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岩崎宏美/飛行船
小学五年生の時、俺の人生最初のモテ期が到来した
当時俺はマンガ家を志望していて2週間に一度の3本の連載を持っていてクラスの連中に回し読みさせていたのだ
その3本+1本はこんな感じだ
「男軍対女軍」
これは当時クラスでドッジボールが流行していて男女に別れて昼休みや放課後に毎日のように対戦していてそれを漫画化したものだ
男軍はメンバーそれぞれに帝国海軍の艦船や航空機を振り分け女軍はアメリカを中心にした連合国の兵器だ、兵器を擬人化した艦これの40年先を行ってた画期的な作品である
「ウンコマン」
これはあまり評判はよろしくなかったんだけど当時戦隊モノのパイオニアであったゴレンジャーが放送開始、俺はそれにならって「ウンコマン」「シッコマン」「オナラマン」「オシリマン」「チ○ボマン」の5人の戦士が悪と戦う話を創作、しかし途中からトイレット博士のような下品なギャグマンガになってしまう、最終的にはクラスの誰かが親にチクってプチ問題化、あえなく休載となってしまう
「切手野郎」
ウンコマンの代わりに急遽連載を始めたのがこれだ。
切手収集を題材とした根性マンガで主人公(俺)が様々な苦難を乗り越えて珍しい切手をゲットしていく話だ、当時はクラスの大半の男子と一部の女子は切手を集めていたので分かる奴にはウケが良かったが分からない奴にはちんぷんかんぷんだったと思う
「ど根性ウサギ」
これが1番人気があった、主人公「俺」が広場で遊んでいた時に誤って転んでしまう、その転んだ時にちょうど真下にいた1匹のウサギを潰してしまうのだ、だがしかし、どっこい生きてたシャツの中
ぴょん太と名付けられた平面ウサギと実在のクラスメイトや教師達が登場する学園コメディだ
授業の狭間の休憩時間になるとクラスや学年の女子達が「画伯」と呼ばれていた俺の机の周りに群がり似顔絵のイラストを描いてもらう順番待ちをするのであった
俺は少女漫画も結構読んでいたので出来るだけ可愛く当時人気があった里中満智子風に盛って彼女らの似顔絵を描いてやる
彼女らはワーキャーと騒ぎながら順番を待つのである、
言ってみれば俺はていの良い美顔アプリの人力版だったのか?
そのお返しとばかりに彼女達は誕生日、バレンタイン等、事あるごとに俺に貢物を送った
直接渡してくる者、オーソドックスに下駄箱に入れる者、果ては家まで直接持ってくる者様々だ、親は俺が何故こんなにモテるのかきっと不審に思ったに違いない。
クラスにはそんな取り巻きから一歩引いた位置にいた少女が居た、
特定されると困るので郁代としておこう、彼女は児童会(生徒会の小学校版)にも立候補する様なアクティブな子で少し背が低くハッキリした顔立ちの娘だ、プライドもきっと高かっただろう
はっきり言おう、俺は彼女が好きだった
小学5年のボウズである、好きだからどうこうしようとかそう言ったのはなく本能的に好意を寄せると言うのかな?
単純に席変えで席が近くなったり遠足とかのグループが一緒になったり、そんな事で胸がときめくのである。
ちょっと前置きが長かったんだがようやく本題
当時郁代は岩崎宏美がかなり好きだと公言しており髪型は完全に岩崎宏美だった
ちょうどこのアルバム「飛行船」に入ってる「未来」って曲がヒットしていた頃である
いつしか俺の中では「郁代=岩崎宏美」と言う図式が出来上がってしまっていた
用もないのにレコード屋に行き岩崎宏美のレコードジャケを眺める日々だ
この「飛行船」は欲しくてたまらなかったんだが¥2200は当時の俺的には一生かかっても到達出来そうにない天文学的数字に等しい
飛行船のジャケを脳裏にしっかり焼き付けそのジャケの岩崎宏美を微妙に郁代に寄せて描きこっそりプレゼントもした
最終的にそこそこ仲は良くなったんだが決定打には欠けていたのであろう、何かが起きるわけでもなく中学に進学、すぐに俺は引越しに伴い転校する事に…
あんなに俺をチヤホヤした女達の大半は既にその興味を「俺」から「カッコいい先輩」に移していた模様。
転校の折、俺の下に届けられた餞別は数えるほどだった。
女は確実に男より早く大人になっていくものなのだと実感した瞬間だ。
そしてそれから30年以上の月日が経過したある日、
俺は偶然にも岩崎宏美のコンサートのチケットを2枚入手したのであった
「郁代を誘おう」
恐らく結婚もしてるだろうし子供も居て家庭があるだろう
下心は無い ただあの幼い日々に抱いていた感情を郁代に伝えたかっただけなのだ
あらゆる手を尽くし郁代の消息をたどった俺。
案の定苗字は変わっていたが彼女と思われるFacebookの鍵がかかったアカウントを発見した
俺は芸名で登録していたんだけど「あの時の俺」だと言うことを添えてメッセージを送った
「岩崎宏美のライヴに行かないかい?」
答えはYESだ
コンサートは4時くらいからで昼食を取ってから行こうと言う事になり昼前に待ち合わせをした
当時俺の髪は相当長かったので事前に少しだけ整えて同棲していた女にはバンドの用事があるとか適当なことを言って当日に臨んだのであった
駅前で待ち合わせをする事になり俺は駅の駐車場に車を停めて彼女を探す
やっぱり小柄だった郁代がそこに居た
おばさん化で夢が崩れ落ちる懸念は若干ながらあったのだがそれほどでも無い、いやあの頃の面影は十二分にある
事前に予約した回らない寿司屋でダラダラと飲みながら昔話をしその後コンサートに行った
昔の歌も織り交ぜながらのコンサートは元々歌唱力の高い彼女である、
30年の月日はアイドルではなく彼女をしっかりとしたアーティストへと成長させていた
俺と郁代もそうなのだ、30年の間にそれこそ様々な経験をし大人になっていたのだ
コンサート後に喫茶店で軽く食事をした
「家まで送ろうか?」
彼女は電車で帰ると言いその申し出を断った
それでいいのだ 今の人生に踏み込むべきではない
俺は改札口から彼女の姿が見えなくなるまで見送った
雑踏に紛れ彼女は数回振り返り俺の姿を確認するとニッコリ笑って手を振った
朧げに見える彼女の姿はあの頃の郁代の様にも見えた
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#大人になるということ