角川書店 角川文庫 悪霊島(下) 第1期

0

昭和五十六年五月三十日 初版発行
発行所 株式会社角川書店

昭和53年(1978年)から昭和55年(1980年)にかけて雑誌「野性時代」に連載された横溝正史の長編小説「悪霊島」。
“黄金の矢”で串刺しにされて殺された刑部神社の宮司・刑部守衛に続き、行方不明になっていたその双子の娘の一人・片帆が、人も通わぬ穏亡谷で死体となって発見された。実は守衛よりも前に絞殺されていた彼女の死体は野性化した猛犬に喰いちぎられ、烏に突かれ、見るも無残な姿に変わり果てていた。事件の鍵は島の地下に広がる大洞窟内の“ある場所”にある、と睨んだ金田一は密かに越智竜平と共に大洞窟内を探索するが、そこで彼らが見たものとは一体...?
解決編となる下巻。一連の連続殺人事件の真犯人の正体と、過去に起こった3つの蒸発事件の謎が解き明かされますが、その真相は横溝作品史上でも類を見ないほど異様で、おぞましいものでした。真犯人たちが洞窟内で作り上げていた情景を想像すると何とも空恐ろしいものがありますが、個人的にはこの作品、“岡山もの”の総決算、集大成であると同時に、横溝が敬愛する江戸川乱歩の「孤島の鬼」からの影響も強く受けているように感じました。あと、印象に残ったのが磯川警部。「本陣殺人事件」以来の、金田一耕助の“岡山もの”での良き相棒であるこの名キャラクターを、もう一人の主役ともいう感じで物語に関わらせ、深く掘り下げているのがファンには堪らないですね。生前の横溝正史はこの「悪霊島」のあとに金田一耕助の“東京もの”での良き相棒である等々力警部ものを書き、そのあと事件が東京と岡山にまたがる等々力・磯川両警部ものを書きたいとの構想を持っていました。それが実現する前に逝去してしまったのが返す返すも残念でなりません。角川文庫には昭和56年(1981年)に収録されました。
画像は昭和56年(1981年)に角川書店より刊行された「角川文庫 角川文庫 悪霊島(下) 第1期」です。女の顔と、海に浮かぶ小さな島という構図は上巻と同じですが、女の顔は鬼女の如く変貌し、島の上空には暗雲が垂れ込め、雷鳴が轟き、穏やかだった波は一転し荒波になっています。まさに怒濤の展開となった下巻に相応しい画柄です。

#横溝正史 #杉本一文 #金田一耕助 #角川書店 #角川文庫 #ミステリー #小説 #装画

Default