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鉱物標本 ペンタゴナイト(Pentagonite)
別名:ペンタゴン石 産地:Wagholi Quarries, Wagholi, Pune District, Maharashtra, India 小さな柱状の結晶が放射状に集まった剣山のような形状をとる、カルシウムとバナジウムを含む緑がかった青色のケイ酸塩鉱物。様々なゼオライト鉱物とともに玄武岩や凝灰岩の隙間に産出する。 1960年代にアメリカ、オレゴン州Malheur郡のOwyhee湖州立公園内のOwyheeダム付近にて淡青色の小さな柱状結晶が集まって放射状の晶癖を成す新種の鉱物であるカバンサイト(*1)が発見された。直後に同じ組成だがカバンサイトと結晶構造の異なる鉱物が発見され、双晶の断面が擬似5回対称性の星形になることから五芒星"pentagon"に因んでペンタゴナイトと命名され、1973年にカバンサイトと共に報告された。 その後は新たな発見報告が無かったものの、1980年代にインドのMaharashtra州Pune(*1)でカバンサイトの晶洞が発見されたのち、しばらくしてペンタゴナイトも発見されたことで希少であるものの鉱物標本として広く流通する様になった。 多形関係にあるカバンサイトとの違いについて2009年に東京理科大准教授の石田直哉らはペンタゴナイトの組成がCa(VO)(Si4O10)・(H2O)4であるのに対してカバンサイトの組成はCa(VO)(Si4O10)・(H2O)4-2x (H3O)x (OH)xがより正確であろうことを示している。このことから石田らはペンタゴナイトが300℃以上の超臨界状態の熱水中にて生成されるのに対し、カバンサイトは低温の熱水環境下で生成されることを示唆した。 本標本は2021年7月にミネラルザワールドin横浜で購入。拡大して観察すると小さな柱状結晶が確認できる。星形の双晶は確認できなかった。 *1:カバンサイトとPuneの地質 →鉱物標本 カバンサイト(Cavansite)
鉱物標本 3~4 ガラス光沢たじ
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鉱物標本 カバンサイト(Cavansite)
別名:カバンシ石 産地:India 小さな柱状の結晶が放射状に集まることでロゼット状の晶癖をとる、カルシウムとバナジウムを含む青~青緑色のケイ酸塩鉱物。様々なゼオライト鉱物とともに玄武岩や安山岩中に産出する。 1960年代にアメリカ、オレゴン州Malheur郡のOwyhee湖州立公園内にあるOwyheeダム付近で小さなカバンサイトが最初に発見され、1973年に報告された。翌年にインドでより大きな結晶が発見されたもののそれ以降は確認されず、幻の鉱物と言われてきた。しかし、1980年代にインドのMaharashtra州Punaで晶洞が発見されてからは希少であるものの鉱物標本として広く流通するようになった。 Puneはデカン・トラップと呼ばれる6700~6500万年前の白亜紀後期のマグマ噴出で形成された巨大な玄武岩台地により覆われるデカン高原に位置する。鉱物も多く産出し、グリーンアポフィライト(魚眼石)やオケナイト(オーケン石)が有名である。因みにPune産のカバンサイトは非常にその土地のバナジウム濃度が高いためか、オレゴン産に比べて青みが強いのが特徴であるらしい。 名前の由来は非常に安直で、カルシウム("ca"lcium)とバナジウム("van"adium)とシリカ("si"lica)から成る鉱物であることに因む。 同じ組成で多形関係にある鉱物としてペンタゴナイト(pentagonite)(*1)が存在するが、その違いについて2009年に東京理科大准教授の石田直哉らはペンタゴナイトの組成がCa(VO)(Si4O10)・(H2O)4であるのに対してカバンサイトの組成はCa(VO)(Si4O10)・(H2O)4-2x (H3O)x (OH)xがより正確であろうことを示している。このことから石田らはペンタゴナイトが300℃以上の超臨界状態の熱水中にて生成されるのに対し、カバンサイトは低温の熱水環境下で生成されることを示唆した。 本標本は2010年代に科博の売店で購入。10mm弱の金平糖のような形状をとっている。拡大して観察すると小さな柱状結晶も確認できる。産地はインドとしか記述がないがPune産と思われる。 *1:ペンタゴナイト →鉱物標本 ペンタゴナイト(Pentagonite)
鉱物標本 3~4 ガラス光沢たじ
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鉱物標本 セルサイト 繊維状(Cerussite)
別名:白鉛鉱、Lead Spar、White Lead Ore 産地:Santa Cruz Co., Arizona, U.S.A. ガレナ(方鉛鉱)の酸化等で鉛鉱床の酸化帯に生成する鉛の二次鉱物。 細かく砕かれたものは古くから白色顔料の鉛白として利用されてきた。ただしセルサイトが炭酸鉛(PbCO3)であるのに対して、本来の白色顔料である鉛白は人工的に作られた塩基性炭酸鉛(2PbCO3•Pb(OH)2))であり、天然にはハイドロセルサイトという鉱物で別に存在している。 鉛白の製造の歴史は古く、紀元前300年頃の古代ギリシャにおいて『植物学の祖』と呼ばれた哲学者、博物学者、植物学者であったエレソスのTheophrastosが記した『Περὶ λίθων(De lapidibus、石について)』にて既にその製法が記述されている。その内容は酢酸を入れた土器の上で10日程鉛を曝した後、表面に蓄積した鉛白を削り集め、再度鉛を酢酸に曝して完全に鉛が無くなるまで繰り返すといったものであるらしい。 セルサイトの名称については1565年にConrad Gessnerによりラテン語で『天然の鉛白』を意味する"cerussa nativa"という呼称で言及され、1832年にF. S. Beudantがcruiseという名称で記述した。ラテン語の鉛白"cerussa"に由来する現在のcerussiteという名称は1845年にオーストリアの鉱物学者であるWilhelm Karl Ritter von Haidingerが命名した。 その高い屈折率と分散度から、インクルージョンの少ない透明結晶ではスフェーンやスファレライト、ジルコンに匹敵するダイヤ光沢とファイアを有する希少な宝石となる。 標本の産地であるサンタクルス郡は1899年にピマ郡から分離して設立されて出来たアリゾナ州の郡である。郡名はピマ郡で発見された鉱物であるキノアイト(*1)の名前の由来にもなっている、17世紀後半にアリゾナ一帯で活動した宣教師、探検家のEusebio Francisco Kino神父が名付けたサンタクルス川に因む。サンタクルス郡には現在もKino神父に因んだ史跡が残されている。 2021年7月にミネラルザワールドin横浜にて購入。セルサイトは短波紫外光で黄色や白色の蛍光を確認できる場合もあるそうだが本標本では確認できなかった。 *1:キノアイト →鉱物標本 キノアイト(Kinoite)
鉱物標本 3~3.5 金剛光沢、ガラス光沢、樹脂光沢、真珠光沢、鈍光沢、土光沢たじ
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人工結晶 チェルミガイト(Tschermigite)
別名:アンモニウム明礬、Ammonium Alum 産地:日本(自作) アルムNa(*1)を作るのに使用した市販の漬物用アンモニウム明礬を再結晶法で結晶化させた。 クロム明礬の模造品として人工的に紫色に着色された結晶が売られていることがある。 天然には褐炭(亜炭)層、瀝青質頁岩、噴気口、石炭の隙間などで八面体結晶の他に霜柱様の柱状結晶として見つかり、その高い水溶性によって乾燥した条件下でもない限り長期的に存在できない。 1852年にボヘミアの北ボヘミア褐炭盆地にあるTschermig村(現在のチェコ共和国Chomutov地区Čermníky(ドイツ語名Tschermich))にて発見され、鉱物名もそこから付けられている。 1968年に村はNechraniceダムの底に沈んでしまい、現在では廃村となっている。 チェルミガイトは12水和物であるが無水物鉱物としてゴドヴィコバイト(Godovikovite)が存在し、石炭廃棄物を焼却した際などにも生成されることがある。 2021年作成。 *1:アルムNa →人工結晶 アルムNa(Alum-(Na))
人工結晶 鉱物標本 1.5~2たじ
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鉱物標本 レピドライト(Lepidolite)
別名:リチア雲母、lithionite、鱗雲母、紅雲母 産地:Iting, Minas Gerais, Brazil 主にピンクから淡い紫色、灰色をしている含リチウム雲母。その色はレピドライトそのものではなく、含有しているマンガンに由来している。そのため赤色系統の他にも黄色や白色などの色も存在する。 またレピドライトはポリリチオナイト(polylithionite, K(Li2Al)(Si4O10)(F,OH)2)とトリリチオナイト(trilithionite, K(Li1.5 Al1.5)(AlSi3O10)(F,OH)2)の中間組成の鉱物を示すもので、Li:Al比はポリリチオナイトの2:1からトリリチオナイトの1.5:1.5までの間を取る。 本標本は平板状の結晶であるが、大抵のレピドライトは上記の様に組成に幅があるため結晶に歪みが生じて魚鱗状の球形塊として産出する。 この形状から1792年にMartin Klaprothによってギリシャ語で鱗を意味する"lepidos"と石を意味する"lithos"からレピドライトと名付けられた。日本での鱗雲母という呼称もこれに因む。 レピドライトはスポンジュメン(リチア輝石)やペタライト(葉長石)(*1)など他のリチウム鉱物等とともにペグマタイト中に産出する。 また含リチウムペグマタイトから産出することから同じアルカリ金属で不適合元素であるルビジウムやセシウムを含有していることが多く(*2)、レピドライト中に0.3%~3.5%程のルビジウムを含むとされている。ルビジウム元素自体、1861年に学校の理科室で誰もが必ず目にしたことのあるブンゼンバーナーの発明者でもあるRobert Bunsenと、電気回路のキルヒホッフの法則でお馴染みのGustav Kirchhoffによってドイツのハイデルベルク大学にてレピドライトから発見された。 彼らはレピドライト150kg中からわずか0.24%含まれる酸化ルビジウム(Rb2O)をヘキサクロリド白金(IV)酸(H2[PtCl6]、白金を王水に溶かして得られる錯体)によって処理することで、ヘキサクロリド白金(IV)酸ルビジウムとして抽出し、さらに水素で還元、アルコールで分離すること塩化ルビジウムとして単離した。 この時彼らは1859年に自分達が発明した分光器を用いることで元素固有の発光スペクトルを確認し、ルビジウムが新元素であることを突き止めた。ルビジウムという名はそのスペクトル輝線が赤色を示すことからラテン語で暗赤色を意味する"rubidus"より命名された。 因みにBunsenとKirchhoffはルビジウム発見の前年である1860年に鉱泉からセシウム塩を同様に単離し、分光器の発光スペクトルによりセシウム元素を発見している。セシウムの名称もルビジウム同様にスペクトル輝線が青色であったことからラテン語で青色を意味する"caesius"より命名された。 リチウムの工業原料とされるとともに、その副産物としてルビジウムやセシウムの主要な工業原料としても利用される。またレピドライト自体も他の雲母グループ同様に絶縁体で耐熱性が有ることから電子部品として用いられることがある。 本標本は2020年にミネラルマルシェにて購入。 レピドライトは乳白色から淡黄色の蛍光を確認できる場合もあるそうだが本標本では確認できなかった。 *1:ペタライト →鉱物標本 ペタライト(Petalite) *2:ルビジウム・セシウムと不適合元素 →鉱物標本 ロンドナイト(Londonite)
鉱物標本 2.5~3.5 亜ガラス光沢、樹脂光沢、脂肪光沢、真珠光沢たじ
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鉱物標本 ロンドナイト(Londonite)
別名:ロンドン石 産地:Madagascar セシウム元素を含むイエローがかった淡いシャンパンカラーの鉱物。ローディザイトのセシウム優位変種。 元々はローディザイトという鉱物だと思われていたが、1999年にK元素がCs元素より多いローディザイトに比べ、Cs元素の量の方が判明。 2001年に米国オクラホマ州ノーマンのオクラホマ大学地質学および地球物理学教授であるDavid London(1953 –)に敬意を表して、William B. Simmons、F. Pezzotta、A.U. Falster、およびW.L. Webberらによって命名された。 セシウムは元素周期表にて同じ1族元素(アルカリ金属)のルビジウム、2族元素(アルカリ土類金属)のストロンチウムとバリウムなどと共に母岩を構成する主要元素よりもイオン半径が大きなLIL元素(large-ion lithophile elements)に分類される不適合元素である。 マグマが結晶化する過程で不適合元素であるセシウムはルビジウムと共に液相で濃縮されて最後に結晶化するが、ロンドナイトもこのような過程で形成されるLCT(リチウム-セシウム-タンタル)型花崗岩ペグマタイト中に産出する。 余談であるが、セシウムよりもイオン半径の小さなルビジウムは同じアルカリ金属のカリウム元素と置換する性質があり、化学組成式にルビジウムが含まれているものはその為であると思われる。 本標本はマダガスカル産のロンドナイトとして購入したが、元素分析がされていない限りはロンドナイト-ローディザイトの固溶体がより正しいと思われる。 2020年10月、石ころ販売会in浅草にて購入。短波UVライトで黄緑色の蛍光を確認。
鉱物標本 8 ガラス光沢たじ
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鉱物標本 アフガナイト(Afghanite)
別名:アフガン石 産地:Sar-e-Sang, Koksha Valley, Kuran wa Munjan District, Badakhshan, Afghanistan ラピスラズリで有名なアフガニスタンのSar-e-Sang(*1)にて1968年に発見された青色の鉱物。鉱物名も見た通りに国名に由来する。 一般的にソーダライトと共に炭酸性変成岩中に産する。 ラピスラズリ(ラズライト)の青色がアルミノケイ酸塩の篭(ソーダライトケージ)に閉じ込められた硫黄に由来しているのと同様、アフガナイトの青色も硫黄成分に由来している(*1)。そのため硫黄を含まないアフガナイトとして無色~白色のものも存在する。 またアフガナイトの特徴として完全な劈開を有しており、硬度が低めで脆いことから宝石としては職人泣かせの石に分類される。 もう一つの特徴として長波紫外線での蛍光性を有しており、明るいピンクからオレンジ色の蛍光を確認できる。 先日アフガニスタンがタリバンに再度支配されたことでミャンマー産のヒスイ(*2)が軍事政権の資金源になっている件同様、今後は再びアフガンで採掘されるラピスラズリやアフガナイトなどの鉱物・宝石資源がある種の紛争鉱物としてタリバンの資金源となるだろう。 本標本は2019年にミネラルマルシェで購入したもの。濃い目の青色の結晶に桃黄色の蛍光が確認できる。 *1:Sar-e-Sangとラピスラズリおよびラピスラズリの発色原理 →鉱物標本 ラピスラズリ(Lapis Lazuri) *2:ミャンマーのヒスイ →鉱物標本 ジェダイト(Jadeite)
鉱物標本 5.5~6 ガラス光沢たじ
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鉱物標本 パイロモルファイト(Pyromorphite)
別名:緑鉛鉱 産地:Daoping Mine, Gongcheng Co., Guilin, Guangxi, China 主に緑色から黄色がかった樽型の六角柱結晶として産出する鉛の鉱物。同じ鉛鉱物であるミメタイト(*1)、バナディナイト(*2)とは固溶体を形成し、Bakerによって完全な系列(同構造)にあることが合成により示された。 鉛鉱床中で方鉛鉱等の酸化によって二次鉱物として酸化帯に生成する。 元々は1748年にJohan GottschalkによってGrön BlyspatやMinera plumbi viridisと呼称され、1753年にMine de plumbi viridisの名が用いられた。1761年にドイツ人のChristian Friedrich Schultzeによる記述でGrünbleierzおよびBraunbleierzの名が用いられ、1791にはAbraham Gottlob Wernerもその名を用いた。 1813年に加熱溶融後に冷却すると結晶する様子からJohan Friedrich Ludwig Hausmannによってギリシャ語の火(pyr)と形成(morph)という言葉から現在主に用いられているPyromorphiteという名が命名された。ただHausmannはTraubenbleiの名称も同年に用いている。 それ以外にも1832年にAugust BreithauptがPolysphaerite、1836年にG. BarruelがNuissierite、1841年に再びAugust BreithauptがMiesite、1857年にCharles U. ShepardがCherokine、1863年に再度August BreithauptがPlumbeineとSexagulitを、1927年にRobert BrownがCollieiteの名を導入している。 本標本は2021年6月にミネラルマルシェにて購入。緑色の六角柱をベースに上に向かってラッパ状に広がっている。 *1:ミメタイト →鉱物標本 ミメタイト(Mimetite) *2:バナディナイト →鉱物標本 バナディナイト(Vanadinite)
鉱物標本 3.5~4 亜ガラス光沢、樹脂光沢、蝋光沢、脂肪光沢たじ
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鉱物標本 ラピスラズリ(Lapis Lazuli)
別名:瑠璃、群青 産地:Afghanistan ラズライト(青金石)を主成分(25~40%)としたソーダライト(方ソーダ石)・アウイン(藍方石)・ノゼアン(黝方石)などの方ソーダ石グループの青色鉱物の固溶体に、白色のカルサイト(方解石)や金色のパイライト(黄鉄鉱)が斑に散ることで、夜の星空の様な色彩を呈する半貴石である。日本では9月と12月の誕生石とされることがある。 ラピスラズリは接触変成作用にて結晶性石灰岩のスカルン中などに生成する鉱物だが、普通のスカルンと異なり硫黄、塩素などの特殊な元素を必要とする他、高温、低珪酸分といった特殊な条件が必要となるため、ラピスラズリの産地は世界的に少ない。 そも青色の由来自体がラズライトに含まれる不対電子を有するトリスルフィドアニオンラジカル(チオゾニド、[S3]・-)の電子遷移による光吸収によって生じるものだが、自然条件下ではチオゾニドは空気中の酸素と即座に反応・分解するため安定して存在できない。ラピスラズリは上記の特殊な地質条件により、このチオゾニドがケイ酸アルミの結晶格子の篭に閉じ込められていることで奇跡的に安定して存在しているのである。これがソーダライトの場合は塩素イオンが、アウインならば硫酸イオンがケイ酸アルミの篭の中に閉じ込められている。 この構造のため、ラピスラズリは耐薬性(酸)に弱く、塩酸などに浸けるとケイ酸アルミの篭が壊れて中のチオゾニドは硫化水素になってしまい、鮮やかな青色から無惨な灰色へと変わってしまう。 この青色は古くから人々を虜にし、人類に認知され利用された鉱物としては歴史上最古のものとも言われている。現在のアフガニスタンのバダフシャーン州にあるSar-i Sang鉱山で発見されたこの鉱物は世界各地に輸出され古代シュメール文明のウルのスタンダードや古代エジプトのツタンカーメンの黄金のマスクにも用いられた。 因みにラピスラズリのラピス"lapis"はラテン語の『石』を意味する言葉だが、ラズリはSar-i Sang鉱山の古名である"lazhward"が起源とされている。それがアラビア語に入って蒼穹を意味する "lazward"に転じ、最終的に『群青の空の石』ラピスラズリ (lapis lazuli) となった。 古代ギリシャにおいては青石"sappir"の語が示していたのはサファイアではなくラピスラズリの方であるという説があり、この説の通りならば旧約聖書でモーセがシナイ山にて、神より授かった契約の石版もラピスラズリではないかといわれている。 また日本では、ラピスラズリは瑠璃と呼ばれ、仏教の七宝の一つとしてシルクロードを通じて日本にもたらされた。 鉱物そのものだけでなく、その粉についても6~7世紀頃から最初の鉱物顔料としてアフガニスタンで利用され始め、16世紀初頭にヨーロッパへ輸入される様になってからは『地中海を越えてきた青』という意味のウルトラマリン(azzuro ultramarino)の名前で当時最も高価な顔料として用いられた。 余談であるがアズライトの顔料は逆に『地中海のこちら側の青』を意味する"azzuro citramarino"と呼ばれた(*1)。 2010年代に科博にて購入。 *1:アズライト →鉱物標本 アズライト(Azurite)
鉱物標本 5~5.5 ガラス光沢~亜ガラス光沢、樹脂光沢、脂肪光沢、鈍光沢たじ
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鉱物標本 コバルトカルサイト(Cobalt-bearing Calcite)
別名:Aphrodite Stone 産地:Bou Azzer Mine, Ouisselsate Caïdat, Amerzgane Cercle, Ouarzazate Province, Drâa-Tafilalet Region, Morocco コバルトを含有することでビビッドピンクまたはマゼンタピンクと言われる鮮やかなピンク色を呈する様になったカルサイト(方解石、CaCO3)の変種。カルサイトとスフェロコバルタイト(コバルト方解石、CoCO3)の固溶体とも定義出来る。 元々はイタリア、トスカーナ地方にあるCape Calamita鉱山のVallone stopeという場所で発見されたものがコバルトカルサイトとして言及されていた。 宝石名としてはアフロディーテなどとも呼ばれており、産地はコンゴ、モロッコ、スペインなどが有名である。 本標本はモロッコのBou Azzer産で、この地域は石炭紀の地層に由来するモロッコのコバルト鉱山地帯であり、コバルトカルサイト以外にもコバルトドロマイトやエリスライト(コバルト華)(*1)などのコバルト鉱物が多く産出している。 2021年3月、ミネラルマルシェにて購入。色はピンクというより紫色寄り。実はケースに収まりきらなくて母岩のカルサイト部分を若干削った。 *1:エリスライト →鉱物標本 エリスライト(Erythrite)
鉱物標本 3 ガラス光沢~亜ガラス光沢、樹脂光沢、蝋光沢、真珠光沢たじ
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鉱物標本 ミメタイト(Mimetite)
別名:ミメット鉱、黄鉛鉱 産地:Mexico 黄褐色の樽状の六角柱結晶として産出する鉛の二次鉱物。 1853年にフランスの物理・鉱物・地質学者であり、アングレサイト(硫酸鉛)やセルサイト(白鉛鉱)などの鉱物の命名者でもあるFrançois Sulpice Beudantによって、パイロモルファイト(緑鉛鉱)(*1)との類似性からギリシャ語で模倣を意味する"μιμητής(mimetes)"より命名された。 実際にパイロモルファイトやバナディナイト(褐鉛鉱)(*2)とは固溶体を形成し、1966年にはBakerによる合成実験によってこれらが完全に同じ構造(系列)にあることが示されている。 パイロモルファイトとの中間組成鉱物としては赤褐色~橙褐色のカンピライト(カンピ鉱、Pb5[(AsO4)/(PO4)]3Cl)が存在する。ただし、ミメタイトとパイロモルファイトそれぞれが同じ環境で共に産出することは無いらしい。 2020年、紀伊國屋書店、新宿本店1階の化石・鉱物標本の店にて購入。本標本はミメタイトの小さな結晶の集まりがブドウ状の形を成しており、ファンタジーの菌類の森の様で気に入っている。 *1:パイロモルファイト →鉱物標本 パイロモルファイト(Pyromorphite) *2:バナディナイト →鉱物標本 バナディナイト(Vanadinite)
鉱物標本 3.5~4 亜金剛光沢、樹脂光沢たじ
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鉱物標本 ダイオプテーズ(Dioptase)
別名:翠銅鉱 産地:Republic of the Congo 一見するとエメラルド(*1)かと勘違いしてしまいそうな深い翠(みどり)色と透明性、ガラス光沢を有する銅のケイ酸塩鉱物。 1785年に帝政ロシアのAltyn-Tyube銅山(現在のカザフスタン、Karaganda州)にてAchir Mehmedという人物が発見した。彼はそれがエメラルドであると誤認したままBogdanovなる人物に提供、やがてドイツ人の研究者のBenedict Franz Johann von Hermannの手に渡った。彼はその鉱物標本がエメラルドと異なることを突き止め、発見者の名前から1788年にアチライト(Aschrite)と命名した。ただし世間にその名が公知されたのは1802年になってからである。 その間にフランスの鉱物学者で聖職者でもあったRené Just Haüyもまた、この鉱物に興味を持ち、エメラルドと異なって劈開性があること、硬度もエメラルドより低いことから別鉱物であることを突き止めた。彼は1797年に『結晶を通して(="dia")へき開を視覚(="optima")する』という意味でダイオプテーズ(dioptase)と命名した。 Haüyは「結晶は小さなユニットの繰り返しでできている」という理論の提唱から「結晶学の父」と呼ばれている。また、ダイオプテーズを命名した同年には知人でフランス人化学者のLouis-Nicolas Vanquelinがシベリア産のクロコアイト(紅鉛鉱)から発見した新元素についても、酸化状態によってさまざまな色を呈することからギリシャ語で色を意味する"χρωμα"からクロムと命名している(*2)。 その知名度から、後からHaüyが命名したダイオプテーズの方が先にHermannの付けたアチライトよりも世間に周知されることとなった。 因みにラピスラズリを構成する鉱物の一つであるアウイナイト(藍方石)はHaüyの名前が由来となっている。 閑話休題。ダイオプテーズは他の銅鉱物同様に銅鉱床の酸化帯にて二次鉱物として産出するが、基本的に銅の二次鉱物は炭酸塩のマラカイト(孔雀石)(*3)や同じケイ酸塩のクリソコラ(珪孔雀石)が主に生成されるため、産出量はそこまで多くは無い。 前述の通り、硬度は高くないため宝飾品には向いていないが、そのエメラルドに似た見た目から鉱物標本としては人気が高い。 2021年6月、ミネラルマルシェにて購入。産地はコンゴ民主共和国ではなくコンゴ共和国(西側)の方。 *1:エメラルド →鉱物標本 エメラルド(Emerald) *2:クロコアイトとクロム →鉱物標本 クロコアイト(Crocoite) *3:マラカイト →鉱物標本 マラカイト(Malachite)
鉱物標本 5 亜金剛光沢、ガラス光沢、亜ガラス光沢たじ
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鉱物標本 キャストライト(Chiastolite)
別名:空晶石、Crusite、Lapis Crucifer、Macle、Maltesite、Cross-stone 産地:中国 双晶になった薄紅色のアンダルサイト(紅柱石)の隙間をグラファイトのインクルージョンが埋めることで、黒の十字模様が断面に現れる鉱物。分類としてはアンダルサイトの変種になる。 アンダルサイトには同じ化学組成ながら、結晶構造の異なる鉱物が存在し、高圧条件ではカイヤナイト(藍晶石)が、高温条件ではシリマナイト(珪線石)が生成される。 アンダルサイト(キャストライト)の場合は低圧(400MPa以下)および中温(約300℃~650℃)の条件で粘土質堆積物がマグマの貫入による接触変成作用を受けて出来た泥質紅柱石ホルンフェルス中に生成する。さらに双晶生成時に堆積物中の有機物を由来とするグラファイトをインクルージョンとして取り込むとキャストライトとなる。 この鉱物に関する最初の記述はスペインのフランシスコ会宣教師であり、古生物学者でもあったJosé Torrubiaが1754年に出版したスペインで最初の古生物学論文とされる"Aparato para la Historia Natural Española"(直訳すると『スペインの博物学のための装置』)に記されたもので、イラストとともに載せられていたそうである。 "Chiastolite" の名前はグラファイトのインクルージョンによる十字の模様に因んで、ギリシャ語で「直交する線」を意味する "chiastos" から命名された。 その十字模様からキリスト教では守護石とされたこともあり、ラピス・クルシファーやクロスストーン、マルテサイト(マルタ石)などの『十字架』に因んだ別名も付けられている。 本標本は2021年5月にミネラルマルシェで購入した研磨品。
鉱物標本 6.5~7.5 ガラス光沢~亜ガラス光沢、脂肪光沢たじ
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鉱物標本 ロードクロサイト(Rhodochrosite)
別名:菱マンガン鉱、Inca Rose、Rosa del Inca、Rosinca、Alma Rose 産地:広西チワン族自治区, 中国 産地によって菱形や犬牙状の結晶から層状、鍾乳石状、ブドウ状まで様々な形態と、ピンクや赤色、バラ色、シナモン色、褐色など、色彩のバリエーションも豊富なマンガンの炭酸塩鉱物。同じ炭酸塩鉱物であるカルサイト(CaCO3)やシデライト(FeCO3)とは固溶体を形成する。 1813年に現在のCavnic, Maramures, RomaniaにあるCavnic銀鉱山から産出したサンプルについてJohann Friedrich Ludwig Hausmannによってそのバラ色"rhodochros"から命名された。 堆積岩や変性岩の低温~中温鉱床の亀裂に地下の熱水脈から上昇してきた熱水溶液の沈降や、含マンガン鉱床の変性接触交代などで形成され、マンガンケイ酸塩のロードナイトなどと共に産出する。特に、熱水脈から生成したものは菱形の結晶として産出しやすい。 宝石としては断面の縞模様がバラの花びらの様に見えるインカローズ(inca rose)が特に有名である。こちらは13世紀頃のインカ帝国の銀・銅鉱山で採掘がされていたが、帝国の滅亡と共にその存在も忘れ去られてしまった。その後1920~1930年代に再発見されたことで1940年代頃からアメリカを中心に収集家の間で取引されるようになった。 日本でも銀山などでよく産出し、不純物を多量に含んだ褐色のものはその色合いから鰹節鉱などと呼ばれる。青森県、白神山地の既に閉山している尾太鉱山でかつて産出していたピンク色のブドウ状(腎臓状)標本は国産品としては特に良質とそれ、今日でも当時のものが取引されている。 中国の広西省のロードクロサイトは本標本のような薄桃色の菱形結晶の標本が多く、同じ炭酸塩のカルサイトの結晶と形状が非常に近い。 見た目の似た鉱物としてロードナイトやパイロクスマンガイト(*1)があるが、両者がケイ酸塩鉱物であるのに対してロードクロサイトは炭酸塩鉱物のため、希塩酸に浸けると前者はそのまま溶解していくのに対して後者は発泡しながら溶解する違いで見分けられる。 また、ロードクロサイトの方が酸化しやすく、表面に褐色の酸化皮膜ができて黒色化してしまいやすい。 2019年、ミネラルフェスタin東京にて瓶詰めで売られていたものを購入。 *1パイロクスマンガイト →鉱物標本 パイロクスマンガイト(Pyroxmangite)
鉱物標本 3.5~4 ガラス光沢、真珠光沢たじ
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人工鉱物 キュービックジルコニア(Cubic Zirconia)
別名:立方晶ジルコニア, CZ 産地:中国 高い透明性からダイアモンドの模造品として用いられる二酸化ジルコニウム(ZrO2、ジルコニア)の結晶。 本来、ジルコニアは常温常圧下では単斜晶系が安定しており、天然では1892年にバッデレイアイト(Baddeleyite)として存在していることが発見されている。この単斜晶系のジルコニアは1170℃で正方晶、2370℃で立方晶、2750℃で溶融することが知られており、常温でも立方晶で安定させる方法が研究され、1929年に希土類酸化物の酸化イットリウムや酸化カルシウム、酸化マグネシウムなどをジルコニアに添加して固溶体にすることで結晶格子中に酸素空孔が形成され、常温でも正方晶や立方晶で安定することが発見された。 その後、1973年に安定化立方晶ジルコニア(CZ)の合成技術をソビエトの科学アカデミーLebedev物理学研究所(FIAN)が完成させ、その3年後から研究所の名前を取ってFianitという宝石名で商業生産される様になった。 酸化イットリウムの添加量が2.5~5%で部分安定化ジルコニア(PSZ)になり、8~40%で単相立方晶になるため、通常は5~10%くらい添加されている。 CZの特徴として屈折率が2.15~2.18と、ダイヤモンドの2.42に非常に近い高屈折率を有し、分散はダイヤの0.044に対してCZが0.058~0.066で高い光分散性を有する。逆にダイヤモンドとの大きな違いとして比重がダイヤの1.65倍であることや、ダイヤが熱伝導性に対してCZは断熱性であることが挙げられる。 2021年5月、ミネラルマルシェで購入。
人工結晶 宝石 鉱物標本 8~8.5たじ