角川書店 角川文庫 山名耕作の不思議な生活

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昭和五十二年二月十五日 初版発行
昭和五十二年三月三十日 再版発行
発行所 株式会社角川書店

昭和2年(1927年)に雑誌「大衆文芸」に掲載された横溝正史の短編小説「山名耕作の不思議な生活」。
千住にある、今にも倒壊しそうな家に下宿する新聞記者の山名耕作。極端に切り詰めた生活をしながらも、身だしなみには人一倍気を遣っている風変わりなこの男には、どうやらある目的があるらしかった。彼の目的とは一体...?
純粋なミステリーとは異なりますが、江戸川乱歩がいうところの“奇妙な味”とでも呼ぶべき作品ですね。他人から「横溝」と呼ばれている人物の一人称という体裁をとっているこの物語、その「横溝」が山名耕作の留守中に部屋に上がり、引き出しの中に女性からと思われる手紙の束を見つけるところからグッと面白くなりますが、手紙の送り主の正体はちょっとゾッとするものでした。そしてラスト、他人からすれば何とも幸福としか思えない出来事が山名耕作にとってはこの上ない不幸という、何とも逆説的な終わり方が印象的でした。本書には表題作の他に「鈴木と河越の話」「ネクタイ綺譚」「夫婦書簡分」「あ・てる・てえる・ふいるむ」「角男」「川越雄作の不思議な旅館」「双生児」「片腕」「ある女装冒険者の話」「秋の挿話」「二人の未亡人」「カリオストロ夫人」「丹夫人の化粧台」の短編13編が併録されています。いずれも昭和一桁の時代に執筆された作品で、大正期の作品集「恐ろしき四月馬鹿(エイプリル・フール)」よりも作風はバラエティに富み、ストーリーテリングも巧みになっているように思います。角川文庫には昭和52年(1977年)に収録されました。
画像は昭和52年(1977年)に角川書店より刊行された「角川文庫 山名耕作の不思議な生活」です。黒いガウンを羽織り、煙草を燻らせているマダム風の女。こちらもモチーフは不明瞭ですが、しいて挙げるならば「カリオストロ夫人」でしょうか。年齢不詳の妖しさが「カリオストロ夫人」の志摩夫人を彷彿させます。

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