「日本発エドワード・グリーン」~ ユナイテッドアローズ別注 ソブリン
初版 2023/02/19 08:12
改訂 2024/09/14 22:56
1993年頃だったと思いますが、ユナイテッド・アローズがエドワード・グリーンに靴の別注を掛けました。当時、靴だけでなくアローズは様々なブランドに別注を掛け、「ソブリンSovereign」という名称でスーツ、シャツ、ネクタイなど名工房の素晴らしい逸品を提供していました。別注物の白眉はメンズのシャツでした。シャツのタグには「ユナイテッドアローズ」ネームのみでブランド名は書かれていませんでしたが、特にダブルカフのシャツの縫製の素晴らしさから、別注先は「ターンブル&アッサー」ではないかと推測しています。値段も当時の既製シャツでは破格の38,000円ほどでした(高いという意味です)。
ソブリンのことが書かれた1993年当時の雑誌『BEGIN』が手元に残っていたので、記事の画像を撮ってみました。文章も時代を感じさせます。
ソブリンの紹介です。「通常のエドワード・グリーンより購入しやすい価格」で作られたのがこのソブリンだそうです。上のUチップは「ブリストル」というモデルで32ラスト、ドーバーの廉価版といった感じです。モカ縫いはトライアングル、つま先も機械縫いです。価格はどのモデルもすべて58,000円でした。
当時私は旭川に単身赴任していましたが、その時期に「オクノ」という地元のデパートの地下一階にアローズの支店が出来、そこでこのソブリンの靴を買い求めました。札幌でさえアローズがなかった時代に、なぜ旭川に出店することになったのか未だに謎です。
ロンドンタンの「ブリストル」です。ドーバーと違って爪先、モカ部分はスキンステッチではなく機械縫いです。
こちらは黒のブリストル。
ソールのロゴもオリジナルで洒落ています。日本の会社の別注グリーンで、インソック、箱共に凝ったオリジナルだったのは、アローズとエイボンハウスのみでした。対照的にロイドは実に素っ気ない共箱でした(笑)。
外羽根フルブローグの「トライアンフ」。ラスト33でロンドンタンカーフです。厚めのシングルソールです。アウトソールの刻印は筆記体、ソールもオークバークではありません。トゥのメダリオンが個性的。
こちらは外羽根パンチドキャップトゥの「ローバー」。33ラストです。
スナッフスエードのローバーです。ラストは33。
バンバリーとそっくりなチャッカブーツ、スナッフスエードの「モーガン」です。ラストは88。両者はほとんど同じなのですが、後の一枚革の有無が唯一の違いです。
バンバリーの後ろ姿。
ソブリンのモーガン。こちらは後ろに当て革はなく、縫い合わせのみです。私も初めはパッと見てバンバリーとの違いがわかりませんでした。
これは黒カーフのモーガン。モーガンのラストはすべて88です。
ロンドンタンのモーガンです。
ソブリン唯一の内羽根、チェルシーと同じデザインのキャップトゥです。ラストは88で、やや黄色みがかったブラウンです。ペットネームは分かりません。アイレットはフレア気味で、アイレットの横幅も広めなのであまりスマートに見えません。ソブリンは全部で以上の5型があったようですが、このキャップトゥだけ所有していません。
さて肝心の「靴としての評価」ですが、アッパーの革質は通常ラインよりかなり劣ります。特に茶のカーフは硬く、長く歩くと疲れます。ロイドと比較すると、ソブリンとほぼ同じ価格で購入出来たマスターロイドに軍配を上げます。
同じ雑誌に掲載されていたロイドの記事では、左上グリーンのプロパーのカドガンが58,000円です。他のグリーン製の靴も同じ価格ですが、ドーバーのみ68,000円でした。右のクロケット製は3万円代です。
同じBEGINの記事ですが、何度もお邪魔したロイドフットウエア青山店の写真です。浦上さんが若い!
この頃の国内のドーバーの一般的な価格は88,000円でした。まだ「ストラスブルゴ」という会社は世になく、「キャンディ」というお店がエドワード・グリーンとジョンロブを扱っていました。
そのキャンディというお店です。初めはグリーンの靴を褒め称えていましたが、グリーンの経営が傾いてからあからさまに『ロブ推し』になった(というよりグリーンをけなし始めた)この会社を、私はどうしても好きになれませんでした。同社もほどなく無くなりました。
ビギンに掲載された93年時の全国靴名店のリストです。一番上の札幌の「川中靴店」がなくなって十数年経ちます。皆さんの地元にまだこれらのお店が残っているでしょうか。
1990年3月に行ったロンドンで、初めてエドワードグリーンのドーバーを購入しました。以来、ここの靴の虜になりました。質の良いしっとりとしたカーフ、美しい木型、無い物ねだりと分かりながら、この時代のエドワードグリーンの靴を今も追い求めてしまいます。
他に古い靴も修理して履いています。特に戦前の英国靴は素晴らしいと実感しています。
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