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鉱物標本 セルサイト 繊維状(Cerussite)
別名:白鉛鉱、Lead Spar、White Lead Ore 産地:Santa Cruz Co., Arizona, U.S.A. ガレナ(方鉛鉱)の酸化等で鉛鉱床の酸化帯に生成する鉛の二次鉱物。 細かく砕かれたものは古くから白色顔料の鉛白として利用されてきた。ただしセルサイトが炭酸鉛(PbCO3)であるのに対して、本来の白色顔料である鉛白は人工的に作られた塩基性炭酸鉛(2PbCO3•Pb(OH)2))であり、天然にはハイドロセルサイトという鉱物で別に存在している。 鉛白の製造の歴史は古く、紀元前300年頃の古代ギリシャにおいて『植物学の祖』と呼ばれた哲学者、博物学者、植物学者であったエレソスのTheophrastosが記した『Περὶ λίθων(De lapidibus、石について)』にて既にその製法が記述されている。その内容は酢酸を入れた土器の上で10日程鉛を曝した後、表面に蓄積した鉛白を削り集め、再度鉛を酢酸に曝して完全に鉛が無くなるまで繰り返すといったものであるらしい。 セルサイトの名称については1565年にConrad Gessnerによりラテン語で『天然の鉛白』を意味する"cerussa nativa"という呼称で言及され、1832年にF. S. Beudantがcruiseという名称で記述した。ラテン語の鉛白"cerussa"に由来する現在のcerussiteという名称は1845年にオーストリアの鉱物学者であるWilhelm Karl Ritter von Haidingerが命名した。 その高い屈折率と分散度から、インクルージョンの少ない透明結晶ではスフェーンやスファレライト、ジルコンに匹敵するダイヤ光沢とファイアを有する希少な宝石となる。 標本の産地であるサンタクルス郡は1899年にピマ郡から分離して設立されて出来たアリゾナ州の郡である。郡名はピマ郡で発見された鉱物であるキノアイト(*1)の名前の由来にもなっている、17世紀後半にアリゾナ一帯で活動した宣教師、探検家のEusebio Francisco Kino神父が名付けたサンタクルス川に因む。サンタクルス郡には現在もKino神父に因んだ史跡が残されている。 2021年7月にミネラルザワールドin横浜にて購入。セルサイトは短波紫外光で黄色や白色の蛍光を確認できる場合もあるそうだが本標本では確認できなかった。 *1:キノアイト →鉱物標本 キノアイト(Kinoite)
鉱物標本 3~3.5 金剛光沢、ガラス光沢、樹脂光沢、真珠光沢、鈍光沢、土光沢たじ
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鉱物標本 レピドライト(Lepidolite)
別名:リチア雲母、lithionite、鱗雲母、紅雲母 産地:Iting, Minas Gerais, Brazil 主にピンクから淡い紫色、灰色をしている含リチウム雲母。その色はレピドライトそのものではなく、含有しているマンガンに由来している。そのため赤色系統の他にも黄色や白色などの色も存在する。 またレピドライトはポリリチオナイト(polylithionite, K(Li2Al)(Si4O10)(F,OH)2)とトリリチオナイト(trilithionite, K(Li1.5 Al1.5)(AlSi3O10)(F,OH)2)の中間組成の鉱物を示すもので、Li:Al比はポリリチオナイトの2:1からトリリチオナイトの1.5:1.5までの間を取る。 本標本は平板状の結晶であるが、大抵のレピドライトは上記の様に組成に幅があるため結晶に歪みが生じて魚鱗状の球形塊として産出する。 この形状から1792年にMartin Klaprothによってギリシャ語で鱗を意味する"lepidos"と石を意味する"lithos"からレピドライトと名付けられた。日本での鱗雲母という呼称もこれに因む。 レピドライトはスポンジュメン(リチア輝石)やペタライト(葉長石)(*1)など他のリチウム鉱物等とともにペグマタイト中に産出する。 また含リチウムペグマタイトから産出することから同じアルカリ金属で不適合元素であるルビジウムやセシウムを含有していることが多く(*2)、レピドライト中に0.3%~3.5%程のルビジウムを含むとされている。ルビジウム元素自体、1861年に学校の理科室で誰もが必ず目にしたことのあるブンゼンバーナーの発明者でもあるRobert Bunsenと、電気回路のキルヒホッフの法則でお馴染みのGustav Kirchhoffによってドイツのハイデルベルク大学にてレピドライトから発見された。 彼らはレピドライト150kg中からわずか0.24%含まれる酸化ルビジウム(Rb2O)をヘキサクロリド白金(IV)酸(H2[PtCl6]、白金を王水に溶かして得られる錯体)によって処理することで、ヘキサクロリド白金(IV)酸ルビジウムとして抽出し、さらに水素で還元、アルコールで分離すること塩化ルビジウムとして単離した。 この時彼らは1859年に自分達が発明した分光器を用いることで元素固有の発光スペクトルを確認し、ルビジウムが新元素であることを突き止めた。ルビジウムという名はそのスペクトル輝線が赤色を示すことからラテン語で暗赤色を意味する"rubidus"より命名された。 因みにBunsenとKirchhoffはルビジウム発見の前年である1860年に鉱泉からセシウム塩を同様に単離し、分光器の発光スペクトルによりセシウム元素を発見している。セシウムの名称もルビジウム同様にスペクトル輝線が青色であったことからラテン語で青色を意味する"caesius"より命名された。 リチウムの工業原料とされるとともに、その副産物としてルビジウムやセシウムの主要な工業原料としても利用される。またレピドライト自体も他の雲母グループ同様に絶縁体で耐熱性が有ることから電子部品として用いられることがある。 本標本は2020年にミネラルマルシェにて購入。 レピドライトは乳白色から淡黄色の蛍光を確認できる場合もあるそうだが本標本では確認できなかった。 *1:ペタライト →鉱物標本 ペタライト(Petalite) *2:ルビジウム・セシウムと不適合元素 →鉱物標本 ロンドナイト(Londonite)
鉱物標本 2.5~3.5 亜ガラス光沢、樹脂光沢、脂肪光沢、真珠光沢たじ
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鉱物標本 キャストライト(Chiastolite)
別名:空晶石、Crusite、Lapis Crucifer、Macle、Maltesite、Cross-stone 産地:中国 双晶になった薄紅色のアンダルサイト(紅柱石)の隙間をグラファイトのインクルージョンが埋めることで、黒の十字模様が断面に現れる鉱物。分類としてはアンダルサイトの変種になる。 アンダルサイトには同じ化学組成ながら、結晶構造の異なる鉱物が存在し、高圧条件ではカイヤナイト(藍晶石)が、高温条件ではシリマナイト(珪線石)が生成される。 アンダルサイト(キャストライト)の場合は低圧(400MPa以下)および中温(約300℃~650℃)の条件で粘土質堆積物がマグマの貫入による接触変成作用を受けて出来た泥質紅柱石ホルンフェルス中に生成する。さらに双晶生成時に堆積物中の有機物を由来とするグラファイトをインクルージョンとして取り込むとキャストライトとなる。 この鉱物に関する最初の記述はスペインのフランシスコ会宣教師であり、古生物学者でもあったJosé Torrubiaが1754年に出版したスペインで最初の古生物学論文とされる"Aparato para la Historia Natural Española"(直訳すると『スペインの博物学のための装置』)に記されたもので、イラストとともに載せられていたそうである。 "Chiastolite" の名前はグラファイトのインクルージョンによる十字の模様に因んで、ギリシャ語で「直交する線」を意味する "chiastos" から命名された。 その十字模様からキリスト教では守護石とされたこともあり、ラピス・クルシファーやクロスストーン、マルテサイト(マルタ石)などの『十字架』に因んだ別名も付けられている。 本標本は2021年5月にミネラルマルシェで購入した研磨品。
鉱物標本 6.5~7.5 ガラス光沢~亜ガラス光沢、脂肪光沢たじ
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鉱物標本 ロードクロサイト(Rhodochrosite)
別名:菱マンガン鉱、Inca Rose、Rosa del Inca、Rosinca、Alma Rose 産地:広西チワン族自治区, 中国 産地によって菱形や犬牙状の結晶から層状、鍾乳石状、ブドウ状まで様々な形態と、ピンクや赤色、バラ色、シナモン色、褐色など、色彩のバリエーションも豊富なマンガンの炭酸塩鉱物。同じ炭酸塩鉱物であるカルサイト(CaCO3)やシデライト(FeCO3)とは固溶体を形成する。 1813年に現在のCavnic, Maramures, RomaniaにあるCavnic銀鉱山から産出したサンプルについてJohann Friedrich Ludwig Hausmannによってそのバラ色"rhodochros"から命名された。 堆積岩や変性岩の低温~中温鉱床の亀裂に地下の熱水脈から上昇してきた熱水溶液の沈降や、含マンガン鉱床の変性接触交代などで形成され、マンガンケイ酸塩のロードナイトなどと共に産出する。特に、熱水脈から生成したものは菱形の結晶として産出しやすい。 宝石としては断面の縞模様がバラの花びらの様に見えるインカローズ(inca rose)が特に有名である。こちらは13世紀頃のインカ帝国の銀・銅鉱山で採掘がされていたが、帝国の滅亡と共にその存在も忘れ去られてしまった。その後1920~1930年代に再発見されたことで1940年代頃からアメリカを中心に収集家の間で取引されるようになった。 日本でも銀山などでよく産出し、不純物を多量に含んだ褐色のものはその色合いから鰹節鉱などと呼ばれる。青森県、白神山地の既に閉山している尾太鉱山でかつて産出していたピンク色のブドウ状(腎臓状)標本は国産品としては特に良質とそれ、今日でも当時のものが取引されている。 中国の広西省のロードクロサイトは本標本のような薄桃色の菱形結晶の標本が多く、同じ炭酸塩のカルサイトの結晶と形状が非常に近い。 見た目の似た鉱物としてロードナイトやパイロクスマンガイト(*1)があるが、両者がケイ酸塩鉱物であるのに対してロードクロサイトは炭酸塩鉱物のため、希塩酸に浸けると前者はそのまま溶解していくのに対して後者は発泡しながら溶解する違いで見分けられる。 また、ロードクロサイトの方が酸化しやすく、表面に褐色の酸化皮膜ができて黒色化してしまいやすい。 2019年、ミネラルフェスタin東京にて瓶詰めで売られていたものを購入。 *1パイロクスマンガイト →鉱物標本 パイロクスマンガイト(Pyroxmangite)
鉱物標本 3.5~4 ガラス光沢、真珠光沢たじ
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人工鉱物 キュービックジルコニア(Cubic Zirconia)
別名:立方晶ジルコニア, CZ 産地:中国 高い透明性からダイアモンドの模造品として用いられる二酸化ジルコニウム(ZrO2、ジルコニア)の結晶。 本来、ジルコニアは常温常圧下では単斜晶系が安定しており、天然では1892年にバッデレイアイト(Baddeleyite)として存在していることが発見されている。この単斜晶系のジルコニアは1170℃で正方晶、2370℃で立方晶、2750℃で溶融することが知られており、常温でも立方晶で安定させる方法が研究され、1929年に希土類酸化物の酸化イットリウムや酸化カルシウム、酸化マグネシウムなどをジルコニアに添加して固溶体にすることで結晶格子中に酸素空孔が形成され、常温でも正方晶や立方晶で安定することが発見された。 その後、1973年に安定化立方晶ジルコニア(CZ)の合成技術をソビエトの科学アカデミーLebedev物理学研究所(FIAN)が完成させ、その3年後から研究所の名前を取ってFianitという宝石名で商業生産される様になった。 酸化イットリウムの添加量が2.5~5%で部分安定化ジルコニア(PSZ)になり、8~40%で単相立方晶になるため、通常は5~10%くらい添加されている。 CZの特徴として屈折率が2.15~2.18と、ダイヤモンドの2.42に非常に近い高屈折率を有し、分散はダイヤの0.044に対してCZが0.058~0.066で高い光分散性を有する。逆にダイヤモンドとの大きな違いとして比重がダイヤの1.65倍であることや、ダイヤが熱伝導性に対してCZは断熱性であることが挙げられる。 2021年5月、ミネラルマルシェで購入。
人工結晶 宝石 鉱物標本 8~8.5たじ
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人工結晶 アルムNa(Alum-(Na))
別名:曹達明礬、ナトリウム明礬 産地:日本(自作) 一般的に明礬というとカリ明礬(*1)の方を思い浮かべるが、こちらはカリ明礬のK元素がNaに置換したもの。 本結晶はスーパーに売られているアンモニウム明礬を原料に合成したアルムNaを再結晶させた。反応させるNa分が少ないとアンモニウムが残ってしまい、多すぎると水酸化アルミニウムが析出して白濁するようであった。 今回はNa分が気持ち多めに入ったのが影響したかは解らないが、よく知られている八面体結晶でなく立方八面体の結晶が出来てきまった。 アルムNaは12水和物であるが、11水和物としてメンドザイト(mendozite)、6水和物としてタマルガイト(tamarugite)が希少鉱物として存在する。 2021年作成。 *1:カリ明礬 →人工結晶 アルムK(Alum-(K))
人工結晶 鉱物標本 3たじ
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鉱物標本 半人工赤色ジンカイト(蛍光性)(Zincite)
別名:紅亜鉛鉱、亜鉛華 産地:Oława, Lower Silesia, Porland 酸化亜鉛の鉱物。純粋な酸化亜鉛は白色であるが天然に産出するものの多くは和名の由来となる赤色を呈している。単純な化学組成の割に天然において亜鉛鉱物の風化で生成されるのは水亜鉛土や他の二次鉱物のため非常に希少で、アメリカ、ニュージャージー州にある先カンブリア時代の結晶性フランクリン大理石中の変性した亜鉛-マンガン-酸化鉄-ケイ酸塩鉱体中ぐらいでしか産出しない。 ただし、亜鉛工場などでは高温での加工により蒸発した亜鉛蒸気が急冷されて析出し、半人工的に生成される。ポーランドの塗料工場で数年に一度行われる定期点検での清掃にてラインパイプや煙突排気口に析出したジンカイトが回収され、市場に提供される。本標本もそうして市場に回ったものの一つである。 ジンカイトの発見者は水酸化マグネシウムの鉱物であるブルーサイトの発見者であり、名前の由来にもなっているアメリカの鉱物学者Archibald Bruceである(*1)。彼はニュージャージー州サセックス郡の酸化亜鉛の鉱物について詳細な分析を行い"On the Ores of Titanium occurring within the United States."という論文で1810年に発表した。 Bruceはこの鉱物について当時の鉱物命名法に従って"red oxide of zinc"と命名しており、その後1845年にWilhelm Karl von Haidingerが現在の"zincite"に改名した。 それ以外にもFrancis Algerは1844年に"sterlingite"、Henry James Brooke とWilliam Hallowes Millerは1852年に"spartalite"と名付けている。 2020年、ミネラルマルシェにて購入。長波UVで黄緑色の蛍光を確認。 *1:ブルーサイト →鉱物標本 ブルーサイト(Brucite) #鉱物 #人工結晶
鉱物、人工結晶 4 亜ガラス光沢、樹脂光沢、蝋光沢、脂肪光沢、絹糸光沢、鈍光沢、土光沢たじ
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鉱物標本 ビビアナイト(Vivianite)
別名:藍鉄鉱 産地:Roșia Poieni Mine, Mușca, Lupșa, Alba, Romania 鉄のリン酸塩鉱物。和名では『藍』の字が付いているが、実際の色は見る角度によって藍色から青緑色まで変化して見える。 イギリス、コーンウォールの政治家兼、鉱物学者のJohn Henry Vivian(1785~1855)が発見し、1817年にAbraham Gottlob Werner(*1)が命名した。 採掘された当初は無色透明であるそうだが、直ちにFe2+からFe3+へ酸化されて藍色~青緑色に着色する。光に暴露され続ける限り透過しなくなるまで変色し続けるらしく、最終的に黒く不透明になる。 2021年3月、さいたまミネラルマルシェにて購入。 *1:Abraham Gottlob Werner →鉱物標本 ウェルネライト(Wernerite)
鉱物標本 1.5~2 ガラス光沢、真珠光沢、鈍光沢たじ
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鉱物標本 エリスライト(Erythrite)
別名:コバルト華 産地:Bon Azer District, Tazenakht, Morocco コバルト-ニッケル-ヒ素の酸化帯に紅色~桃色の結晶が花びらの様に集まって産出するヒ酸塩の二次鉱物。 エリスライトのCoがNiに置換した緑色鉱物はアンナベルガイト(ニッケル華)と呼ばれ、両者は固溶体を形成する。CoとNiが1:1の比率では桃色を呈するらしい。 1832にFrançois Sulpice Beaudantによってギリシャ語で紅色を意味する"έρυθρος(erythros)"から命名された。 工業的な用途は無いが、二次鉱物という形で地表付近に産出するため、コバルト鉱山を探す上での指標になる。 2021年、ミネラルマルシェにて購入。
鉱物標本 1.5~2.5 亜ガラス光沢、蝋光沢、真珠光沢、鈍光沢、土光沢たじ
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鉱物標本 ペタライト(Petalite)
別名:ペタル石、(葉長石)、Castorite 産地:Araquiai, Minas Gerais, Brazil リチウムを含有するアルミノケイ酸塩鉱物。産業用リチウムの主要な鉱石鉱物の一つ。和名は葉長石だが実際には長石類ではないため、近年はこの呼称は推奨されていない。 1800年にブラジルの鉱物学者で政治家でもあったJosé Bonifácio de Andrada e Silva(*1)がヨーロッパ滞在時にスウェーデン、ストックホルム近郊のUtöにて発見した透明な新種鉱物について、劈開の様子からギリシャ語で葉を意味する"πέταλον"より命名した。 その後1817年、スウェーデンでJohan August Arfwedsonがペタルライトの化学分析でアルミニウムやケイ素の他にナトリウムやカリウムとも異なる性質を有する未知のアルカリ金属を含んでいることを発見した。彼の所属していた研究室の主宰である化学者Jöns Jacob Berzeliusはこれまでの既知のアルカリ金属であるナトリウムが動物の血液中に、カリウムが植物灰中に存在が認められていたのに対して新元素が鉱物中から発見されたため、ギリシャ語で石を意味する"λιθoς"からlithiumと命名した。BerzeliusはArfwedsonの研究に多くの助言を与えていたそうであるが、この新元素の発見者をArfwedson一人の名前で発表させてあげたという逸話が残っている。 話は逸れるがこのJöns Jacob Berzeliusはセレン、セリウム等の新元素の発見や各元素の単離、原子量の精密な決定の他、これまで図形記号で表記されていた元素記号をラテン語またはギリシャ語の名称のアルファベット頭文字で表す現在の方法を提唱し、化学を無機化学と有機化学の2つに分割し、『たんぱく質』や『ハロゲン』『触媒』といった数多の化学用語を考案して近代化学の理論体系を組織化、集大成した化学者である。 1818年にChristian Gottlob Gmelinがリチウム塩の赤色の炎色反応を初めて確認。しかしGmelinもArfwedsonもリチウムの単離には成功出来なかった。1821年になってイギリスの化学者William Thomas Brandeが酸化リチウムの電気分解により漸く単離に成功できた。 リチウムを含むペグマタイト中で他の含リチウム鉱物と共に産出する。炭酸成分が少なく、高密度含水アルカリホウケイ酸塩液体の存在する3kbar、~500℃の条件下でスポジュメン(リシア輝石)と石英に転換される。 ・LiAlSi4O10→LiAlSi2O6+2SiO2 本標本は2020年にミネラルマルシェで購入。 *1: José Bonifácio de Andrada e Silva →鉱物標本 ウェルネライト(Wernerite)
鉱物標本 ペタル石(葉長石) 6~6.5たじ
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鉱物標本 クロコアイト(Crocoite)
別名:紅鉛鉱、黄鉛 産地:Adelaide Mine, Dundas, Tasmania, Australia 赤い短冊状の結晶が特徴の鉛とクロムを含有する鉱物。そもCr元素自体が1797年にフランスの化学者Louis-Nicolas Vanquelinのよってこの鉱物から発見されており、化学史においても重要な鉱物である。ちなみにクロムの語源はギリシャ語で色を意味する"χρωμα"で、クロム化合物はその酸化状態で赤色から黄色、緑色と多彩な色を示すことからVanquelinの知人で鉱物学者で聖職者でもあったRené Just Haüyが命名した(*1)。 クロコアイトは1763年にエカチェリンブルク近郊のBerezovsk鉱床で発見され、1766年にJohann Gottlob Lehmannにより"Nova Minera Plumbi"と命名された。 1770年にPeter Simon Pallasによってこの鉱物を砕いた黄色い粉末が顔料に適していることが指摘され、「シベリアの赤い鉛」として黄色顔料として珍重された。かのゴッホの「ひまわり」もこの黄色によって1888年~1889年にかけて描かれた。現在の日本でもクロムイエローや黄鉛という名前で利用されているが、6価クロムを含むこの顔料の毒性はとても強く、発ガン性や生殖毒性、造血系や腎臓、神経系への影響等の恐れがあるとされる。日本の化学物質に関する法規制では毒劇物取締法の劇物指定な上、特定化学物質の第2類物質にも引っ掛かっており、毒性に関しては役満アウトである。ただしクロコアイトは法的には化学試薬ではなく石ころなので鉱物標本としての所持については(まだ)セーフである。 閑話休題、この鉱物には歴史の中でplomb chromate, kallochrom, crocise, beresofite, lehmannite等々まさしく「色々」な名前が付けられてきたが、現在のクロコアイトの元となったのは1841年のJohann August Breithauptによる"krokoite"という名前で、この顔料の黄色がサフラン"krokos"の色に良く似ていたことに由来する。 本標本が採掘されたAdelaide鉱山はタスマニア島西部のDundas鉱山地帯にある鉱山の一つで、世界でも有数のクロコアイト産地でもある。ここの露頭は古生代カンブリア紀の超苦鉄質岩に由来し、長い時間をかけて蛇紋石や方鉛鉱、苦灰石を豊富に含む岩へと変成し、さらに風化作用を受けることでクロコアイトのような二次鉱物も生成された。この鉱山ではクロコアイトの他にもMgとCrからなるスティヒタイトや、PbとAlからなるデュンダサイトのような希少鉱物も発見されている。 本標本は2019年のミネラルフェスタで購入。机下の目立たない所にあったこの標本買おうとしたら外人のお店の方が相当割引して下さって非常にお買い得だった。名前はサフランに由来しているが、私的には結晶の色形と毒性からヒガンバナの花のイメージが強い。…もしくはニンジンの千切り。 *1:René Just Haüy →鉱物標本 ダイオプテーズ(Dioptase)
鉱物標本 亜金剛光沢、亜ガラス光沢、樹脂光沢、蝋光沢 ミネラルフェスタたじ
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鉱物標本 アマゾナイト(Amazonite)
別名:天河石 産地:Brazil 長石グループの微斜長石と呼ばれる鉱物の変種。その空の様な青緑色は含有する一酸化鉛(PbO 1%前後)によるものとされているが、他にも鉄(Ⅱ)やルビジウム、タンタル等との複合的な影響についても報告されている。また熱に弱く、300℃を越えると失色する。 この鉱物自体は古代エジプトで既に宝飾品として用いられていた。アマゾナイトとしての名前はヨーロッパの宝石商がブラジルでこの石を入手した際にアマゾン川流域で採れた青い石と混同して売り出したことに由来し、1700年頃には"Pierre des Amazones"(アマゾンの石)という名で記録されている。その後アマゾン川流域にはアマゾナイトが産出しないことがわかったものの、1847年にドイツの鉱物学者Johann Friedrich August Breithauptにより"Amazonite"と正式に命名された。 因みにヨーロッパ人が初めてアマゾン川に到達したのは西暦1500年。その時はマーレ・ドゥルセという名が付けられた。現在のアマゾンという名前の正確な由来は良くわかっていないが、1542年アマゾン川流域を探検していたスペイン人達が地元の女性戦士に襲われたことから、ギリシャ神話の女性のみの狩猟部族であるアマゾネスを連想して"amazonas"の名前が付けられたという説が有力である。 本標本は2010年代に科博の売店で購入。
鉱物標本 6~6.5 ガラス光沢たじ
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鉱物標本 合成ダイヤモンド(Diamond)
別名:金剛石、алма́з 産地:China 炭素元素からなる天然で最も硬いとされる物質で、モース硬度は最硬の10。同じC元素からなる同素体にグラファイト(黒鉛)があるが、こちらは共鳴した炭素のシートが分子間力で積層した構造を取り、エネルギー的にもダイヤモンドより安定である。そのため通常の大気圧条件ではこちらが炭素の単体として生成される。対してダイヤモンドは共有結合による四面体配列の構造を取っており、グラファイトよりも密な構造となるため生成される条件も超高圧を要する。 語源はギリシャ語の"αδάμας"(屈しない)である。西暦100年頃には小プリニウスらによって記述されているのは確認されている。 ダイヤモンドが見つかる母岩はキンバーライト(雲母橄欖岩)と呼ばれる超塩基性の火成岩である。この岩石は先カンブリア時代の世界的な造山運動にて、地下120kmにあるマントル物質が激しい噴火によってごく短時間のうちに地表付近まで噴出したことで生成された。噴出後も数十億年単位でその先カンブリア時代の地質が保存されていなければならず、そのためキンバーライトが存在する場所は安定陸塊と呼ばれる地球上でも地殻変動が非常に少ない場所に限られる。ダイヤモンドの結晶はそんなマントルという超高温高圧の特殊条件だからこそ出来たものであり、更に地表へと急速に噴出され、かつその地質が維持されるという希少条件が揃うことで初めて見つかったものである。 この条件を工業的に再現したのが高温高圧法(High Pressure and High Temperature, HPHT)で、1955年にアメリカのゼネラル・エレクトリック社(GE社)が合成ダイヤモンドの製造に成功させた。この方法によって宝飾品用だけでなく、研磨剤用のダイヤも工業的に量産出来るようになった。他にも化学気相成長法(Chemical Vapor Deposition, CVD)と呼ばれる合成方法もあるが、本標本はHPHT法によるものである。 また、ダイヤモンドはその四面体構造に組み込まれる不純物によって窒素を含むⅠ型と含まないⅡ型に分類される。Ⅰ型は更に無色に近いⅠa型と黄色の濃いⅠb型に、Ⅱ型は不純物を全く含まない無色のⅡa型と窒素以外の不純物を含むⅡb型に分けられる。特にホウ素を含むⅡb型は青色を示して天然では希少性が高い。本標本は濃黄色のため、Ⅰb型のダイヤに相当する。 2019年にミネラルフェスタで購入。拡大観察してみると正八面体の各頂点が削れた14面の立方八面体に近い形状になっていることが確認できた。
鉱物、人工結晶 10 金剛光沢、脂肪光沢たじ
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化石標本 アンモナイト真珠光沢(Ammonite)
学名:Pseudosonneratia sp. 産地:Madagascar アンモナイト化石でアラゴナイトによる遊色効果を示すものはカナダのアンモライト(*1)が有名だが、まるで真珠の様な光沢を示すマダガスカル産のものも知名度が高いのではと個人的に思う。本標本をいつ何処で購入したのか忘れてしまったが、「アンモナイト」「真珠光沢」で検索すればこれと同じ物が大量に出てくる。 調べてみた限り、本標本はアンモナイト目Hoplites科Pseudosonneratia属の今から約1億1000万年前の前期白亜紀のアルブ期と呼ばれる時代に生息していた種だと思われる。ジュラ紀中期にゴンドワナ大陸が西ゴンドワナ大陸(南アメリカ大陸+アフリカ大陸)と東ゴンドワナ大陸(マダガスカル+インド亜大陸+南極大陸+オーストラリア)の2つに分裂した後、東ゴンドワナ大陸がさらにマダガスカル-インド側と南極-オーストラリア側に分かれた時期に相当する。 "pseudo"はラテン語で「擬(モドキ)」を意味し、同じHoplites科に属する「擬」でないsonneratia含めて多くの種類のアンモナイトがかつては西ゴンドワナと東ゴンドワナ間の海にも生息していた。やがて彼らが絶滅し、大陸が現在の形になった後もモザンビーク海峡という形で海は残り、隣接するマダガスカルにて真珠光沢を有する化石として発掘されている。 *1:アンモライトと遊色効果 →鉱物標本 アンモライト(Ammolite)赤系 参照 #化石 #鉱物標本
化石 真珠光沢 頭足綱 アンモナイト目たじ
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鉱物標本 ブルーサイト(Brucite)
別名:ブルース石、水滑石 産地:Pakistan 水酸化マグネシウムの天然鉱物。化学式は単純なれど初めて記述されたのはアメリカ開拓期の鉱物学者でAmerican Mineralogical Journalの編集者でもあったArchibald Bruce(1777-1818)によってである。なお彼はジンカイト(紅亜鉛鉱、ZnO)の発見者でもある(*1)。彼の死後1824年にその功績を称えてFrançois Sulpice Beudantがその名をこの鉱物に付けた。 色は白色から灰色、淡黄色、淡青色、淡緑色、赤褐色など様々。大理石中のペリクレース(MgO)の変質により生成。ケイ酸塩と共に滑石(Talc, Mg3Si4O10(OH)2)を形成する。空気中では湿気と共に徐々にCO2を吸って塩基性炭酸マグネシウムに変化する。 また、化学物質としての水酸化マグネシウムは常温常圧で白色のゲル状固体だが、加圧下220℃の塩基性マグネシウム塩水溶液では凝集して六方晶の結晶になる。 酸化マグネシウムや炭酸マグネシウムと共に親水、吸水保持性を示すことから漢方の緩下剤として古くから利用されている。 本標本は2019年にミネラルマルシェで購入。淡黄色の塊状?タイプである。 *1:ジンカイト →鉱物標本 半人工赤色ジンカイト(蛍光性)(Zincite)
鉱物標本 2.5~3 ガラス光沢、蝋光沢、真珠光沢たじ