角川書店 角川文庫 夜光虫 第1期

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昭和五十年八月三十日 初版発行
発行所 株式会社角川書店

昭和11年(1936年)から昭和12年(1937年)にかけて雑誌「日の出」に連載された横溝正史の長編小説「夜光虫」。
両国の川開きの夜、護送中の犯人が捕縄のまま逃走した。花火見物の多数の屋形船で賑わう中、船から船へと飛び移って逃げる犯人の男はある一艘の船にたどり着く。その船には美しい啞の少女と乳母の老女が乗っていたのだが、彼女たちは蒼白い花火の光を受けて、闇の中に浮かび上がった男の姿を見て驚愕した。それは恐ろしくなるほどの美少年であるばかりか、彼の象牙のような白い右肩には得体の知れぬ腫れ物がむくむくと盛り上がっていたのだ...
世にも恐ろしい人間の顔の形をした腫れ物、人面瘡を右肩に持つ稀代の美少年・白魚鱗次郎を巡って次々と起こる奇怪な事件を描いた、戦前の横溝正史の代表作の一つですね。鱗次郎に加えて、啞の美少女や美貌のレコード歌手、怪しい不具者の集団に、果てはゴリラ男まで、様々なキャラクターが入り乱れて登場する、謎解き要素よりも冒険活劇的なテイストが強い物語で、そんな作劇はどこかジュブナイル的な趣すらあります。この時代の横溝作品の名探偵役を一手に引き受けていた“由利先生”こと由利麟太郎が登場するシリーズの一つでもありますが、この作品では只の“添え物”と化しています...
個人的には、この作品をコミカライズした高階良子の少女漫画「血塗れ観音」が好きでしたね。主人公の鱗次郎を美少女・潤に置き換え、“由利先生”に至ってはその存在すらオミットされていますが、「血まみれ観音」のほうがキャラクターが整理されていて、むしろ物語的には良く出来ているのではないかと思えるほど、そのアレンジは見事でした。角川文庫には昭和50年(1975年)に収録されました。
画像は昭和50年(1975年)に角川書店より刊行された「角川文庫 夜光虫 第1期」です。劇中に登場した時計塔の文字盤をバックに、こちらをじっと見つめている男女。主人公の鱗次郎と啞の美少女・琴絵のカップルを描いたものと思われますが、男のほうはあまり“稀代の美少年”というイメージではないですね(笑)

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