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角川書店 角川文庫 七つの仮面
昭和五十四年八月三十日 初版発行
発行所 株式会社角川書店
昭和31年(1956年)に雑誌「講談俱楽部」に掲載された横溝正史の短編小説「七つの仮面」。
ミッション・スクールに通う「あたし」こと美沙は美しく気品に充ちていて、他人から「聖女」と呼ばれていた。しかし、醜い上級生・山内りん子との同性愛の関係が「あたし」の人生の歯車を狂わせる。卒業後、りん子との関係を断ち、銀座の高級喫茶で働くようになった「あたし」。「あたし」はたちまち男たちを虜にするが、すぐにりん子に見つかり、執拗に付きまとわれるようになる。そんな中、「あたし」は中年の彫刻家・江口と爛れた関係を結び、他にも若い男2人を手玉に取るような女になるが、それがやがて恐ろしい事件へと発展する...
かつては「聖女」と呼ばれながらも、今では娼婦へと身を堕としてしまった女の回想という形式で物語が進む、横溝正史の異色作ですね。元々は昭和23年(1948年)に雑誌掲載された「聖女の首」というノンシリーズの短編が原形となっているのですが、これを“金田一モノ”として書き改められたのが本作です。タイトルの「七つの仮面」とは、彫刻家・江口が「あたし」こと美沙をモデルに制作した胸像“聖女の首”と、密かに制作していた6つの胸像のことを指していて、聖女の仮面の下に潜む美沙の本質を偶像化した、この6つの胸像が事件の引き金となります。6つの胸像にはそれぞれ「接吻する聖女」「抱擁する聖女」「法悦する聖女」「悪企みする聖女」「血ぬられた聖女」のタイトルがついているのですが、最後の一つ「縊れたる聖女」が明かされるラストが実に衝撃的です。小品ではありますが、何かどす黒いものがあとに残る、独特の読後感が堪りません。
本書には表題作の他に「猫館」「雌蛭」「日時計の中の女」「猟奇の始末書」「蝙蝠男」「薔薇の別荘」の短編6編が併録されています。いずれも昭和30年代に執筆された“金田一モノ”の作品ですが、個人的には数少ない金田一耕助の変装姿(しかもアロハシャツにハンチングを被って!)が描かれている「雌蛭」が面白かったです。角川文庫には昭和54年(1979年)に収録されました。
画像は昭和54年(1979年)に角川書店より刊行された「角川文庫 七つの仮面」です。美しい女の顔と6つの不気味な顔。彫刻家・江口が「あたし」こと美沙をモデルに制作した胸像“聖女の首”と、密かに制作していた6つの胸像をモチーフにした表紙画ですね。一つ足りないぞ、と思いきや、“聖女の首”の右目辺り、黒枠のところに一部分だけしか描かれていない仮面がちゃんとあります。何とも意味深です。
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