角川書店 角川文庫 塙侯爵一家

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昭和五十三年二月二十五日 初版発行
昭和五十三年三月三十日 再版発行
発行所 株式会社角川書店

昭和7年(1932年)に雑誌「新青年」に連載された横溝正史の中編小説「塙侯爵一家」。
霧深いロンドンの街の片隅で、ある計画が極秘裏に進行していた。それは莫大な資産を持つ塙侯爵の七男で欧州留学中の安道を、自らの意のままに動く偽者とすり替える畔沢大佐の陰謀だった。こうして畔沢大佐の傀儡となった偽者の安道は帰国し、その役目を見事にこなして見せるが、そんな中、塙侯爵85回目の誕生日の祝宴の場で、侯爵が何者かによって殺害されるという事件が勃発した...
ミステリーというよりも謀略サスペンスといった趣がある、横溝正史戦前の作品ですね。この「塙侯爵一家」が発表された昭和7年といえば満州国の建国や五・一五事件などがあり、内外共にキナ臭くなってきた時期ですが、ある政治的な目的の為に侯爵後継者の偽者を担ごうとする畔沢大佐のキャラクターなどにそんな時勢が反映されていると思います。ただ、侯爵殺しの真犯人の正体や最後の大どんでん返しにしっかりとした本格ミステリーの手応えもあって、やはり一筋縄ではいかない、横溝正史のストーリーテリングの巧みさを実感致します。本書には表題作の他に中編「孔雀夫人」が併録されています。恩師の妻殺しの汚名を着せられた新婚の夫を救うべく奮闘する新妻の姿を描いた昭和12年(1937年)の作品ですが、“孔雀夫人”と呼ばれる女はのちのいくつかの横溝作品に登場する、執念深くて恐ろしい女の嚆矢ともいえそうです。角川文庫には昭和53年(1978年)に収録されました。
画像は昭和53年(1978年)に角川書店より刊行された「角川文庫 塙侯爵一家」です。若い男に何やら耳打ちしている怪しげな軍服姿の男。軍服姿の男が畔沢大佐にしては老け過ぎている気もしますが、謀略サスペンスの趣がある本作の世界観を上手く表現している表紙画だと思います。

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