はじめてのハミープレップ
初版 2025/01/28 18:15
改訂 2025/01/30 21:57
このたび初めてハミープレップの三葉虫を購入。
ハミープレップとは何ぞや、という人には……
簡単にいえば、モロッコ屈指、どころか世界最高の剖出職人のハミーさん(より正しくはハンミさん)が手がけた三葉虫の総称です。
それらは非常に人気があって、めぼしいのは店頭に出るやいなや即売り切れ。
もちろんミネラルショーやネットオークションでも大人気です。
今回ヤフオクでひとつ落としたので、届いたものをさっそく開けてみました。
最初の感想は、なにこれボロボロやん、というもの。
われながらひどい感想だが、まあ正直なところそんな感じだった。
形はいびつだわ、あちこち剥げてるわで、うーんこれがハミープレップか、と。
そうそう、書き忘れましたが、ものはスカブリスクテルムという種類です。
で、とりあえず尾板まわりが気になったので、ルーペを取り出して眺めてみた。
すると、全体にこまかいゴミやら埃やらが付着したのが拡大されて目に入ってきた。
これはいかんと、さっそく水洗いを敢行。
まあ、水洗いごときで傷むような標本ではないという確信は初めからあった。
で、盛大に水を出して埃やごみを洗い流そうとしたが……
水に濡らすやいなや、三葉虫本体とそのまわりの部分だけ、みごとに水をはじく。
つまるところ、撥水性の何かがそこに塗布されているようなのだ。
これはちょっと意外だった。
最初見た感じでは、まったくそんなふうには見えなかったので。
まあそれはそれとして、存分に水洗いをしたあと、カメラ用のブロアで水分を吹き飛ばす。
こうして雑音成分を取り除いたうえで改めて標本を見ると……
いやこれがなんというか、微妙にすばらしいのです。
絶妙に、ではなく、微妙に……
まず、本体そのものの傷みというのがある。
それは上にも書いた、姿勢のよじれと、ところどころの欠けですね。
そういうのはどう贔屓目に見ても長所とはいいがたい。
しかしここでルーペを取り出して眺めてみます。
そうすると、いろいろとおもしろことがわかってくるのです。
この標本に関して気づいたことを書けば、まず修復が一ヶ所もないこと。
じつに、みごとなまでに、元々あったそのままを保存しています。
そして、たとえば右目の上には、小さい巻貝のようなものがくっついている。
かと思えば、左目の上から胸節につづく間隙に、なにやら楕円形の粒々が散乱している。
この粒々、見ようによっては卵に見えないこともない。
サイズも200ミクロン前後で、トリアルツルスの卵と大きさも似たようなもの。
この標本の横幅の広さからみて、もしこれが雌だったとすると、その頭部に卵をかかえていてもふしぎではない。
ふしぎではないが、そういうものまで剖出されているというのは、異例の事態といわねばなりません。
それから、標本本体と母岩との境目に、黒い輪郭線が見える。
いままでこういうものを見たことがないのですが、標本の輪郭が、全体にわたって墨を打ったように黒い線で表されているのです。
ちょうど、ボッティチェリの絵に、漫画の絵みたいな輪郭線が描かれているのとよく似ている。
これが元からあったものか、ハミーさんが手を加えたのか、私には判断できませんが、少なくともこの線のおかげで、あいまいになりがちな輪郭がともかくもすっきりするという効果がある。
こういう細部を眺めたうえで、ルーペを置いて全体を肉眼で眺めると、また違った趣を感じることができます。
その全体がかもしだす雰囲気(としかいえません)に侵しがたい品格があって、おおげさにいえば気韻のようなものがある。
さらにおおげさにいえば、神品といってもいいでしょう。
じっさい、私のもっている標本のなかにこれを置いてみると、他のものすべてがみるみる色褪せたものに感じられてきます。
この標本の発する気韻に太刀打ちできる標本がひとつもないのです。
これはある意味困ったことです。
母岩の切り出し方や整形にもまた味があって、おそらく直観的にやっているのでしょうけど、母岩までが審美的にみえてくる。
というわけで、微妙なすばらしさから絶妙なすばらしさへ、最初の「なにこれボロボロやん」から「くっそー参ったなこれは」へと感想は変ってしまったのでした。
ちょっと長くなりましたが、まあ興味のない人は読まないし、大丈夫ですよね。
Trilobites
2025/01/29 - 編集済み念願の種類入手おめでとうございますと思ったのですが、文面を見ると工房から入手となっているので、Hammi氏本人が手がけてはいないのだと思います。巣穴氏、ff等、表記を正しく公表している提供元は良くある表現ですね。とは言っても質が劣る訳ではなく、細部の仕上げは他所とは違いは歴然ですから気にする事ではないです。
ktr
2025/01/30すみません、工房の二文字を省略してしまいました。
本来なら「はじめてのハミー工房プレップ」とすべきなんですよね。
それにしても、工房とハミー氏とが別々に稼働しているとは知りませんでした。
総仕上げくらいは彼がやっているのかな、と思っていましたので。
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trilobite.person (orm)
2025/01/29 - 編集済みあれ落とされたんですね、おめでとうございます。
ハミー氏及びその工房の作品の素晴らしい点の一つは、欠けや剥げなどを修復をせずに、そのままにしていることですね。下手に修復をしない事で、生来の傷なども残りますでしょうし。母岩含めた全体的な質感が極めて良いので、多少の欠けがあれど摩耗があれど全然気にならないのですよね、少なくとも私は。またいつかのアップを楽しみにしております。
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ktr
2025/01/30そうですね、非常に学術的でありながら、高度に審美的でもある、ということでしょうか。
私は現物は一個見ただけですけど、なんとなくそんな気がしました。
欠点まで魅力に変えるとしたら、それはもう魔法使いですよね。
今回の標本は先日ヤフオクに出たばかりなので、たぶん見てもたいしておもしろくないと思いますよ。
私としては、卵(?)の写真がうまく撮れたらOKです。
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トリロモト
2025/01/30 - 編集済み落札されたのですね!おめでとうございます。私も参加していました。資金難で攻められなかったのが一番ですが、スカブリスクテルムの話をされていたので、もしやと思い深追いはしませんでした。手に入れられたことで、標本の感想を読めて良かったです。私ではこのように深い話は出来ないので。まるで自分の目の前に標本があるような感覚になりました。ありがとうございます。
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ktr
2025/01/30ありがとうございます。
おかげさまで落札できました。
渋すぎるくらい渋い標本なので、好みは分かれると思いますが、私にはとても気に入りました。
純正ハミープレップでなくても、その片鱗は窺うことができましたしね。
拙文楽しんでいただけたようで嬉しく思います。
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