『WELCOME TO THE CANTEEN』

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トラフィック初のフル・ライヴアルバムは、1971年6月に行われたロンドン南部クロイドンのフェアフィールド・ホールにおけるコンサートと、翌7月にロンドンで開催されたオズマガジン救済コンサートのステージを収録している。メンバーはスティーヴ・ウィンウッド、ジム・キャパルディ、クリス・ウッドの3名に、70年8月にベーシストとして加わったリック・グレッチ、71年初頭のトラフィック北欧ツアー中に加わった、ガーナ出身パーカッショニストのリーバップ・クワク・バー、デレク&ザ・ドミノズを経て5月から加入したセッションドラマーのジム・ゴードン、アメリカから戻っていたデイヴ・メイソンを加えた7人編成。トラフィックはこのラインナップで、英国にてオズ救済イベントを含む計6回のコンサートを開催している。ライナーノーツによるとアルバム後半の3曲が、クロイドンのオープニングナイトから選曲されている模様。元メンバーのデイヴの参加も大きな話題となり、一連のコンサートは大成功を収めた。
本作ではメンバーを増やし、スティーヴのワンマンバンドから一転、バンドのアンサンブルをライヴで聴かせることになる。リリースされた当初は、ジャケットには7名の名前が書いてあるだけでトラフィックの名前はなかったが、これが彼らの5枚目のアルバムとなる。タイトル名の由来は、ある公演でステージの近くにカフェテリアがあり、ジムが「食堂へようこそ!」と発した言葉がそのまま使われたという。プロデューサー名の表記はないが、エンジニアにはブライアン・ハンフリーズがクレジットされている。アルバムは71年9月にリリースされた。(全米26位)
収録曲は全部で6曲。4曲がスティーヴの手になるもので、2曲がデイヴ・メイソン作。2曲目の「Sad And Deep As You」は、この後アメリカに渡って大成功する彼が、ソロになってからも歌い続けている名曲。本作には、1971年に2カ所で行なわれたライヴが収録されているのだが、優れたメンバーに支えられ、スティーヴのヴォーカルをはじめ、キーボードもギターもイキイキしている。アルバムの聴きどころとしては終盤の2曲。1stに収録されていた曲で、10分以上に及ぶ「Dear Mr. Fantasy」と、これまた10分近いスペンサー・デイヴィス・グループ時代の「Gimme Some Lovin’」で、どちらもスティーヴとデイヴが交互に弾くギターソロが素晴らしい。残念ながらギターが本業のデイヴより、スティーヴのソロのほうが上手いという皮肉な結果になってしまってはいるが、緊張感のある名演であることは間違いない。新参のリーバップはコンガ、ティンバレズ、ボンゴをプレイしており、その独特なリズムが生み出すエスニック感は、トラフィック・サウンドに新たな息吹をもたらしている。一連のコンサートの後、デイヴはバンドを離れて再び渡米しソロ活動を再開、残りのメンバー6人は、さらに英国各地とアメリカでのツアーを敢行すると同時に、スタジオ録音による新作のためのレコーディングに着手した。なおトラフィックはアメリカにて発売権があるユナイテッド・アーティスツと、アルバムをもう一枚製作するという契約があったが、前年のアメリカツアーを収録した「Live Traffic」を諸々の理由から発売中止にし、その代替として本作を急遽リリースしたとも考えられている。

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