角川書店 角川文庫 双仮面

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昭和五十二年十月三十日 初版発行
発行所 株式会社角川書店

昭和13年(1938年)に雑誌「キング」に連載された横溝正史の中編小説「双仮面」。
犯罪のあとに必ず一輪の薔薇を署名代わりに残していくことから、誰いうとなく名付けられた謎の怪盗“風流騎士”。その“風流騎士”が、日本一の造船成金といわれる大富豪・雨宮万造老人が喜寿の祝いに造らせた、大粒のダイヤが船首に鏤められた黄金の模型船に目を付けた。そして、模型船が披露されるお祝いの日。警察の厳重な警戒網を搔い潜り、いつの間にか邸内に侵入した“風流騎士”は万造老人を殺害し、ダイヤを奪っていった...
帝都・東京を騒然とさせた謎の怪盗“風流騎士”を巡るミステリーに挑む名探偵・由利麟太郎の活躍を描いた戦前の作品ですね。“風流騎士”に加え、レビューの人気女優やアラブの王族、仏像収集家の老画家など様々なキャラクターが入り乱れて登場する冒険活劇的なテイストが強い物語で、そんな作劇はどこかジュブナイル的な趣すらありますが、事件の根っこには“風流騎士”と万造老人の孫、同じ顔の双生児の確執があり、そんな2人の善悪の印象が入れ替わりながら展開は進みます。ラストは大どんでん返しで、ちょっと後味の悪さすら感じられるところはありますが、この読後感、私は嫌いではありません。本書には表題作の他に「鸚鵡を飼う女」「盲目の犬」の短編2編が併録されています。鸚鵡と犬、どちらも動物が事件のカギを握っている作品ですが、短編といえど捻りがあって、読み応えは充分です。角川文庫には昭和52年(1977年)に収録されました。
画像は昭和52年(1977年)に角川書店より刊行された「角川文庫 双仮面」です。一輪の赤い薔薇を口に咥え、唇からは血を滴らせている仮面の男。“風流騎士”を描いたものと思われますが、仮面の下から覗いている充血した目が何とも不気味。

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