角川書店 角川文庫 自選人形佐七捕物帳三 舟幽霊

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昭和五十二年五月三十日 初版発行
発行所 株式会社角川書店

昭和29年(1954年)に雑誌「別冊宝石」に連載された横溝正史の短編時代小説「舟幽霊」。
江戸芸能界の大パトロン・大枡屋嘉兵衛が主催する月見の宴に招かれた神田お玉が池の岡っ引き・佐七とその子分の辰と豆六の3人が、やはり宴に招かれた人気役者・中村富五郎が乗る屋形船に相乗りすることになった。佐七たちが船に乗り込んだ直後、舟宿の女将がずぶ濡れで髪をざんばらにした女の幽霊を見たという。船には銀の平打ちで、揚羽蝶の紋所が入った簪が落ちていた。やがて一行は宴に合流するが、その宴の最中、例の簪の持ち主である柳橋の名妓・おえんが惨殺死体で発見された...
乗り込んだ屋形船で目撃された女の幽霊、そして、宴の最中に発見されたおえんの死体。謎が謎を呼ぶ奇怪な事件に挑む人形佐七の活躍を描いた作品ですね。おえんの死体には「太い棒でつかれたような」「鋭利な刃物で切られたような」「鋭い錐でつかれたような」「おおかみの牙にかみさかれたような」という傷が全身に7か所あり、それは「ひとつとして同じ種類のものはなかった」という不可解さで、そこを佐七が持ち前の名推理で解き明かしていくのが本作の面白さ。40ページの短編だけに少々あっさりとしている感は否めませんが、真犯人の正体、用いたトリックはなかなかのもので、流石専門誌の「別冊宝石」に掲載されただけのことはあると感じました。本書には表題作の他に「万引き娘」「くらやみ婿」「女難剣難」「遠眼鏡の殿様」「風流六歌仙」「夜毎来る男」「恋の通し矢」の短編7編が併録されています。個人的には、遠眼鏡で世間を覗き見るのが好きな殿様が殺人事件に巻き込まれる「遠眼鏡の殿様」が面白かったです。こちらは昭和30年6月に雑誌「キング」に掲載された短編ですが、その年の1月に日本で公開されたのがあのヒッチコックの『裏窓』。横溝正史が映画にインスパイアされたのかなぁ、なんて想像すると楽しいです。
画像は昭和52年(1977年)に角川書店より刊行された「角川文庫 自選人形佐七捕物帳三 舟幽霊」です。揚羽蝶の装飾が施された銀の簪。まさに「舟幽霊」事件の重要な小道具である「銀の平打ちで、揚羽蝶の紋所が入った簪」ですね。簪に纏わり付いている髪の毛が何とも不気味です。

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