三葉虫の旧分類

初版 2023/03/18 19:41

改訂 2023/03/19 12:35

いまから200年前に行われたブロンニャールによる三葉虫の最初の分類の試み。
これは現在の目からみるとずいぶん変なものだが、草創期特有の魅力がある。
これをもとにして今後の購入の指針を探ってみると──

ブロンニャールは三葉虫を5つのグループに分けている。

その1、カリメネ属

これには4つの種類が分類されている。

まずはいわずと知れた Calymene blumenbachii だ。
これはこんにち入手不可なのでパスしよう。
多産するオハイオのフレキシカリメネで代用する。

次は Neseuretus tristani
これはすでに手に入れてミューゼオにもアップした。

ここまではカリメネで合っているが、あとはだんだん怪しくなる。

次にくるのは Balizoma variolaris
これも入手不可なのでパス。
代用は、なにか英国のエンクリヌルスで茶を濁すしかない。

最後は Eodalmanitina macrophthalma
これは質のよいフランス産がけっこう出ているようだ。
そのなかから好みのものを選べばよい。

その2、アサフス属

これには5つの種類が分類されている。

まず Asaphus expansus
これはだいぶ前にロシア産のものを入手済。

次は Ogygiocarella debuchii
これもだいぶ前に英国産のものを入手済。

ここまではアサフスだが、次にくるのは、なぜか Odontochile hausmanni
これはチェコ産のものがないわけではないけれども、完全体にこだわるならモロッコ産につくしかない。

次は Dalmanites caudatus
英国産のダルマニテスだが、これも入手は困難なので、この前アップした米国産のもので代用する。

最後は Eobronteus laticauda
スウェーデンのスクテルムで完全体は入手不可。
前にも書いたようにスクテルムの完全体はモロッコ産以外はまず手に入らない。

その3、オギュギア属

Ogygia という属名はこんにち認められていない。
これから派生した Ogyginus, Ogygites, Ogygiocaris, Ogygiocarella, Pseudogygites などに振り分けられているようだが、とりあえずここでは Ogygia の属名を使うことにする。

これに属するのは2つだけ。

まず Ogygia guettardi
これは Nobiliasaphus nobilis のシノニムだとする説がある。
しかしブロンニャールの記載を読むと、どうも頭部と尾部の先端が尖っているらしく、じっさい図版をみてもそうなっている。
おそらくそういう意味では Megistaspis に近いのではないかと思う。
いずれにしてもこんにちこれがどの種に当るか不明なので、手に入れようがない。

次は Ogygia desmarestii
これは前記のものと比べて丸っこく、かつ巨大化した種らしい。
これも上と同様の理由で入手不可。

その4、パラドキシデス属

これには5つの種類が分類されている。

まず Paradoxides paradoxissimus
スウェーデンのパラドキシデスだが、入手不可ゆえチェコ産で代用。

次に、英国のオレヌス類が3つ続く。
Parabolina spinulosa
Peltura scarabaeoides
Olenus gibbosus

これらは英国産でも小さくて地味で、あまり売っているのを見かけないが、いいのがあったら私は即買いだ。
これらオレヌス類がパラドキシデスに分類されているのはこんにちの目からすると奇異に映るが、パラドキシデスの幼体は意外にオレヌスに似ている。

最後は Lichas laciniatus
これはリカスの模式種で、尾部しか知られていない。
なにかで代用するしかないが、尾部の図をみるかぎり、現在入手可能のリカスでこれに似た尾板をもつものは、ロシアの Metopolichas huebneri しかない。
まあ、これは私の生涯最後の三葉虫として残しておこう。

その5、アグノストゥス属。

これには Agnostus pisiformis の1種のみ分類されている。
これはすでに入手済でミューゼオにもアップした。

最後に所属不明の種が3つあがっている。

1つは Tretaspis granulata
これはスウェーデンのトリヌクレウスで、入手はおそらく困難だ。
チェコの Deanaspis で代用したいところだが、これも最近ではいいものがほとんど見つからない。

次は Encrinurus punctatus
これも不完全体でしか手に入らないだろう。

最後に Trilobites tentaculatus というのがあがっているが、これはそもそも三葉虫かどうか怪しい。
正体不明なのでもちろん入手不可。

長いわりに内容が薄く、画像もなく、しかも読みにくいが、このままアップする。

Author
File

ktr

鉱物と化石の標本を集めています

Default
  • File

    Trilobites

    2023/03/18 - 編集済み

    Brongiartの時代、1800年代初頭に見つかった種類から分類を作った訳で、不完全な標本と手探りの中で作り上げた事を考えると偉業には変わりないですね。この中で、Trilobites tentaculatusというのが何者だったのか気になりますね。偶然ですが、来月4/1upの私の標本は、このリストの中に登場する種類です。

    返信する
    • File

      ktr

      2023/03/19

      T. tentaculatus は、シュロートハイムの1823年の論文が見つからないので、どんなのか分らないですね。
      頭部と胸部の上側だけで、スケッチふうの素描なので、イメージが掴みづらいらしいんですが、そう聞くとますます見たくなります。
      来月の三葉虫、アサフス属のあれかな、という気もしますが、楽しみにしています。

      返信する
  • File

    trilobite.person (orm)

    2023/03/19 - 編集済み

    Trilobites tentaculatusで調べると、1820年のschlotheimによる記載のようですが、同年、他にもTrilobites paradoxusだとか、Trilobites problematicusだとか、Trilobites属を数種記載しているようですね。画像や詳細は出てこず、それ以上の事はさっぱり分かりませんが、三葉虫属とはどんなグループだったのか確かに気になります。
    それにしても、ブロンニャールといえば、キュビエとの古脊椎動物の仕事が有名だという認識でしたが、三葉虫まで手を出すとは手広くて凄いですね。

    返信する
    • File

      ktr

      2023/03/19

      シュロートハイムは自分の記載した三葉虫はぜんぶ Trilobites という名前(属)にしているので、たとえば有名な Ellipsocephalus hoffi も、シュロートハイムの原記載では Trilobites hoffi となっています。
      下記のリンクからおもしろい資料が手に入りますので、よろしければどうぞ。

      https://pubs.usgs.gov/bul/63/report.pdf

      ブロンニャールの三葉虫研究は、地質学との絡みでなされたようですが、なにしろ巨人の仕事なので、片手間でも見るべきものがありますね。

      返信する