『STEVE WINWOOD』

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トラフィック解散後3年の間、サルサ界のスーパー・グループ、ファニア・オールスターズのアルバム「Delicate and Jumpy」やツトム・ヤマシタのプロジェクト「GO」(いずれも1976年)への参加など、ちょっと意外なところに顔を出していたスティーヴ・ウインウッドの記念すべきファースト・ソロ・アルバム。
ベイジング・ストリート・スタジオで収録した「Hold On」、「Time Is Running Out」、「Luck’s In」、「Let Me Make Something In Your Life」の4曲は、リズムセクションにウィリー・ウィークス(b)とアンディ・ニューマーク(dr)を起用している。スティーヴはこの名コンビとジョージ・ハリスンのアルバム「George Harrison」(1979)参加時にも共演しており、またウィリー・ウィークスは、2011年のエリック・クラプトンとの来日ジョイントツアーにも同行していた。アルバム幕開けの1.「Hold On」は、マイナー調の渋めの曲で重心の低いグルーヴ感が心地よい。「GO」で共演したブラザー・ジェイムズがパーカッションで参加している。2.「Time Is Running Out」はスティーヴの真骨頂といえるブラックフィーリング溢れる名曲。リーボップがコンガ、ジム・キャパルディもパーカッションで加わり、リズミカルでファンキーなサウンドが展開される。ジムはバックヴォーカルにも参加、それにスティーヴの最初の妻ニコル・タコットもコーラスに加わっており、エンディングでの掛け合いもスリリング。
チッピング・ノートン・スタジオで収録した4.「Vacant Chair」は、アラン・スペナー(b)とジョン・サスウェル(dr)がリズムセクションを固め、ブラザー・ジェイムズがパーカッションで参加、ジュニア・マーヴィンがギターを弾いている。歌詞は親友のヴィヴィアン・スタンシャルが、元ボンゾズのデニス・コワンの死をきっかけに書いたもので、タイトルは葬儀で使われる花で飾られた椅子を指す。ヨルバ語による一節を挟むなど、ポップなサウンドのなかに異国情緒を感じさせる響きもある凝った内容。3.「Midland Maniac」は珍しく歌詞もスティーヴ自ら手掛けた単独作品で、緩やかな導入部からアップテンポへと展開するドラマチックな曲。ベイジング・ストリート・スタジオなどで収録されたピアノソロ音源をベースに、スティーヴの自宅にてドラムスを含むその他すべての楽器を独りで演奏し、移動式録音システムのアイランド・モバイルを用いて、マルチレコーディングにて完成させた。この制作のスタイルは完全自宅録音を試みたセカンドアルバム「Arc Of A Diver」(1980)への布石となっている。
本作がリリースされた1977年はちょうどパンク台頭期にあったが、スティーヴの作品は時流に反して完全にオーソドックスなスタイルを貫いていた。そのため話題性やシングルヒットなどとは無縁で、商業的には成功作とは言えない内容であった。しかしこれまでの長いキャリアと持ち前の才能は駄作を生み出すことを許さず、音楽的なバランス感覚と作曲センス、それに演奏テクニックは超一流といえる。スティーヴは「レコード会社からの要請に応じて制作した部分が大きかった」と述べていることから、必ずしも実力の全てを出し切った成果とはいえないかも知れない。にもかかわらずクオリティは非常に高く、トラフィックの雰囲気も随所に感じさせる渋い魅力を放つ傑作となっている。本作をソロ・アルバムのベストに挙げるファンが多いことにも頷ける内容で、決して風化することのない永遠の名盤。(Billboard 200 最高位22位)

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