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角川書店 角川文庫 芙蓉屋敷の秘密
昭和五十三年九月十日 初版発行
発行所 株式会社角川書店
昭和5年(1930年)に雑誌「新青年」に連載された横溝正史の中編小説「芙蓉屋敷の秘密」。
白い花を咲かせる芙蓉の木が、庭いっぱいに植えられた“芙蓉屋敷”。その“芙蓉屋敷”で、元女優の女主人・白鳥芙蓉が何者かによって殺害されるという事件が起きた。容疑者は7人。7人には嫉妬・痴情・物盗り・怨恨・復讐・友情・子供への愛といった具合に、それぞれ異なる強い動機があった。そんな人間関係が複雑に縺れた事件に、素人名探偵・都築欣哉が挑む。
横溝正史初の本格長編として世に出た作品ですね(実際には中編程度の分量なのですが)。連載当時、編集部によって犯人探しの懸賞がかけられたという逸話があるほどの本格派の謎解きもので、子爵家の次男坊にして天才肌の素人探偵・都築欣哉が活躍する作風はどことなく海外の本格ミステリーの香りが漂っています。この時期の横溝正史はまだ編集者との二足の草鞋を履いていた頃で、作品的にも“奇妙な味”風味の短編が多かったのですが、ロジカルな本格ミステリーにチャレンジした、この「芙蓉屋敷の秘密」からいよいよ本格始動という感じが伝わってきます。本書には表題作の他に「富籤紳士」「生首事件」「幽霊嬢(ミス・幽霊)」「寄せ木細工の家」「舜吉の綱渡り」「三本の毛髪」「腕環」の短編7編が併録されています。いずれも昭和2年(1927年)から昭和5年にかけて執筆された作品ですが、個人的には短編ながらも不可能犯罪トリックに果敢に挑んだ「三本の毛髪」が興味深かったです。角川文庫には昭和53年(1978年)に収録されました。
画像は昭和53年(1978年)に角川書店より刊行された「角川文庫 芙蓉屋敷の秘密」です。真っ赤な絨毯の上で事切れている妖艶な女。まさに“芙蓉屋敷”の女主人・白鳥芙蓉殺害の現場を描いた表紙画ですね。事件の重要な小道具である中折れ帽が効いています。
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