角川書店 角川文庫 病院坂の首縊りの家 ―金田一耕助最後の事件―(下)

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昭和五十三年十二月二十日 初版発行
発行所 株式会社角川書店

昭和50年(1975年)から昭和52年(1977年)にかけて雑誌「野性時代」に連載された横溝正史の長編小説「病院坂の首縊りの家」。
昭和28年に東京・高輪の旧法眼邸で起こった生首風鈴殺人事件から、20年という歳月が流れた。当時、事件の捜査にあたっていた等々力警部は警視庁を退職し、今は秘密探偵事務所を開設していた。そんな元警部の元をある日、金田一耕助が訪れ、二人は旧交を温める。いつしか二人の会話は不本意な結末に終わったあの生首風鈴殺人事件の話題となり、そこで金田一はあの事件に絡む新たな事件が起きる可能性を示唆する。それから数日後、金田一の予感は当たり、かつて旧法眼邸で世にも奇妙な婚礼写真を撮らされた本條直吉が何者かによって殺害された...
下巻では、昭和28年の生首風鈴殺人事件から20年が経ち、法眼家の人々、本條写真館の人々、ジャズ・コンボ“怒れる海賊たち(アングリー・パイレーツ)”など事件の関係者たちのその後が描かれ、彼らの子供世代など新たな登場人物も出てきて、再び陰惨な事件が起きます。その原因は20年前の事件、いや、それ以前からの複雑な血縁関係・人間関係の縺れにあり、そこを金田一が解き明かしてゆくのが下巻の見どころとなっていますが、ここへきて、あの冗長とも思えた上巻の複雑な人間模様の描写が大きな意味を持ってきます。先人たちの行いがのちの世代に暗い影を落とし、それが悲劇に繋がっているんですね。まさに因果応報です。そしてラスト、すべてを解決した金田一耕助はアメリカへと去ってゆく訳ですが、ここを直接的ではなく、金田一と所縁ある人たちの会話でそれを描写しているのが深い余韻を残します。好き嫌いがハッキリと分かれますが、横溝正史的に“人間の業”というものを描いたこの作品、私は大好きです。角川文庫には昭和53年(1978年)に収録されました。
画像は昭和53年(1978年)に角川書店より刊行された「角川文庫 病院坂の首縊りの家 ―金田一耕助最後の事件―(下)」です。顔が風鈴になっている男と白無垢姿の花嫁の不気味な婚礼写真。構図は上巻と同じですが、色はセピア色に変色し、風鈴の短冊は無くなり、鮮烈な赤だった血痕がどす黒く乾いているのが長い年月を物語っています。
表面に「金田一耕助最後の事件!」の惹句、裏面に東映映画『悪魔が来りて笛を吹く』の公開告知が入った宣伝帯付きです。

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