この一台から始まる物語(ストーリー)
初版 2018/01/06 13:14
改訂 2018/08/23 23:38
今は世界中のものがネットで簡単に手に入る時代・・・これを入手した当時はイタリア製のミニカーを入手しようとするとちょっと敷居の高そうなミニカーショップやイタリア雑貨店などでしか見かけなかった時代の話。
これを譲り受けた知人は新婚旅行でイタリアに行き、現地の玩具屋で購入した記念の品だった。彼はこのミニカーやコーヒーのおまけのミニカーを職場の机の上に置き、机の上は彼にとっての「小さなガレージ」だった・・・。
その彼のこのフェラーリのミニカーや缶コーヒーを買うたびに増え続ける「小さなガレージ」の話は同期とはいえ挨拶程度の会話しか交わさない私も知る話であり、当時”ミニカーに興味のなかった”私には社内の噂のひとつに過ぎなかった。
そんな彼がある日、私のところに「お金を貸してもらえないか?」と尋ねてきた時は驚きを隠せなかった。少し前から社内で彼があちらこちらでお金を無心していることは聞いていたし、幾らかのお金を用立てたという先輩や同期も少なからずいたことも知っていた。
彼の結婚を祝う飲み会に同期ということもあり出席したがその時の凛々しかった彼の面影はなく、目の前でお金の無心をする彼は髪の毛はボサボサ、艶のない肌。よれよれのYシャツで明らかに私生活が乱れていることが見て取れた。
お金の無心の理由を尋ねると彼は「言えない・」の一点張りだった・・・。
ただ・・・。何か困っていることだけは確かだった。
私は思案した挙句、ひとつの結論を導き出した。そして、彼にこう切り出した・・・。
「お金を貸すと返さないといけなくなるから、○○さんの私物を1つ売ってくれないか?」
彼は少し驚いた様子だったが少しでもお金を用立てたっかったのだろう。それに同意し私を自分の机のある部屋に連れて行こうとした。
私は彼に少し待つように言い、書き上げたばかりの「出張旅費の仮払い申請書」を経理に持っていって仮払金の5万円が入った封筒を受け取り封筒を背広の内ポケットに忍ばせた。
彼の机に招かれた私はその机上の「小さなガレージ」を一瞥するとその中からコーヒーのオマケのシビックのミニカーを手に取ると「これ・・・買うわ。」と言ってミニカーをポケットの中に入れて、内ポケットから先ほどの仮払金の入った封筒を彼に渡した。
彼は私の手にしたミニカーを見て落胆し大きく肩を落とした。私は彼に封筒を握らせると「アポあるから・・・」と言ってその場を離れた。
その日は事故渋滞もあって帰社が予定よりも大きく遅れ、帰社をしたときには何人かの同僚と直属の上司が残っているばかりだった。
私が車のカギや朝に彼の机から持ち出したミニカーを自分の机の引き出しにしまっていると机の上に見なされないフェラーリのミニカーがある事に気がついた。
「これ・・・。」
私がミニカーを指差して、幾つか向こうに座る上司に言うと上司が答えてくれた。
「さっき、システムの○○さんが来て置いていったよ。」
上司は記入している書類から目も離さずにそう言った。
赤いボディは減灯された蛍光灯の光で鈍く光っていた。
翌日、私は彼に思い入れのあるだろうミニカーを返すべく彼のいるはずの部屋を訪ねたが彼はその日は有給をとって休んでいた。次の日もその次の日も・・・。
社内では数日間休んでいる彼のことをヒソヒソするようになり、私が彼に封筒を渡すのを見た女子社員からあらぬ噂を立てられることになった・・・。
私が彼からミニカーを買った3日後・・・訃報が届いた。
届いたというよりも同期がお香典を取りに来てはじめて知った。彼のお母さんが亡くなったのだ・・・。
私はその日仕事が終ると彼のお母さんの通夜に参列するために上司と同期数人と車に乗った。マイカーを出した自分がハンドルを握り、助手席に上司を乗せて国道を葬儀の会場に向かう道すがら上司は彼の窮状を語り出した。
彼が社内でお金を無心するようになったのは余命いくばくもない母親の癌の痛みを和らげるために保険の利かない治療薬を東京の有名な病院で投与してもらっていたこと。上司を含む幹部はそのことを知ってはいたが何もしてやれなかったこと。
彼はその為に自宅である生家をも銀行に差し出して治療費の担保としていたことなどなど・・・。
そして、上司は数日前の彼と私のやり取りについても夕方やってきた彼に聞いたらしく、お金を返そうとした彼に上司は「頭で考えて行動するヤツじゃないからほっとけ。」と一蹴したところ帰社前にミニカーを持ってきたことを教えてくれた。
(酷い・・・上司、そんな風に私のことを見てたの??)
焼香のときに喪主の席に座る彼に頭を下げると彼は私の顔をみてそれまでの弔問客以上に深々と頭を下げた。私は来る道すがら上司や同僚から聞いた話でいいことをしたのか悪いことをしたのかわからなくなっていた・・・あの時は何も考えず行動しただけだった・・・上司の私評はまちがってはいなかったのかもしれない。
その葬儀のすぐ後に彼とは顔を合わせることなく彼は退社して、程なく私も別の支社にに転勤することとなった。今のように携帯電話やSNSなんかない時代だ。彼とはもう二度と連絡が取れることはないだろう。願わくばMUUSEOでかつて自分の机の上の「小さなガレージ」に駐車していた車が今も現役でいることを知ってもらえれば幸いだ・・・。
この話がどこまで本当でどこまでが嘘かは読んだ皆様のお心次第ということで・・・。
ただ、理由はともあれ、このフェラーリが私、久萬鉢のミニカーコレクションの最初の一台であることだけは間違いのない事実であります。
2018年1月 MUUSEO開館一周年にことよせて
#コレクションログ
塚原ユズル
2018/01/06コーヒーのオマケを選ぶあたりがカッコイイですね〜、オトコですね〜
っていうか、この場合、コレクションの最初の一台はワンダのオマケのシビックではないのですか?(笑)
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QuuMa-8
2018/01/06ばれた~^^;
そうです^^;シビックが最初の一台ですよねwww
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realminiature
2018/01/06しんみりとしつつも心が暖かくなりました。イイ話しです。
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QuuMa-8
2018/01/06ありがとうございますm(_ _)m
まあ、思い出補正もあるでしょうけど・・・www
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shin00001
2018/01/06凄く良い話じゃないですかw
ちょっと感動してしまいました(笑)
その時の彼とも、ひょっとしたらミューゼオで再会するかもしれないですしねw
こうゆうものは、ほんの偶然や、ちょっとした機会がもたらしてくれるものですから
その時が来るまで大事にコレクションをしていってくださいね~♪
あと、ミューゼオ1周年おめでとうございました♪
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QuuMa-8
2018/01/06ありがとうございます。m(_ _)m
丁度、本日60,000hitも重なりましたが、アカウント取ったのは1/4ということにミュージオ上はなっていますね^^;
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negrita
2018/01/06モノに宿るもの…良い想いもあれば、苦いものもあれど、モノが無ければ失われていたであろう想いが甦る…(涙)
強い想いを感じました!(フェラーリ選ばないんかいっ!と心のなかでツっこんだことは白状しときますw)
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QuuMa-8
2018/01/06価値を知らない純粋な青年でしたから~^^;
本当にその時は興味なかったんです・・・ミニカーにwww
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taipon
2018/01/06いいお話ありがとうございます😄
オマケも今は無くなりましたが、一時期あった時はクオリティが高くビックリしました。
1周年おめでとうございます🎉
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QuuMa-8
2018/01/061/43がまだまだ高価だった頃、あまけと1/43に凝った頃がありまして・・・昔はおまけだけのオークションやってましたが苦労の割には儲かんないんでやめましたwww
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TWIN−MILL
2018/01/06読ませて頂きました。カッコいい。。。👍。
情景描写が良いですね。
ミューゼオのアイテムは単に自慢のアイテムだけでなく、思い出の詰まったアイテムも同列に展示出来る所が改めて良いなぁと思いました。
また、こう言う物語がアイテムに厚みを出させます☺️。
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QuuMa-8
2018/01/06コレクションの対象物って無機物やと思うんですわ。大抵。(昆虫とか爬虫類のコレクターも居られますが・・・)無機物に命を吹き込んでやるようなコレクションになるように精進します.
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T tuyosi
2018/01/08コレクション達は沢山の想い出が詰まっているのですね・・・
魂宿ってますね、再確認しましたよ(笑)
ステキなエピソードありがとうございました!
一周年おめでとうございます🎉
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QuuMa-8
2018/01/08ありがとうございます。
1つのものに1つのストーリー、魂のあるコレクションになるように精進いたします。
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ハムトシ
2018/01/08クマさんらしからぬ(失礼!)感動ストーリー、最後まで一気に読ませていただきました^^; モノにまつわるエピソードって本当に良いですね。一周年おめでとうございます🎊
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QuuMa-8
2018/01/08ありがとうございます。くまはちは「嘘っぱち くまちゃん」という仲間内のあだ名が由来ですのでwww
きっとらしからぬことを書きます。たまにwww
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Shirubu
2018/01/08感動しました。
シビック 一番価値がなさそうな物を選びましたね。同じ物を持っているので出来は知っています。優しいですね。
読みやすくて情景が浮かぶ文章ですね。参考にします。
話は変わりますが、
私は、久萬 鉢さんの1日遅れで、ミューゼオ デビューしています。
今メールを検索して知りました。
ほぼ同期の後輩ですが、お金をお願いする必要はないのでご安心ください。😊
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QuuMa-8
2018/01/08ありがとうございます。いやいや、大先輩じゃないですかw
来年の今頃もまったりとMUUSEOで遊んでいられるといいのですが・・・
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Shirubu
2018/01/09久萬 鉢先輩の1周年に、便乗しましたが、ありがとうございます
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QuuMa-8
2018/01/09 - 編集済みどんどん便乗してください^^
MUUSEOから新しい話が始まりますように・・・そんな想いを込めたタイトルですから(後だしスイマセン^^;)
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MOYO.
2018/07/31思い出のお話読まさせて頂きました。
彼からの餞別のフェラーリ250GT LWBのロッソカラーは、御二人の内なる友情の赤色として、何時までも静かに燃え続けて行く事でしょう。
悲しくも暖かいお話、感慨深く思いました。
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QuuMa-8
2018/07/31ありがとうございます。
私は私の力で大地に立っておりますので彼にもそうであってほしいものです(なんてねw)
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charlie0215
2018/08/23遅ればせながら拝見させて頂きました。
一つの物でも、当事者には其れなりのストーリーがありますよね。
ほのぼのとしてて、心温まるストーリーで、
自分も入社して間も無い頃、机に自分の会社がスポンサーをしているミニカーを置いてたら、上司に片付けられてました。リラクゼーションに理解のある会社で羨ましいです。
有難うございます。
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QuuMa-8
2018/08/23営業の机の上にイントラのサーバー置くような会社ですから・・・www
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charlie0215
2018/08/23アララ〜。
誰でも触れるではないですかぁ〜⁉︎
ある意味自由で羨ましいです。
有難うございます。
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