A NIGHT IN TUNISIA / 1957年のジャズ・メッセンジャーズ

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このビクター版「チュニジアの夜」のライナーノーツには、
「……この時期のメッセンジャーズは『暗黒時代』と呼ばれる低迷期にあった」となっているではないか! 
ア・ン・コ・ク・・ジダイ~!!!
再発された’74年当時、この盤は1300円の廉価シリーズとして出ていて、購入しやすかったのだ。
「さては不人気盤の投げ売り、ハズレを引かされたのか?」……と落胆して見捨てたかというと、実はそうでもなく、繰り返し聞き込んだ。
ひな鳥が卵からかえって最初に見たものを親だと思い込む刷り込み現象、本能行動のようなものだろうか、今でも好きで結構聴いている。

では「暗黒時代」なんて一体誰が何を根拠に云ったのか、というと
云ったのは、今は亡きジャズ評論家の油井正一氏その人。
このビクター盤のライナーが動かぬ証拠だろう。
「メンバーが若手中心で決定的スター不在、録音先レーベルも次々に変わり落ち着いた演奏活動が出来なかった」などというのがその理由となっている。
私は今でも油井さんのファンである。それでもレコードを聴く限り「暗黒時代」はちょいと言い過ぎじゃないの?と思う。
大物批評家もつい筆が滑ったか、それとも案外、逆効果を狙っての煽り発言だったのかもしれない。確かに行間からは支持するニュアンスが滲み出ているからだ。
ま、いずれにせよもう時効ということだろう。

ジャズ界の名門バンドであり、幾多のスタープレイヤーを輩出し続けたメッセンジャーズ。
その35年の歴史には好不調の波、山も谷もあって当然だろう。
今では油井さんの呪縛も解かれ、ジャッキー・マクリーン、ビル・ハードマン、ジョニー・グリフィンのいたこの時期の録音も、典型的ハードバップの名演奏と再評価されているのが嬉しい。

ホレス・シルバーのいた初期、58年「モーニン」のファンキー時代、ショーターほか3管編成時代、など絶頂期のものついて今更私が付け足すことはない。
ジャズの聴き始め、お金もなかった私には、安くてありがたかった「暗黒時代もの」、ジャズにまつわる個人的原風景にも似た1957年のアート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズの録音こそ、谷間に咲いた百合のように、今も心に残る傑作ばかりだと思っている。
(同メンバーによる「TOUGH!」のSide1など懐かしさにウルウルしそうなのである、はい。)

#アート・ブレイキー #ジャズメッセンジャーズ

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