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Redlichia mansuyi
中国の関山生物群 (Guanshan biota) のレドリキア・マンスィ (Redlichia mansuyi) の標本です。 関山生物群は時代的には、最古の澄江より新しく、バージェスよりは古い層が中心となっており、おおよそCambrian series2のstage4に当たります。澄江や他の中国のカンブリア系の産地と並び、軟体保存にも優れた、代表的なラガシュテッテであります。 いかにも、標準的レドリキアといった形態をしております。サイズは60mmと中々の大型。尾部を欠いていますが、本来は軸葉から後方に一本の長い棘が伸びる種です。同産地の似た種に、レドリキア・マイ (Redlichia mai) などと言う種もいるようですが、どこがどう違うのか私は理解していません。 数年前までは、比較的容易に入手可能だったように記憶しておりますが、現在はこのサイズのものはかなり少なくなっています。わずか数年でこの有様かと、隔世の感があります。当時の感覚でレア度は星2としていますが、今や星3あたりが妥当なのかもしれません。
Lower Cambrian Lower Cambrian (Series2, Stage4) Near Kunming, Yunnan, China Redlichia mansuyitrilobite.person (orm)
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Ductina ductifrons
ドイツの三葉虫、ダクティナ・ダクティフロンス (Ductina ductifrons) です。 市場では、このドイツ産しか見かけたことがありませんが、イギリス、ロシアのウラル地方やポーランドのHoly cross Mts. などでも産出するようです。また有名な類似種として、中国産のダクティナ・ヴェトナミカ (Ductina vietnamica) がおりますが、こちらは二回り程サイズが大きいです。 ファコプスの仲間ですが、眼は二次性に退化して無くなっており、深海環境等に適応していた種なのではないかと考えられています。地味な趣の、コレクターには人気のない三葉虫ですが、三葉虫の進化や生態を考える上では、面白い種であります。
Devonian - Oberbergisches Land, Wuppertal, Eskesberg, Germany Ductina ductifronstrilobite.person (orm)
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Calymene niagarensis with Trimerus delphinocephalus (cephalon) and Caryocrinites ornatus
有名産地ロチェスター頁岩 (Rochester Shale) から、カリメネ・ニアガレンシス(Calymene niagarensis) の標本です。 ニアガレンシスはかつては、アメリカン三葉虫の中でも、トップ5入りするほど市場に出回っていた種だそうです。しかし、私がコレクションを始めた10年近く前には既にその数はけして多くなく、今でも入手は可能ではありますが、明らかに一層著減しております。 特に、某高級化石ストアの最上級の標本ともなると、 (この種にしては) 驚くべき価格が付いています。標本に貴賎なしと言いたくも、かつてのありふれた種がこうなるとは、否が応でも時の流れを感じずにはいれません。 なんのかんのと書きましたが、黒く艶やかなボディが美しい標準的カリメネで、好きな種であります。 三葉虫は見ての通り、巨大なトリメルス・デルフィノケファルス (Trimerus delphinocephalus)の頭部と、サッカーボール然としたウミリンゴ (Caryocrinites ornatus) に挟まれており、いかにも肩身が狭そうです。特にウミリンゴの保存は素晴らしく、表面の幾何学模様がよく残っています。 あとは実は、母岩の裏にはスピリファーが何匹が付いています (写真なし) 。 主役のわからない、面白い共産プレートです。
Middle silurian Rochester Middleport, NewYork, USA Calymene niagarensistrilobite.person (orm)
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Hydrocephalus carens (?) (juvenile specimen)
チェコのJince累層産のパラドキシデスの仲間です。 27mmと小さく、第3胸節の棘が長く伸びることから、幼体〜若い個体であると思われます。自由頬が失われがちなチェコのパラドキシデスですが、若年個体の場合はそう珍しいことではないものの、両頬ともしっかりと残存しております。標本周りは削ってあり、採取が比較的古い本産地標本に特徴的なプレップである気がします。 問題の種名ですが、ヒドロケファルス・カレンス (Hydrocephalus carens) として、裏面にラベルされております。カレンスは近縁種のP. gracilis (パラドキシデス・グラキリス) やH. minor (ヒドロケファルス・ミノル) などと比較しても、産出量が非常に少ない種であります。稀に、オレンジがかった個体が市場に登場しますが、両頬なしかつdisarticulated状態の標本が大半で、全貌が把握しづらい種であります。 ただ、ラベルがなければP. gracilisの若い個体と判断してしまいそうな見た目です。カレンスの幼体を見る機会はそうなく、種同定については疑問符がつき 、差し当たり (?) としておきます。
Middle Cambrian (Wuliuan? ) Jince Jince, N Pribam, Czech republik Hydrocephalus carens (?)trilobite.person (orm)
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Stenopareia oviformis
スウェーデンのオルドビス紀三葉虫の、ステノパレイア・オヴィフォルミス (Stenopareia oviformis) です。ボダ石灰岩累層 (Boda limestone fm) 産です。 同地域では90種ほどの三葉虫が見つかるようですが、特にEobronteus、Holotrachelus、Bumastus、Isocolusなどが、まれに市場で確認出来ます。これらが局所的な場所に、大量かつ佃煮状に産出すると言う、特徴的な産状があります。上に挙げた中ならば、Isocolus以外は完全体は皆無なのですが、サイズが割合大きく (※ Isocolusは極小) 、質感や色合いも素晴らしい為、部分化石ながらとても見栄えがします。 本標本も頭部と尾板のみで、しかも分離しておりますが、特に頭部が質感良く残っています。ぷっくりと膨れた頭部とちょこんと飛び出た小さな眼は中々の見もので、イラエヌス系特有のとぼけた表情が実にコミカルでもあります。
Upper Ordovician Boda Limestone North Ingels, Dalarna, Sweden Stenopareia oviformistrilobite.person (orm)
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Barrandia homfrayi
イギリスの三葉虫、バランディア・ホムフライ (Barrandia homfrayi) です。 属名は、かの有名な大家ヨアヒム・バランデ (Joachim Barrande) 先生からとったものと思われます。一方homfrayiは、ソルターなどとも交友のあった、19世紀初頭の化石蒐集家のデービット・ホムフレイ (David homfray) 氏由来と思われます (その確証は見つかりませんでしたが、おそらく) 。 人名 (属名)・人名(種小名)という、ネーミングからして面白い種です。余談ですが、Paradoxides davidisの種小名は、後者のfirst name由来であるようです。 ご覧の通りfree cheekが欠損しています。本当は楕円形のフォルムを持つ種なので、頬の有る無しで見た目がガラッと変わります。ただし本種のみならず、このような頭鞍が大きな三葉虫では、頬部が欠損してこそ異形感が醸し出される気がします。頬があるにこした事はありませんが、これはこれで私には面白く思えます。 イギリスらしい、風化した色合いの母岩・標本もいい感じです。
Lower Ordovician Hope shales Llanerch dingle, shropshire, UK Barrandia homfrayitrilobite.person (orm)
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Austerops salamander (?)
こちらは、確定的ではないですがモロッコのアウステロプス・サラマンデル (Austerops salamander) の可能性が高いのではないかと思われる標本です。 一時期、モロッコのファコプス類 (モロコプス、ボエコプス、ファコプス、アドリシオプス属など) の鑑別に凝っており、その一部の種の分類を、記載論文を参考にしつつ、私のブログなどで特集しておりました。その際、特に、アウステロプスを取り上げきれていないのが心残りでした。 この標本は実は2年ほど前に入手したのですが、何の種かよくわからずそのうち調べようと思い、どこにも公開せず死蔵しておりました。今回ふと思い立ちもう一度真面目に調べたところ、最初に抱いた印象通り、やはりアウステロプスの一種かなと思いましたので、過去の宿題の部分的な解消がてら、公開することに決めました。 一応はハミープレップとのことで、20mm足らずと小さいながらも、細部の構造がよく確認できます。写真ではよくわからないと思いますので、以下、簡単に特徴を描写しておきます。 頭鞍には細かい顆粒が無数にある一方で、頬部や胸尾部表面はツルッとしております。頭鞍の膨らみは弱め。頬部は狭く後方に角はなく丸みを帯びています。複眼の縦列の数は最大7個前後で、vertical rowで見れば、17-18列あるように見えます。全体的には際立った特徴はないのですが、ファコプス類としては全体的に平坦でかさが低い印象です。 これらの特徴を過不足なく満たすものとしては、アウステロプス・サラマンデルが第一の候補にあがります。各種モロコプス (Morocops) の類や、アドリシオプス・ウェウギ (Adrisiops weugi) 、ファコプス・アラウ (Phacops araw) などはいずれも、特徴が違い過ぎてハナから論外として、他に、パッと見でありうる種としては、 ・Boeckops stelcki (ボエコプス・ステルキ) ・Reedops pembertoni (リードプス・ペムベルトニ) ・Austerops speculator punctatus (アウステロプス・スペクラトル・プンクタトゥス) などが挙げられます。 ただボエコプス・ステルキとしては、側葉と中軸間の結節状構造がない事、頬部の細顆粒がないことから除外的で、リードプス・ペムベルトニとしては、頬部が狭い事、頬部の後部の角張りがない事から可能性は低いのでないかと思います。 アウステロプス・スペクラトル・プンクタトゥスは、流石に同属だけあり見分けづらいのです。ただ、プンクタトゥスの場合、頭鞍の顆粒が疎で、その間に無数のpitsがあるという特徴があります。本種ではそういった要素がなく、むしろ細かな顆粒が頭鞍の全体を覆っています。また複眼の構造も、プンクタゥスとは合わないように見えます。 少々長文になりましたが、そんなわけでこちらは暫定、アウステロプス・サラマンデルと考えております。最も小さいので、若年個体の可能性があり、成熟体と特徴が異なる場合、そこがやや怪しい点ではあります。
Middle devonian - Oudressa area, Morocco Austerops salamander (?)trilobite.person (orm)
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Ectillaenus perovalis
英国のシュロップシャーで産出のエクティラエヌス・ペロヴァリス (Ectillaenus perovalis) です。 エクティラエヌスはモロッコ含め各国で産出しますが、おとなしい見た目の為、あまりクローズアップされることがないように思います。この標本も、地味な英国産の中でも、輪をかけて地味な部類ではあります。 この標本では、泥質の頁岩系の母岩に、うまく黒系の鉱物が集積したのか、更に黒々とした本体が存在感を放っています。表面には艶もあり、地味ながらも、なかなかに美しい標本だなと思っています。 蒐集のだいぶ初期に入手した標本ですが、割とお気に入りでして、今後も放出の予定はなさそうな標本でもあります。
Middle Ordovician (Llanvirn (Darriwilian) series) Hope shales Minsterley, Shropshire, England Ectillaenus perovalistrilobite.person (orm)
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Damesella paronai
中国産三葉虫の独特さを体現するかのような種、ダメセラ・パロナイ (Damesella paronai) です。 大きく見れば、一応リカスの仲間 (Lichida) ではあるものの、ダメセラ上科 (Dameselloidea) に分類され、その見た目は、俗に言うリカスとは程遠い存在です。むしろ、同じ累層 (Kushan fm) で産出する蝙蝠石 (Neodrepanura premesnili, Blackwelderia sp. ) のうち、特に後者が、本種に似通っているように思えます (後者は、完全体が未だ見つかっていないので、あくまで尾部のみの比較ですが)。実際、分類上も、蝙蝠石は、同じダメセラ上科/科に属す近縁種であります。 ダメセラはフォルムが魅力的で、サイズも大きく見栄えが良く、蒐集初期からかなり気になる存在でした。しかし、当時は滅多に出回らなかった上、僅かに見かける標本は、非常にクリーニングの質が悪くその割にやたら高価という事で、敬遠しておりました。近年欧米の工房でクリーニングが為され、全体像がようやくはっきりすると同時に、それがきっかけになってか、多数の標本が市場に出回る様になりました。ただ、中国三葉虫の常として、遅かれ早かれ市場から姿を消すのではないかと予想しています。
Middle Cambrian (Wuliuan? ) Kushan Near Linyi, Shandong, China Damesella paronaitrilobite.person (orm)
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Nileus platys
ニレウスといえばロシア産の人気種、ニレウス・アルマジロ (Nileus armadillo) が有名ですが、近隣のスウェーデンやノルウェーでも似た種を産出します。 特にスウェーデンの南部に点在する産地には、オルドビス紀中期 (ダーリィニアン) の地層が広がっており、ロシア産の相当する三葉虫の類似種が少量ながら出ます。本種はそのうちの一つ、ニレウス・プラティス (Nileus platys) であります。この地域の三葉虫は、ロシア産ほどには保存が良くなく、この個体のように外殻が剥がれた標本が大多数です。 このプラティスのフォルムはアルジマジロそのままで、茶〜褐色に色付けしたような見た目をしています。ダンゴムシのように、コロコロと丸まっていて可愛らしい標本です。手持ちだった同スウェーデン産のイラエヌス・サルシはなんとなく手放してしまいましたが、本種は愛着があり、手元に残しました。
Middle Ordovician (Darriwilian (Llanvirn) ) - Ljungsbro, Oestergoetland, Sweden Nileus platystrilobite.person (orm)
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Trinucleus fimbriatus
イギリス、ウェールズ地方のランドリンドッド・ウェルズ産のトリヌスレウス・フィンブリアトゥス (Trinucleus fimbriatus) の標本です。 属名からも分かる通り、トリヌクレウス超科 (Trinucleoidea) に属しております。この仲間は、長い頬棘、丸い外形、頭部辺縁の多数の小孔を特徴とし、特にモロッコのオンニア (Onnia superba) やデクリボリサス (Declivolithus titan) などが特に有名です。 イギリスには非常に多くのこの仲間がおりますが、頬棘がなく外殻の状態が悪い標本が大多数を占める事から、一見地味に見えてしまい、積極的に集めるコレクターは多くはありません。しかし、長い頬棘の残る保存の良い標本は、美しく、かつ面白くもある外見をしており、決して軽視できる種類ではありません。 本種もほとんどの個体で頬棘などは失われておりますが、この標本は頭胸部などが非常に立体的で、辺縁の小孔や頬棘の先までもがしっかり残っており、実に見応えがあります。
Lower Ordovician Mudstones Llandrindod Wells, Powys, Wales, UK Trinucleus fimbriatustrilobite.person (orm)
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Gerastos cuvieri
ゲラストスという種は、小さくて派手でもなく、比較的安価に入手できるので、モロッコ産三葉虫の中では軽視されがちです。しかし実際は、種類も多様で案外奥が深く、何より可愛らしい種であります。 こちらはモロッコ産ではなく、ドイツのGees産のゲラストス・キュヴィエリ (Gerastos cuvieri) です。見た目はモロッコの類似種に似ておりますが、やはり一回り小さい印象があります。 目に艶がありキラキラしているので、まるで生きている小さな昆虫のようです。母岩の端でくるりと丸まっており、実に愛らしい標本です。
Devonian Ahrdorf Gees, Geroltstein, Eifel, Germany Gerastos cuvieritrilobite.person (orm)
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Wujiajiania lyndasmithae
ウジアジアニア・リンダスミサエ (Wujiajiania lyndasmithae)。マッケイグループの、名前がややこしくて覚えづらい三葉虫です。 潰れた草履のような見た目で、名前のみならず、形態も少々変わっているようにも見えます。最もこの標本は本当に潰れており、実際はもう少し厚みのある種類ではあるようです。何にせよ、細長く胸節の数が多い事が特徴です。 集団で産出することもしばしばであり、この標本でも、大きな個体と小さな個体がセットで載っています。 ウジアジアニア・スセルランディ (Wujiajiania sutherlandi) という、同属異種もマッケイより産出するのですが、調査不足で、両者の違いはまだ把握しておりません。本種の同定は提供者氏に依ります。
Upper Cambrian (Furongian, Jiangshanian) McKay Group Cranbrook, British Columbia, Canada Wujiajiania lyndasmithaetrilobite.person (orm)
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Modocia whiteleyi
アメリカで多産するModocia属の中でも、こちらはウィークス (Weeks) 累層産のモドシア・ウィテレィ (Modocia whiteleyi) です。 この地の種は全体的に希産ですが、このウィテレィは比較的多産する方かと思います。独創的な形状の多いウィークス産の中では、セダリア・ミノル (Cedaria minor) と並び、あまりこれといった特徴を指摘できず、おとなしめの三葉虫です。本種と比べれば、有名種のモドシア・ティピカリス (Modocia typicalis) などは、むしろずっと派手に見えます。 黄色/赤色の母岩が背景であるからこそ種名が判断できるものの、もしも黒色頁岩がバックであったなどとすれば、本種を同定することは極めて困難になるでしょう。 他の同種標本を見ると、どうも微妙に見た目が違う種が混在しているようにも見えるのですが、上記の判別の難しさもあり、それが成長段階の差なのか、種としての差なのか、私には判断できません。 意外に悩ましい種です。
Middle Cambrian (Series3, Guzhangian) Weeks House range, Millard county, Utah, USA Modocia whiteleyitrilobite.person (orm)
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Olenellus fowleri
オレネルス・フォウレリ (Olenellus fowleri) の標本です。 こちらは米国の個人コレクターの方の、オールドコレクションを譲り受けたものです。 オレネルスの仲間はどれも似通っていて、区別が非常に難しいのですが、本種フォウレリは、一目にわかりやすい姿形をしております。幅広い頭部に、頭部の中心に偏った三日月状の眼、そして胸・尾部の長めの棘など、まるでネヴァディア・ウィークシ (Nevadia weeksi) を彷彿とさせる形状をしております。ただそれも、本種では第3胸節の側葉から伸びる長い棘があることで、ウィークシとは容易に鑑別可能です。 オレネルス類は、胸尾部が異常に保存されずらく頭部ばかりの標本が多いのですが、こちらは本種ではほぼ欠損している串状の尾部まで綺麗に残っています。 何より75mmというサイズは本種としては規格外で、10mm程度のオレネルスと比較すると (写真5番目) その巨体感がよくわかるかと思います。存在感のあるプレートです。
Lower Cambrian (Series2, Stage4) Pioche Nevada, USA Olenellus fowleritrilobite.person (orm)