角川書店 角川文庫 迷路の花嫁

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昭和五十一年十一月十日 初版発行
発行所 株式会社角川書店

昭和29年(1954年)に地方新聞「いはらぎ」に連載された横溝正史の長編小説「迷路の花嫁」。
駆け出しの作家・松原浩三が暗い夜の町を散策中、“いざり”の本堂千代吉と出会い、彼から近くの家で女の悲鳴があったことを聞かされる。そこに警邏中の警官が通りがかり、一緒に悲鳴があった家の中に踏み込むと、この家の主である女霊媒師が全裸のうえに無数の切り傷を付けられ、惨殺されていた。その死体のまわりでは、血で染まった5匹の猫がうごめいていた...
“金田一もの”でありながら、金田一耕助があまり活躍しないことで知られる異色の作品ですね。金田一が脇にまわっている作品というと他にも「八つ墓村」や「三つ首塔」などがありますが、本作での脇役ぶりはそれ以上。代わって大活躍を見せるのが、冒頭の女霊媒師殺しの発見者である松原浩三です。彼は事件の発見者でありながら、遺留品のレースの手袋を隠すなど初めは不審な行動を見せますが、徐々にその素性や行動の真意が明らかになるにつれてヒーロー的な人物へと変貌を遂げていきます。事件の背景には殺された女霊媒師の師匠格の悪徳霊媒師の存在があり、物語は殺人事件そっちのけで松原と、この悪徳霊媒師の対決で進行します。そんなこともあって本格ミステリーというよりも、どこか時代劇を思わせる“勧善懲悪もの”のような印象すらある小説ですが、最後に明かされる真犯人の正体はかなり意外なもので、実に横溝らしく締め括ってくれます。角川文庫には昭和51年(1976年)に収録されました。
画像は昭和51年(1976年)に角川書店より刊行された「角川文庫 迷路の花嫁」です。ジッとこちらを見つめている女と2匹の猫。殺人の嫌疑をかけられた老舗呉服店の令嬢・滝川恭子と殺人現場にいた猫を描いた表紙画ですね。タイトルの「迷路の花嫁」とはまさしく滝川恭子を指したものですが、実際にはすっかりヒロインになり損ねてしまった感がありますね...

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