角川書店 角川文庫 誘蛾燈

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昭和五十三年二月二十五日 初版発行
発行所 株式会社角川書店

昭和12年(1937年)に雑誌「オール讀物」に掲載された横溝正史の短編小説「誘蛾燈」。
「ははははは、来た、来た、蛾が舞いこんできやがったぞ。誘蛾燈に誘われて、可哀そうな蛾が舞いこんできやがった」
蛾など舞うはずもない、霧の冷たい11月の夜。うらぶれた酒場でそんな独り言を呟いている酔った男に、青年はどこに誘蛾燈があるのかと尋ねた。酒場と道一つ隔てた、瀟洒なバンガロー風の建物の窓に灯る薔薇色の灯が誘蛾燈だと語る男は、更に青年にその建物に住む美しい女主人の、世にも恐ろしい話を始める...
男を惹き寄せては喰い尽くしてしまう美しい毒婦の犯罪を、男二人の会話劇の中で描いた、横溝正史戦前の作品ですね。その美しい毒婦は男二人の会話に出てくるだけで、物語の中では直接的には描かれていないのですが、それが却って毒婦の存在感を高めています。そしてラスト、まさに「木乃伊取りが木乃伊になる」結末が何とも不気味な余韻を残します。本書には表題作の他に「妖説皿屋敷」「面(マスク)」「身替わり花婿」「噴水のほとり」「舌」「三十の顔を持った男」「風見鶏の下で」「音頭流行」「ある戦死」の短編9編が併録されています。いずれも昭和11年(1936年)から昭和12年にかけて執筆された作品ですが、ミステリーだけではない、バラエティに富んだ横溝ワールドが堪能出来ます。角川文庫には昭和53年(1978年)に収録されました。
画像は昭和53年(1978年)に角川書店より刊行された「角川文庫 誘蛾燈」です。腰をくねらせ、誘うかのような眼つきでこちらを見ている裸婦。まさに「誘蛾燈」の、男を惹き寄せては喰い尽くしてしまう、美しい毒婦を描いた表紙画ですね。毒婦と、その餌食となった男たちの暗喩とでもいうべき蜘蛛の巣に引っ掛かった蛾を組み合わせた構図が見事。

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