紙』で森次晃嗣氏と篠田三郎氏が共演した件に触れられていたことかな。それと座談会の写真の中には、今年(2021年)2月に逝去された瑳川哲朗氏の姿もあり、それが何となく胸に残りましたね。 #ウルトラマンDNA #森次晃嗣 #瑳川哲朗 #篠田三郎
ウルトラマン 小学館 980円 2005年頃woodstein
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DVD「民族の祭典」
とにかく、『美の祭典』も含め修飾文句の多いのが本展示アイテム収録作ですので、とりあえずはその辺りをざっと紹介しておきますかね。 1.概要 1936年ベルリン大会の『オリンピア』は初の本格的長編オリンピック公式記録映画で、ドイツのレニ・リーフェンシュタールが監督を務めました。二部構成で、陸上競技や開会式を記録した『民族の祭典』と、競泳、飛び込み、体操をはじめとする陸上以外の競技をまとめた『美の祭典』からなっています。日本選手では、三段跳び金メダリストの田島直人、棒高跳びそれぞれ2位と3位の西田修平と大江季雄、陸上5000m、10000mともに4位の村社講平などが登場しています。 2.プロパガンダ ベルリンでのオリンピックに対し、アドルフ・ヒトラーはかなり意気込んでいたようで、その表れの一つが10万人収容の大規模なスタジアムの建設と言われていますが、画面からもそのスタジアムの巨大さは窺い知れます。要するに、ナチスのプロパガンダ及び国威発揚の場と位置づけたわけで、それがこの1936年ベルリン大会を「ヒトラーのオリンピック」と言わしめた所以となっています。そのためには妥協も厭わなかったようで、人種差別政策を採っていたナチスが国際オリンピック委員会(IOC)の強い要求により、このときばかりは政策の執行を凍結したため、アメリカの黒人選手ジェシー・オーエンスなど有色人種も活躍の場を得ることができたのですが、その様子は映画『オリンピア』に描かれています。 3.芸術性 『オリンピア』の撮影はそれまでのオリンピック公式記録映画とは異なり、さまざまな焦点距離のレンズを駆使し、効果音の使用、撮り直しなどにより、競技を美的に描いたものであったため、その芸術的完成度は極めて高く、観る者を圧倒した作品となりました。他方、ヒトラーを精悍な指導者としてクローズアップし、集団体操(マスゲーム)の様式美・構成美を強調するとともに、観衆がヒトラーに対して一斉にナチス式敬礼をするシーンをダイナミックに描いたため、監督のレニ・リーフェンシュタールは、芸術的で美しい記録映画であるという称賛と、ナチスのプロパガンダ映画であるという批判の両方を受けました。このことについては、「ナチスに加担したことは許せないが、記録映画としてはたいへん美しいことを評価すべきである」とするのが現代までの一般的な評価であり、批判の方は『オリンピア』以前にオリンピックとは関係のないナチスのプロパガンダ映画をリーフェンシュタールが製作していたことにも向けられているようです。 ということで、個人的な感想。「撮り直し」なども行ったわけで、そうなると果たしてこの『オリンピア』なる作品がドキュメンタリー映画なのか、純粋なオリンピック記録映画なのか、というツッコミも入れたくなりますが、そんなことは「芸術性」の前ではどうでもいいことなのでしょう。そして、少し気になったのがこの『オリンピア』2部作がともに「1938年ドイツ映画」であり、ともに「1940年キネマ旬報外国映画ベストテン」であったこと。ベルリン大会が挙行されたのは1936年でしたので、ドイツ本国での公開まで2年、本邦公開までさらに2年を要したことになります。 まず、製作に2年を費やしたのは意外でした。いくら「撮り直し」などの演出があったにせよ、ちょと時間がかかり過ぎのような気がします。まあ、リーフェンシュタールにしてみれば作品的な失敗は許されなかったでしょうから、推敲に推敲を重ねたのですかね。そして、日本公開が1940年ということですが、本来ならば東京でオリンピックが開催されるはずが、当時の世界情勢のより中止に追い込まれた年でした。そんな国情下で、情報としては知っていた4年前のオリンピックが実際にはどうあったのかをまとまった映像として日本の観客は観ることができたわけで、この『オリンピア』2部作を観た観客は大喜びし、ドイツという国家を信用する、という誤った認識を持つ要因の一つとなった旨を、本展示アイテムに収録されている解説映像で淀川氏は語っておられました。まあ、それが本質なのかどうかはわかりませんが、その当時を生きた淀川氏にはそのような社会の気分が感じられたのでしょう。 https://www.youtube.com/watch?v=H3LOPhRq3Es #DVD #淀川長治 #民族の祭典 #オリンピア #レニ・リーフェンシュタール #美の祭典
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NHK大河ドラマ・ストーリー 草燃える
1979年1月10日発行。昭和54年に放映された大河ドラマ「草燃える」(原作:永井路子、脚本:中島丈博)のガイドブックで、同フロアに展示の『黄金の日日』のそれと同様の本のサイズ、同様の構成で、このガイドブックシリーズの編集スタイルが何か定まったのか、というのが、本書を手にしたときにまず感じたことでした。 ということでこの大河ドラマ、そこそこ期待して観始めたのですが、どうも馴染めませんでした。ただ、この頃その魅力にハマっていた松坂慶子が出演していたので、その姿を見たい一心でダラダラ観続け、その出演が終了した時点で観るのをやめたのですが、その後に別の役で出演していたことを知り、とても悔しかったのを覚えています。もっとも、同年に松坂慶子はバニーガール姿が眩しい『水中花』というドラマに出演していたので、それほどの飢餓感はなかったですが…。 話が脇に逸れました。馴染めなかった理由はいくつかあるのですが、やはりキャスティングでしたかね。源頼朝が石坂浩二、北条政子が岩下志麻はいいとして、義経が国広富之というのは我慢できても、静御前が友里千賀子というのは観るに堪えませんでした。別に個人攻撃しているのではありません。彼女は前述の『水中花』で松坂慶子の妹の役だったのですが、それには特に不満はなかったので、要するにこの段階では時代劇での大役をこなすだけの力量が圧倒的に不足していたのに、こんな重要な役をやってしまった、という不満でしたかね。もちろん、個人的かつ勝手な思い込みです。 #大河ドラマ #永井路子 #中島丈博 #草燃える #石坂浩二 #岩下志麻 #国広富之 #友里千賀子 #松坂慶子
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DVD「アンダルシアの犬」
1928年製作。ルイス・ブニュエルとサルバドール・ダリによるシュルレアリスムの傑作と評される、実験的ショート・フィルム、アナキズムに心酔していたブニュエルによる、「映画の機能を否定した映画」、という映画史において重要な位置づけがなされている作品で、かなり語り尽くされてもいますので、次段以降は思い出話などさせて戴きます。 高校生の頃、劇場で映画を観る資金が潤沢ではなかったこともあり、学園祭シーズンにはあちこちの大学の上映会に出向いたものでした。もちろん、劇場公開作の無料上映を観るのが目的だったのですが、その余波というか、副産物というか、その大学の映画研究会か何かの製作の、いわゆる自主映画も観る羽目となり、その殆どが退屈で、当時は結構苦痛で迷惑に思ったものでした。そして、その中には映像の脈絡のない羅列としか思えない作品もあり、「これは私のようなおバカな高校生の理解を超えるものなのか」と帰路の電車の中で考え込んだりもしましたが、ひょんなことからちょっと事情が分かったような気になったことがありました。 それは、おすぎとピーコのラジオ番組に大林宣彦監督がゲスト出演した時のこと、主目的は映画『転校生』の宣伝だったわけですが、それ以外にもトークは展開し、話題は当時の自主映画に及びました。大林監督は日本の自主映画に関しては草創期から活動された方であり、このラジオ放送の頃もおそらくこの類の作品に触れる機会があったようで、御自身が撮影していた頃との作風の違いについて語っておられたのですが、その中に「料理でいうと素材だけあって調理がされていない」という意味の発言があり、このときはまさに「我が意を得たり」と思ったものでした。さらに数年後、ルイス・ブニュエル監督の作品をまとめて観る機会があり、その際に本展示アイテム収録作を初見できたのですが、この25分程度のとても理解しにくい内容の作品が、私が観させられた愚にもつかない自主映画の原点にも思えました。ただ、この私の思い込みは多分浅はかなのでしょう。もしかしたら、大林監督もそれらの自主映画を観て『アンダルシアの犬』を連想したかもしれませんが、所詮は「意欲は買うが、格が違い過ぎる」くらいに感じたのかもしれない、そんな妄想をしてしまいました。 ということで、ネット検索すれば全編を収録した動画は簡単に見つかりますし、特に日本語字幕を必要とする内容でもありませんので、未見の方は御覧になってみるのも一興と思います。 https://www.youtube.com/watch?v=vJKNp7v5FOg #DVD #淀川長治 #アンダルシアの犬 #ルイス・ブニュエル #サルバドール・ダリ #シュルレアリスム #ピエール・バチェフ #シモーヌ・マルイユ #ハイメ・ミラビエス
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DVD「アンナ・カレニナ」
文学作品『アンナ・カレーニナ』は、レフ・トルストイ原作の小説の中では、おそらく『戦争と平和』に次いで著名で、幾度となく映画、テレビドラマ、演劇、さらにはバレエ化されていますが、ここでは本展示アイテム収録作も含めた映画化作品などについて触れていきます。因みに、『アンナ・カレニナ』と『アンナ・クリスティ』を混同してしまいがちだった、というヨタ話は、このフロアの『アンナ・クリスティ』のDVDの展示の紹介文に記載しました。 そもそも『アンナ・カレーニナ』は文庫本で上・中・下巻になるほどの長大な文学作品ですから、仮に映画化しても上映時間の制約から「あまり原作に忠実な脚色はできない」だろうことは、想像がつきます。実際、主な映画化作品の上映時間は、 ・1927年製作『アンナ・カレニナ』(原題:Love)、サイレント映画、グレタ・ガルボ主演:82分 ・1935年製作『アンナ・カレニナ』、グレタ・ガルボ主演:95分 ・1948年製作『アンナ・カレニナ』(本展示アイテム収録作)、ヴィヴィアン・リー主演:110分 ・1997年製作『アンナ・カレーニナ』、ソフィー・マルソー主演:108分 ・2012年製作『アンナ・カレーニナ』、キーラ・ナイトレイ主演:130分 と、いずれも2時間前後であり、原作小説のディテールまでをカバーしているとは言いづらい。因みに、その不備を補っている作品として、1977年BBC製作、ニコラ・パシェット主演のテレビドラマ『アンナ・カレーニナ』が挙げられ、こちらの本編時間は実に6時間5分ということですが、少なくとも日本国内での知名度は、上記映画5作品のそれよりもかなり低いようです。 さて、上記5作品のうち、私自身は1927及び2012年製作版以外の3作品を観ました。1997年のソフィー・マルソー主演版は論外で、1935年のグレタ・ガルボ版と本展示アイテム収録作のヴィヴィアン・リー版が俎上に上がるのですが、少々語りづらい。正直言って、映画の出来自体はガルボ版の方がいいと思いますが、それはグレタ・ガルボとヴィヴィアン・リーの魅力の差ではなく、演出法の違いによるところが大きいのかな。1935年のグレタ・ガルボ版については別に触れる機会もあるかもしれませんからここでは詳細は申し上げませんが、原作小説の要素の一つであるアンナの心理描写をかなり省略し、あらすじを追うことを主眼とした構成でした。それに対し、本展示アイテム収録作はこう言っては何ですが、ヴィヴィアン・リーのプロモーションフィルムの風情の感を受けました。ヴィヴィアン・リーを美しく見せることで、よりラストの観客の受ける悲劇の度合いを強めようというジュリアン・デュヴィヴィエ監督の意図はそれなりに伝わりましたし、ヴィヴィアン・リーも持ち前の演技力でその期待に応えていたのでしょうが、ではその意図がそもそも本作の出来に反映されたのか、というと、はなはだ疑問であると私には思われました。 https://www.youtube.com/watch?v=xiTXmsJaDkI #DVD #淀川長治 #アンナ・カレニナ #トルストイ #ジュリアン・デュヴィヴィエ #ヴィヴィアン・リー #ラルフ・リチャードソン #キーロン・ムーア
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DVD「春の調べ」
表題の画像は現代でも映像ソフトのジャケットとしてはいささか刺激的ですが、製作された約90年前の1932年では相当衝撃的だったのは想像に難くないわけで、その顛末は添付画像2枚目、すなわち本展示アイテムの裏ジャケットの説明文に記載されています。あと、本展示アイテム収録作については、 ・全裸で泳ぐ場面 があったため、当時は議論を巻き起こした。 ・非ポルノ映画において、初めて肉体関係を描いた作品であるが、俳優の顔以外のところは見えていない。 ・映画史上初女性のオーガズムを描いた作品としても知られている。 などのことがWikipediaに記載されているので、参考までに。 内容は、年齢の離れた夫との性的関係が満たされない若妻が他の男性に走る、という割とよくあるコンセプトで、例えば映画ではシルビア・クリステル主演の『チャタレイ夫人の恋人』や、もっと格調高くいけばデヴィッド・リーン監督の『ライアンの娘』などがありますかね。もっとも、D・H・ローレンスの小説『チャタレイ夫人の恋人』が発表されたのは1928年のことでしたから、映像作品としては時代の先端を行くものであったとも言えるかもしれず、それなりの映画史的な意義はあったものと思われます。 あと、ヘディ・ラマーが、本名のラストネームをそのまま使用したヘディ・キースラー名義で主演したとのことですが、正直、本展示アイテムを入手するまでヘディ・ラマーという女優の存在を不勉強ながら知りませんでした。フィルモグラフィーを見るとセシル・B・デミル監督作の『サムソンとデリラ』くらいしか知らず、さらに言えば「発明家としても著名」ということも、この時が初耳だったわけで、改めてまだまだ知らないことが膨大であると実感させられたのでした。そもそも、この『春の調べ』という映画の存在自体を、1998年に本フロアで掲げる「淀川長治監修『世界クラシック名画』100撰集」シリーズの発売ラインナップを見て知った、という体たらくでしたから、致し方ないか。 https://www.youtube.com/watch?v=5qI_nxU9zHc #DVD #淀川長治 #春の調べ #グスタフ・マハティ #ヘディ・キースラー #ヘディ・ラマー #スヴォニミール・ロゴス
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DVD「ならず者」
本フロアに展示のアイテムは「淀川長治監修『世界クラシック名画』100撰集」シリーズを基本とした一連のDVDであり、そのように設定してしまった以上、そこに属するアイテムを入手していれば展示が余儀なくさせられるように自分自身に縛りをかけてしまったわけですが、では、本展示アイテム収録作がこのシリーズのお題目にある、いわゆる「名画」なのか、と問われると、私なら即座に否定しますね。個人的には、何でこの作品をこのシリーズにブッコんだのか、疑問なのですが…。 と、いきなり悪口めいたことを捲し立てましたが、では本作が嫌いなのか、というと、そうではありません。確かに、西部開拓史上で著名な面々、ドク・ホリデイ、パット・ギャレット、そしてビリー・ザ・キッドの人間模様を縫う様に、一人の魅惑的な女性が揺れ動くという、少し大袈裟に言えば荒唐無稽な筋立ての作品であり、さらには監督がハワード・ホークスから演出に関しては素人同然のハワード・ヒューズに交替したという様々なマイナスの要素はありますが、そんなものは主役のジェーン・ラッセルの魅力の前にはどうだっていいことだろう! さすがにこれは言い過ぎですが、要するに上記の歴史上の人物をそれぞれ演じたウォルター・ヒューストン、トーマス・ミッチェル、そしてジャック・ビューテル諸氏の扱いは、本作でデビューした新進女優ジェーン・ラッセルの刺身のつま程度であった、ということですかね。 ジェーン・ラッセルを最初に観たのは御多分に漏れず『紳士は金髪がお好き』で、正直言ってマリリン・モンローよりもよほど魅力的に私には見えたのですが、その原点が本作であったというのを確認できたのが、本展示アイテムを入手した最大の収穫で、作品自体の出来を超越している、と思い込んでいます。 あと、音楽はヴィクター・ヤングが担当したのですが、本作に関してはどうも彼本来の切れ味がない凡庸な劇伴でした。おそらく、画面上の冗長な演出に合わせて作曲したから、そんな残念な結果になってしまったのだろう、と想像してしまえるのですが、どうなのでしょうか。 https://www.youtube.com/watch?v=Gnjv3ONSa9o #DVD #淀川長治 #ならず者 #ハワード・ヒューズ #ハワード・ホークス #ヴィクター・ヤング #ジェーン・ラッセル #ウォルター・ヒューストン #トーマス・ミッチェル #ジャック・ビューテル
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DVD「素晴らしき哉、人生!」
今日においては、『或る世の出来事』と並んでフランク・キャプラ監督の代表作と言われることも多く、特にアメリカ本国においては、クリスマスの時期のド定番でもあるわけで、ストーリーなど作品そのものの話をこの場でする必要もないでしょう。ということで、別の切り口の話を。 スティーブン・スピルバーグ監督は、以前何かのインタビューで、映画の撮影前や製作に行き詰まったときに、もの作りの原点に立ち戻るために必ず観る映画として、『アラビアのロレンス』『七人の侍』『捜索者』、そして本展示アイテム収録作である『素晴らしき哉、人生!』の4作を挙げている旨の記事を読んだことがあります。スピルバーグほどの人ですから、各作品の隅々まで知り尽くしているはずで、それでも観返す、というのは、多分に気分転換の要素が強いのでしょうが、「言われてみればそうなのか」と、妙に納得してしまう側面もあります。というのも、上記4作に止まらず、デヴィッド・リーン、黒澤明、ジョン・フォード、そしてフランク・キャプラ監督の他の作品も含めて、その演出のオマージュではないかと見て取れる映像での表現が、スピルバーグ自身の監督作品のみならず、製作総指揮などで関わった作品にも散見されたからで、そのような表現があるのではないかと探しながら観るのがスピルバーグ絡みの作品の楽しみ方の一つでもあります。 ただ、基本的にはスピルバーグ絡みの作品の中であっても、この演出は気に入らないという部分はあるわけで、それらがどうもフランク・キャプラ監督の影響を受けた部分ではないかと想像されることがあります。もちろん、一方的な思い込みで、要するに私自身がフランク・キャプラ監督の演出タッチと相性が良くないということに過ぎない、ということなのでしょう。 もっとも、フランク・キャプラは生涯に40作近くの映画を監督しており、その中で私が観たのは、せいぜい本フロア展示アイテム収録の4作と『オペラハット』『失はれた地平線』『我が家の楽園』『スミス都へ行く』『ポケット一杯の幸福』と10作にも満たないわけですから、その程度の知見でフランク・キャプラ監督の演出タッチを気に入らないと断じてしまうのも早計なのかもしれません。 https://www.youtube.com/watch?v=y_LselYMgS4 #DVD #淀川長治 #素晴らしき哉、人生! #フランク・キャプラ #ディミトリ・ティオムキン #ジェームズ・スチュアート #ドナ・リード #ライオネル・バリモア #ヘンリー・トラヴァース #トーマス・ミッチェル #ワード・ボンド #グロリア・グレアム #シェルドン・レナード #チャールズ・レイン
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