-
Morocops ovatus
最も一般的なファコプスであり、モロッコ産に限らず、ザ・ファコプスといえます。2000年代始めくらいまでは、Phacops speculatorと称され、その後、Barrandeopsという属名に変わり、現在はMoroccopsで落ち着きました。モロッコ産のファコプスは、細かい所まで見ていくと多種多様な種類が現在では提唱されています。本種と比較して複眼や顆粒、体形などがどう様に違うかという基準になる種類に思えます。
Devonian Phacopidae,Phacopoidea,Phacopina,Phacopida TRI-23 -Trilobites
-
Acanthopyge sp.
今や幻種となっている存在感のあるAcanthopyge haueriと同型の新種が発見され、市場に出てきたのが2010年頃でした。mdl-storeのブログでは、新産地Boulachghaleとされる地の近郊とされていますが、広域で地名が無い土地のようで、以前のA.haueriが産出したMrakibとは産出場所は違うけど、エリアとしてはMrakib近郊との事で、詳細な産地地図も提供頂きました。ただ、こちらで公開は控えますので、mdl-storeのブログ通りの情報で正しいようです。A.haueriと比較すると華奢で尾部の尾板が小さく、尾部の長い棘は熊手の様に下に伸びているのが特徴です。その棘を含め無数の粗い棘が疎らに存在しており、Hammi氏の剖出により、それらが温存されています。新産地でも完全体自体が極めて少数であり、その中で頬棘が残る個体は数えるほどしか存在していないと言われており、新種も幻種となる思われます。 (2024.3産地情報の記述を更新しました)
Middle Devonian Lichidae,Lichioidea,Lichida TRI-755 -Trilobites
-
Eobronteus laticauda
記載年からも分かる様に非常に古くから知られた種類です。この標本は、この産地の産状を良く表していて、チャートの様な質感にEobronteusの尾部や頭部などの部分化石が積み重なって形成されています。この様にまとまって産出し、完全体での産出は無いのですが、細部の保存は明瞭で尾部や頭部の皴構造を観察するには最適な状態です。
Lower Ordovician Styginidae,Illaenoidea,Illaenina,Corynexochida TRI-711-2 -Trilobites
-
Pseudophillipsia(Nodiphillipsia) ozawai
かつて日本を代表する産地であり、国産化石を採取や収集している人で知らない物が無い金生山。現在も工業的に石灰岩の採掘が続いており、立入りは禁止されています。金生山で三葉虫が採掘されたのは、1973年(昭和48年)と意外と遅く、ただ以降の僅かな期間だけしか採取できず、現在では三葉虫が採掘できたとされるエリアも消滅していると聞いています。古生代の有孔虫であるフズリナの種類から年代が分かるとされる赤坂石灰岩、三葉虫の尾部の右側に存在する、木の切り株の様な化石がYabeina globosa (Yabe,1906)であり、この層をYabeina globosa Zoneと呼ばれるペルム紀中期の地層から、種類も同定されています。世界的に貴重な最期の三葉虫の一つです。
Permian Phillipsiidae,Proetoidea,Proetina,Proetida TRI-561 -Trilobites
-
Ductina(Illaenula) vietnamila
三葉虫コレクターが軽視するけど、実は謎の産地は幾つかあると思いますが、本種も該当するのではないでしょうか。ドイツなどで産出する事で知られる眼の無いファコプスDuctina、小さくて地味で安価なので、意外とベテランコレクターでも所有していない方もいる筈です。近年はIllaenula(Illaenusと紛らわしいが)と呼ばれる事が多くなったり、昔からのD.vietnamicaも混在するなど混乱する状況も見えます。小種名からベトナムと関連するか、ベトナムで近縁種が産出する可能性もあるのかもしれませんが、詳細は分かりませんでした。中国では数少ないデボン紀の三葉虫産地で、市場では本種位しか見かけませんが、Cyphaspidesや眼のあるPhacopsなど三葉虫の種類は知られています。 (中国名:越南沟通虫)
Middle Devonian Phacopidae,Phacopoidea,Phacopina,Phacopida TRI-34 -Trilobites
-
Paralejurus brongniarti
一般的なParalejurusで、見た目も完璧とは言えない個体であり、Hammi氏の剖出と言われても表側だけ見てると私も触手が伸びなかったと思います。この標本の特筆すべき所は、裏側の頭部付近です。細かい粒々が確認できます。これは三葉虫の卵であるという説があります。近年ではアメリカNY州から産出する黄鉄鉱化し軟体部が確認できるTriarthrus eatoni(HALL,1838)から、同様に三葉虫の卵とされる学説(#1)が話題となりました。三葉虫は、頭部に産卵口があるとされ、このデボン紀の産地でもHammi氏によれば、他の個体でも頭部裏にしか粒々が発見できないとの事なので、信憑性は一理あるのではと思われます。個人的には、母体の大きさの割に卵が大きく感じたり、もし卵だとしたら、もう少し大量に散乱するのではとも思います。ただ育児嚢の様な器官があって、化石化する前に少し飛び出ただけの可能性もあり、色々想像できます。 【参考リンク】#1 : Pyritized in situ trilobite eggs from the Ordovician of New York (Lorraine Group): Implications for trilobite reproductive biology(2017) https://pubs.geoscienceworld.org/gsa/geology/article-abstract/45/3/199/195237/Pyritized-in-situ-trilobite-eggs-from-the?redirectedFrom=fulltext
Lower Devonian (Pragian Stage) Styginidae,Illaenoidea,Illaenina,Corynexochida TRI-44-2 -Trilobites
-
Gerastos prox
ベルギー、アンデンヌ地方の三葉虫です。アンデンヌは、ベルギーだけでなくフランス、ルクセンブルクに跨るエリアであり、更に隣接するドイツまでのエリアでデボン紀の三葉虫を産出します。ベルギー産といえば石炭紀の三葉虫が比較的有名ですが、このエリアからのデボン紀産は入手難易度が高いです。見た目は変哲もないGerastosであり、良質なモロッコ産が入手できれば上がり的な種類なのかもしれません。ベルギー産でもGerastosは、リンクの論文の様に幾つかの種類が知られているのですが、この中で一番近いと思い私が同定しているので、間違っている可能性はあります。 【参考リンク】Taxonomy and biostratigraphy of some proetid trilobites in the Middle Devonian of the Ardennes and Eifel (Rhenohercynian Zone) https://www.researchgate.net/publication/256475419_Taxonomy_and_biostratigraphy_of_some_proetid_trilobites_in_the_Middle_Devonian_of_the_Ardennes_and_Eifel_Rhenohercynian_Zone
Lower Devonian Proetidae,Proetoidea,Proetina,Proetida TRI-612 -Trilobites
-
Scabriscutellum sp.
背中に棘のあるScabriscutellumが登場しだしたのは、1990年代後半だったと記憶しています。デボン紀モロッコ産は、既に様々な棘々種が登場していましたが、サンドブラストを用いた革新的な剖出技術の向上により、より繊細な体表面の凹凸を飛ばす事なく残す事が出来た要因が大きいと感じます。それまでは、棘があるなんて全く想像もしていなかったScabriscutellumに新たな姿があったとは驚きを得ると共に、更にモロッコ産三葉虫の多様性と保存の良好さに魅了されて行くのでした。本標本も保存が良い個体に見られる尾板縁のギザギザが確認できます。
Middle Devonian Styginidae,Illaenoidea,Illaenina,Corynexochida TRI-721-2 -Trilobites
-
Eldregeops(Phacops) rana
アメリカ合衆国には、全ての州ではありませんが、Statefossil(州の化石)が制定されています。日本でも文化に根付いた都道府県の〇〇がある様に、様々な化石が多く産出し、一般にも日本より馴染みがあるんだと思います。時代も様々な州を代表する化石ですが、恐竜など強敵を抑え、3つの州で三葉虫が選出されています。その内、ペンシルヴァニア州にて「Phacops rana」が1988.12.5に制定されています。Phacopsは、現在ではEldregeopsに改称されていますが、どちらかというとニューヨーク州やオハイオ州のイメージが強いと思います。ペンシルヴァニア州産の「Phacops rana」を探して、漸く入手できたのですが、この化石です。保存状態は、世界的な良産地のオハイオ州などと比較してはいけません。何せ「州の化石」なのですから。 【参考リンク】Statefossil https://web.archive.org/web/20091026213222/http://www.geocities.com/stegob/statefossils.html
Phacopidae,Phacopoidea,Phacopina,Phacopida - Pennsylvania,USA Phacopidae,Phacopoidea,Phacopina,PhacopidaTrilobites
-
Scabriscutellum sp.
尾部を改札鋏で切り込みを入れた様に切り取られています。しかし、その後も生き抜いたのでしょう、縁取りは丸く滑らかになっています。脱皮直後に別の生き物に捕食されかけたと思われますが、相手が何物だったのか今となっては不明です。尾部の切り取られた場所の近くの尾部の中心付近も歪みが生じています。このScutellumは、胸部に一つずつ垂直方向の棘が並ぶ種類です。棘のあるScutellumは市場に登場して暫く経ちますが、まだ正式な学名が確認できません。
Middle Devonian Styginidae,Illaenoidea,Illaenina,Corynexochida TRI-518-2 -Trilobites
-
Scabriscutellum sp.
通称Scabriscutellum furciferum(HAWLE and CARDA,1847)で知られるモロッコで一番スタンダードなScutellumです。近年、モロッコ産の研究が盛んですが、Scutellumについては何故か先送りのため、昔からの一般種でも正確な学名が付いていない状況です。扇子状の独特の畝を持つ美しい尾板は、一時的な遊泳に大きな推進力を発揮した筈です。尾板の縁は良く見ると細かいギザギザが確認でき、Scabriscutellumは実はThysanopeltis (ティサノペルティス)と同じ様に尾部には棘がある事が分かります。これは状態の良い保存状態だけでなく、剖出技術にも左右されます。胸部には棘がありませんが、この個体には痕跡も確認できないので無いタイプと推定しますが、実際は細かい毛のような棘があった可能性はあります。 (2023.9.3標本を入替ました)
Lower Devonian(Emsian) Styginidae,Illaenoidea,Illaenina,Corynexochida TRI-518 -Trilobites
-
Cummingella carringtonensis
イングランド中央部の内陸にある、ダービシャー州に在る石炭紀の地層から産出した種類です。英国は、石炭紀の三葉虫も多く産出しているのですが、この産地に関する情報が乏しく、提供元が示した学名も正しいのか分かりません。記名者Henry Woodwardが1884年に出した書籍(#1)には、Derbyshire産Griffithides? carringtonensisとされる本種と思われる図版があり、尾部の描かれているのですが、この標本の尾部と図版は特徴が合致しています。本種の標本は2018~2019年位の短期間に極僅かに市場に登場し、その後は見かける事がありません。白系の母岩に10㎜に満たない小型の種類であり、複数の個体が見られるように群れで暮らしていたようです。 #1: 「A Monograph of the British Carboniferous Trilobites」
Carboniferous Phillipsiidae,Proetoidea,Proetina,Proetida TRI-664 -Trilobites
-
Ogmasaphus praetextus
サンクトペテルブルグ産(ロシア)のアサフスが、市場では圧倒的な供給量と質を兼ね備えているので、余り関心を集めないスウェーデン産のアサフスです。バルト海沿岸を中心に広くオルドビス紀のアサフスは見つかるのですが、この標本の様に全体的に状態として悪く、産出量も極めて少ないです。スウェーデン語が良く分からないので、詳しい産地情報も正確には分からないですが、南部のバルト海に近いエリアと想定されます。
Middle Ordovician Asaphidae,Asaphoidea,Asaphida TRI-186 -Trilobites
-
Agnostus pisiformis
岩全体がアグノスタスの脱皮殻で出来た化石です。この欠片だけで数千ものAgnostus pisiformisによって構成されています。非常に古くから記載された種類ですが、本種は三葉虫史に一石を投じたKlaus J. Müller(1923-2010)とDieter Walossekによる研究(※1)が知られます。本種の軟体部の解析により、三葉虫とは付属脚の構造が異なり、Agnostida(目)が甲殻類に近いと結論付けられる切欠になった事で知られます。 ※1:Morphology, ontogeny, and life habit of Agnostus pisiformis from the Upper Cambrian of Sweden(1987)
Upper Cambrian Agnostidae,Agnostoidea,Agnostina,Agnostida TRI-241 -Trilobites
-
Ditomopyge zhirnovskiensis
世界的に貴重な石炭紀の三葉虫産地の中で、私が知る限り最も保存状態が良いと思うのが、ロシア、ヴォルゴグラード州の産地です。白磁の様な白い母岩に白い殻の三葉虫がは美しく、もはや美術品のようです。石炭紀の種類に興味が無いコレクターでも一目置ける存在かと思います。大型で立体的で細部の保存が良く、体表の細かな突起まで残っております。しかし供給量が極めて少なく、入手がとても難しい産地の一つとして知られます。この標本は途中から折れていますが、石炭紀の種類としては珍しく尾部まで達する長い頬棘をまとう優雅な姿をしています。学名は、以前から混沌としていて、Pseudophillipsia(Carniphillipsia) rakoveci=Paladin transilis(WEBER,1933)が混同していますが、同一種と認識しており、近年Ditomopyge zhirnovskiensis(Mychko, 2017) に再編された模様です。
Upper Carboniferous(Pennsylvanian) Phillipsiidae,Proetoidea,Proetida TRI-191 -Trilobites