レモプレウリデスふたたび

初版 2024/07/27 20:21

改訂 2024/08/01 21:24

今回のはレモプレウリデスという三葉虫だ。これは5年以上前に、かなりの出費をして買ったことがある。ところが、買ってすぐにトゲを折ってしまった。まあ小さいトゲだから、気にしないという行き方もあるが、そのトゲを差っ引いても、1㎝というサイズがどうにも満足できず、売り払ってしまった。そのときは、買値の三分の一くらいの値段では売れたんじゃないかな。欠陥商品であるにもかかわらず、けっこうな値段がついたのは、やはり本種が稀少種であることが与って力あったんだろうね。

そのころは、このエロンガトゥスという種が出始めのころで、目新しさもあったんだが、その後ぼつぼつ出てくるようになって、目新しさはなくなった。しかし、出るもののほとんどがエンロールかハーフエンロール、つまり程度の差はあれ丸まったものばかりなのだ。丸まった標本には用がないので見送っていたが、この前、珍しくこれのまっすぐ伸びた標本がオークションに出た。さすがにこれは見送ることができなかった。

今回のものは、かつてのものと比べると、サイズとしては1.5倍くらい。左右でやや撚れているが、ほぼ完全に伸びきっている。これはもしかしたら三葉虫の神様が、私のために用意してくださったものかもしれない。うーむ、どうしよう。どこまで上がるが分らないが、前に買った標本と同じ値段なら、買ってもいいんじゃないか。今は円安で、前と比べると割高感があるが、ドルに換算してみて、前のと同じなら、思い切って買ったらどうだ、という内心の声がきこえた。

こういうのはケチくさい考え方かもしれない。しかし、私としては、前に買ったのよりも安い値段で競り落とされるのを見るのはちょっと残念な気がした。よし、あの値段までなら出そう。そうして過去の失敗を埋めなおそう。

そんなふうに考えて、ぼちぼち入札してみた。そして、結果的には、前に買ったものより(ドル建てで)安い値段で落とすことができた。これでよかったのかわるかったのか。もちろん円に換算すれば、5年前の比ではない。ぶっちゃけ阿呆みたいに高い買い物だ。とはいうものの、やっぱりそこは自分をだましてでも、過去の失敗を取り繕いたいという気持がはたらいた。

いずれにしても、落としてしまったものは仕方がない。心静かに標本の到着を待つことにした。

そうして、ようやっと届いた標本を見たんだが……

まず第一の感想。これがあの値段の標本なの? という驚きとも落胆ともつかない、なんとも拍子抜けしたような気分。たとえサイズが1.5倍増しとはいえ、やはりちっぽけな、貧相といってもいいような標本なのだ。

じっさい、小さくても存在感のある標本というのはある。それはおそらく母岩とのマッチングに由来するものだろう。今回のは母岩とのマッチングはそうわるくないが、全面にべったりと保護剤(?)が塗られていて、もしこれがほんとうの生き物だったら、皮膚呼吸ができないんじゃないか、というくらい、季節柄暑苦しいほどコテコテに塗りたくってある。裏側をみると、なんとも涼やかな感じで、表側とは大違いだ。こういうクールな母岩だったらどんなによかったか。

しかしこの、いまにも折れそうなくらい細いトゲが、その保護剤のおかげで堅牢なものになっているとしたら、私としてはまったく異存はない。異存はないが、しかし、現実的にそんなことがありえないのは、私自身よくわかっている。

それにしても細いトゲだ。本種のトゲってこんなに細かったっけ、というほどのもの。よくこんな細いのをクリーニングしたと感心する。人によっては、こんな小さいトゲなどあってもなくてもいい、と思うだろう。しかしやっぱり本種には、このトゲが必要なのだ。それは、奇妙としかいいようのない頭部に呼応するものとして、実用面はさておき装飾として、この小さいトゲがけっこうな重みをもっていると思うからだ。あってもなくもいい、というようなものではないのだ。

こうして二体目を手に入れてみると、入手当初に感じたチグハグな感じが徐々に収まって、だんだん愛着を覚えるようになったのはありがたい。私のロシア三葉虫のコレクションは、小さいものばかりになってしまって、これでいいのかと思うときもあるけれども、大きいものは高価で手に入らないし、まあ仕方ないんじゃないかと思っている。大きいものはたしかに見栄えはするし、すばらしいけれども、今の私には大味に思えてしまうのも事実だ。箱庭のような、盆栽のようなコレクションという方向性は、今後もしばらくは変らないだろう。

Author
File

ktr

鉱物と化石の標本を集めています

Default
  • File

    trilobite.person (orm)

    2024/07/30 - 編集済み

    ウォッチしておりました。
    ebayで見かけた際は、母岩表面が、こちらに添付の写真よりも赤茶けた印象だったので、不思議な色合いだなと思っていました。ロシアの標本は大抵母岩表面をクリーニングしていると思いますが、これが本来の母岩の色合いなんでしょうかね。
    前にお持ちだった同種標本も大体覚えていますが、写真でみると、今回の標本もとても良い感じに見えます。本種の15mm程度のサイズならば、結構存在感があるように感じるのですが、実際はそうでもないのでしょうか。

    返信する
    • File

      ktr

      2024/07/30

      母岩の色は、もとのサンプル画像のほうが近いと思います。
      私のカメラでは、どうも赤っぽい色が出ないようですね(ウィークス層の赤もうまく出せませんでしたし)。
      これの産出する Kukruse level というのは、ペテルブルクよりもずっとエストニアに近いので、準エストニア産とみなしてもいいと思います。
      初めは「やっぱり小さいな」という感じでしたが、眺めているうちにだんだんとサイズが大きく感じられるようになったのはふしぎです。
      やっぱり買っておいてよかったと思いますね。

      返信する
  • File

    Trilobites

    2024/08/01 - 編集済み

    これ私も狙ってました。もしかしたら$1000以内で落札できるかもという推移でしたからね。本種は、「TRILOBITI」の表紙にもなっているので、真直ぐ伸びた個体はコレクターなら誰もが欲しがると思います。小ささは、写真で観察すれば良いので、破損だけはしないように気を付けてください。

    返信する
    • File

      ktr

      2024/08/01

      そうだったんですか、まったく気づきませんでしたが・・・
      本種は丸まっていると、トゲが必要以上に出っ張る格好になって、見ていてハラハラするので、多少地味でも、まっすぐの個体が欲しいと思っていました。
      トゲには気をつけていますが、先のことはわかりません。
      今度やらかしたら、もう引退ですね。

      返信する