上原勇七商店水晶部 印傳・水晶印材価格一覧表

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明治〜昭和初期頃、山梨県で販売が盛んだった水晶印材と、印伝、その価格表になります。改正が明治四十一年、と書いてありますから、発行は大正時代のものでしょうか。

水晶の印材は言うまでもなく、山梨県の得意分野。印伝というのは、鹿の革に漆を塗り、独特の和洋柄に仕立てた甲州特産の革細工です。昔から県内の二大工芸品を一緒に販売している店があったようです。

この表にある「上原勇七商店」というのは現在でも営業をしている、「印傳屋 上原勇七」様。流石に水晶の販売はないようですが、印伝販売店としては歴史の長い店舗だそうで、14代も続いているとのこと。

さて、この表には何が書いてあるのでしょうか。
現代の漢字を使って表してみます。

ここでは、明治37年の蕎麦が二銭、あんぱんが一銭だったことを参考に、現代の金額に算定してみます。あんぱんはサイズや値段がまちまちですので、ここでは考慮せず。駅前の立ち食いそばをしばしば食べている私としては、かけそばが馴染みあるのでそちらを考えてみます。今のかけそばは税込み一杯380円ほどでしょうか。となると、この表の当時の一銭は概ね200円と考えて良さそうです。

一銭→200円
壹円→20000円

1〜4枚目、鹿のイラストがある面は「印伝煙草入れ 並びに 紙入れ価格表 明治41年8月改正」。
それぞれの部門を見てみると、右上の「壹番形角煙草入」は極上で臺円丗五銭→1円35銭。現代だと27000円と、極めて高価。私も印伝の入れ物を持っていますが、4000円程度でした。記載されている壹番、一番というのは型番でしょうか。
その下、「供紐壹番形」は壹円拾銭→1円10銭。現代だと22000円。供紐は今で言うストラップで、印傳屋上原勇七様で現在でも同名で販売しています。

他、紙入れ、銭入れもそれぞれ価格が表示されています。紙入れは名刺入れか?銭入れは小銭入れ、がま口だとすると、極上で四拾銭→40銭、8000円。がま口だと高い気もしますが、高級財布と考えると妥当でしょうか。横六寸、丈一尺三寸→18cm、39cmという大形財布という商品は、壹円三拾五銭→1円35銭≒27000円。今で言うアタッシュケースのようなものでしょうか。鹿の革であしらわれているなら妥当かもしれませんね。

5〜8枚目、裏側は水晶の印材価格。印材の部では、角三分五厘≒11.1mm、長さ一寸≒3cmのものが四拾銭→40銭、現代だと8000円。

高額のものだと、角四分≒12mm、長さ二寸≒6cmで壹円七拾五銭→1円75銭、現代だと35000円。最高額は角五分≒15mm、長さ二寸≒6cmで貮円三十五銭→2円35銭≒47000円。乙女鉱山の水晶を使っていると考えると、10cmを超え、かつ透明なものを加工するなら、この金額も分かる気もします。今より上質な水晶が山程採られていた(当時でも枯渇したと言われつつも)としても、とても高級なものです。現代の水晶の印材は海外から仕入れたものを使えば、3000円程度で購入できます。素材にこだわらないなら現代は安価なはんこ。逆に現代の印鑑文化が形骸化しているため、安すぎるのかもしれませんが。仕事柄毎日はんこを使いますが、シャチハタで110円で手に入りますからね。

この印材を手に入れた後、待っているのは篆刻。つまり名前を彫る作業です。篆刻費用も価格が書いてあり、「壹字ニ付」極上は貮拾五銭、上等は貮拾銭、並は拾五銭。それぞれ5000円、4000円、3000円。単純に並で「佐藤」と掘るなら6000円で行けますね。

隣にある眼鏡の篆刻というのはよく分かりません。水晶を使った眼鏡も存在はしていますが、明治時代の芸術工芸品として200万円で売られているのを見たことがあります。どこかで安く手に入るのであれば何か分かるかも。面白いのが、その更に隣にある「文房具類、床飾、置物類」を沢山取り揃えているが〜、という部分。つまり水晶のトッコ、クラスターを販売していたようです。値段はまちまちでしょうから、価格を載せられなかったんですね。

水晶小間物の部では、他の水晶関連の価格が書いてあります。
中差:50銭〜1円20銭(10000〜24000円)
かんざし:22銭〜1円(4400〜20000円)
くし:3円〜8円(60000〜160000円)
数珠:10円〜20円(200000〜400000円)
身延山が近い甲府ですから、ここで数珠も作成しているのは想像に難くないですが、極めて高い…今で言う何ミリ玉を作るのか?試しに身延山の関連ショップで数珠を見てみますと、8mmほどの大きさ。玉数50は優に超えるでしょうから、加工の手間を考えるとそのくらいが妥当なのでしょう。

長くなりましたが、最後に水晶の部のコメントを訳してみると、面白いことがわかりました。現代仮名遣いにして書きますと、
「右大略値段申し上げ候本品は至って多数の種類かつまた原石の優劣により値段も一定致さず候。なお右定価表以外の安物も沢山これありそうらえどもすべて草入りなどのみにこれありそうろう」

つまり、バッタリ鉱山や竹森で採られたような内包物のある水晶は安物扱いだったようです。かえって本物の水晶だと分かるために高価だと聞いたこともありましたが、店によって異なっていたようですね。

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